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虫食い姫は隣国の王太子殿下から逃れたい。  作者: 幽八花あかね
隣国の王太子殿下から逃れたい。2章

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14. 認識のずれ 「子どもができてしまったらどうするのですか?」

【注意要素】

R15な会話と状況



 優しく、柔らかく、体が触れ合う。安心感を覚えながら、同時にそんな感情に対する嫌な気分も覚えた。


「まだ、痛むか?」

「……少し痛みますが、酷くはありません」


 依然として胸は痛んでいるが、酷かったときと比べると随分と和らいだ。これくらいなら、大丈夫な気がする。こうして抱き合ってさえいれば、これ以上変に誘惑なんてしなくても耐えられると思う。


「そうか。うん。ならばとりあえずこの状態でいよう、か。あ、でも…………」

「……どうなさいました?」


 黙ってしまったサイードを見上げると、ふわりとまた血の匂いを感じた。何処からなのかと考えていると、自分の手がぬるりとしていることに気づく。

 先程強く爪を立てたせいで、どうやら手のひらが切れてしまったらしい。


 手を洗いたいな――なんて考えていると、優しかったはずの手がいきなり強く腰を抱き寄せた。その手がゆっくりと臀部でんぶまで下り、エリエノールを抱え上げる。


「あの、殿、下……?」

「ベッドの上で、抱きたい」


 耳元で色気のある低い声が囁き、どさりとベッドに下ろされた。サイードがエリエノールに覆い被さる体勢となる。


「……はい?」


 その衝撃的な展開に、唖然として固まった。そしてサイードも固まる。


(ベッド……?)


 何故にベッドなのだろう。まさか、これから狼さんになるつもりなのだろうか。男の人が狼さんになるのは、大抵ベッドの上でだと聞く。やはり食べられてしまうのだろうか。やはり痛い目に遭うのだろうか。どうせ食べるなら痛くないようにひと思いにやってはくれないだろうか。


 そんなことをもやもやと考えていると、サイードががばっと顔を上げた。焦ったように喋り始める彼の頬は、微かに赤い。


「違う! 口が。口と、体が、勝手に動いたのだ! 本当だ。言い訳ではない! 僕の意思じゃない! 僕はそんな、女の子に無理やり手を出すような不埒な男ではない!」


「あ、はい」


 あまりに必死な様子だったので、それ以上の言葉を返すことができなかった。


「別に、何かしようってわけではなく。変なことは決して考えていない。ただ……先程言ったように、抱擁だけ、だ。ほら、立っていると疲れるだろう? 今は九時くらいだが、人目を考えると外に出られるのは二時過ぎだし……そう、何時間も立っているのは、足が痛い。その、決して、下心はないんだぞ? 楽なのが、ベッドの上だから。だから、ベッドの上に、そう」


 しどろもどろと、たいへん長い言い訳をするサイード。


 この言葉から考えるに彼は、ベッドの上に移動したのはそれが楽だからであり、するのは抱擁だけだから問題ないと主張したいのだろう。


 だが、どう考えても大きな問題がある。サイードの顔を見上げ、単純な疑問を口にした。


「……子どもができてしまったらどうするのですか?」

「はぁっ!? な、何を言ってるんだ!?」


 ぼんっとサイードの頬が、一瞬にして真っ赤に染まった。サイードが思い切り起き上がり、ふたりの体が完全に離れる。再びずきんと激しく胸が痛んだ。


(離れたら、また……)


 痛みへの恐怖に突き動かされて、自らサイードに擦り寄ってぎゅっと抱きしめた。魔法のせいでやはり、いつもはできないようなことができてしまう。


 エリエノールが触れると、サイードは驚いたように体をびくりとさせた。彼の心臓がドクドク言っている音が、よく聞こえる。


「姫。こういうのは、その……良くないぞ。魔法のことは分かっているが、だとしても……こういうのは、まずい」


「……なんで、離れたんですか? 離れたら痛いのに……」


「それは、ごめん。でも、き、君が、変なことを言うから。……僕がベッドの上に来たのは……君の体を、案じてのことだ。君は体調が良くないだろうから、横になっていた方が良いのではないか、と」


「じゃあ、とりあえず横になってあげます。話はそれからです」


 サイードは大きくため息をついた。何故ため息をつかれたのだろうと思いながら、ふたりで軽く抱きしめ合う体勢でベッドの上に寝転がる。


「はい、殿下のおっしゃった通り横になりました」

「そうだな。これ以上は何もしない」

「質問に答えていただけますか?」

「……何に?」


 ついさっき聞いたことなのに、もう忘れてしまったらしい。それとも、質問の意味が通じなかったのだろうか。


「……だから、赤ちゃんができちゃったら、どうするんですか?」


 これなら通じるだろうかと、少しだけ言い回しを変えてみた。サイードは頬を赤らめたまま、ぽかんとしている。


「……だから、どうするも何も、僕からは本当に何もしないぞ? 許可なく触れたりもしない、変なことはしない。抱きしめるのはあくまでも君の苦痛を和らげるためで、服従の魔法が解けたら離れるし、ちゃんと人目につかない時間になったら男子寮から出してやるから」


「それは、先程も聞きました」


「では、君は何に答えろと?」


 なんだろう、何かが噛み合っていない気がする。


「……変なことって、何のことを言ってます?」

「……君こそ、子どもがどうやってできるものだと思っているのだ?」


 ふたりでぽかんとして、互いに質問をする。もしかしたら、エリエノールとサイードの話は何処かで食い違ってしまっていたのかもしれない。だからとりあえず、それを解決するべくエリエノールが問いに答えることにした。


「もちろん、男女が一緒にベッドに入ったらです。男の人と女の人が一緒にベッドに入ると、低確率で赤ちゃんができます」


「まあ、間違いではないな」


「だから、わたくしたちがこうして一緒にベッドに入っていると赤ちゃんができてしまうかもしれませんよね? わたくしは女で、殿下は男の人ですから」


「いや、だから。なぜ僕らが事に及ぶ前提になっているのだ?」


「こと……? って、なんですか?」


「事に及ぶ」の意味がてんで分からず、きょとんとサイードを見上げる。いったい何をする前提だと彼は思っているのだろう。


「まさか、本当に知らないのか? 子どもをつくるときに、男女がベッドの中で何をしているのか」


「……? ベッドの中なんて、一緒に寝ているだけではないのですか? 裸でハグしてキスしてから寝ると確率が上がるのですよね? わたくしは、その、今は殿下のローブの下はあれですし、ハグもするなら、確率が上がってしまうので……。もしできたらどうするのかな……と、お聞きした次第です」


 男女が一緒にベッドに入ると子どもができる可能性があり、裸でハグしてキスもするとその確率が上がる。以前本で読んだことで、これがエリエノールの知っている子づくりの知識だ。


 だからエリエノールとサイードが一緒にベッドに入っていれば、子どもができる可能性がある。


 ――が、どうやらエリエノールの認識は何かおかしかったらしい。サイードが、ものすごく困ったような顔をしている。彼は小さな子に言い聞かせるように、ゆっくりと話し始めた。


「……あのな、姫」


「はい、殿下」


「子どもは単に一緒にベッドに入るだけではできないし、裸もハグもキスも、別にそれが確率を上げているわけではないと思うぞ。なんと言うか……子どもをつくろうとするときに裸であることが多くて、その過程でハグやキスをすることが多いというだけだ。だから……いま僕らがこうしてハグして横になっているだけでは、絶対に子どもはできない」


 驚いた。今までのエリエノールの子づくり知識は、本で読んだことなのに何故か間違っていたらしい。エリエノールの読み間違えだったのだろうか、あるいはその本が説明を簡略化しすぎたとかだろうか。


「じゃあ、本当に赤ちゃんはできないのですか?」

「絶対に、できない。誓おう」


 子づくり知識が間違っていた理由はよく分からないが、何にせよサイードとエリエノールの子どもはできないようだ。それなら良かった。


 それは良いとして、問題はもうひとつある。


「なるほど、勉強になります。……ところで、殿下は狼さんになりますか?」

「先程から何度も言っている。ならない」

「……まだ一度も聞いてなかったですよ?」

「……なら一応聞いておくが、その〝狼さん〟とはどういうものだ?」


 ならないと言い切った後に何なのか聞くなんて不思議だ。狼さんが何だか知らないままで答えたのだろうか。知らないくせにいい加減に答えたのだろうか。


 そんなことを思いながら、エリエノールは本で読んだ狼さんの情報を口にした。


「男の人の多くは、女の人に誘惑されると狼さんになってしまいます。狼さんになるのはたいていベッドの上ですが、突然狼さんになる人も稀にいます。狼さんは痛いことをしてきて、最後には女の子を食べてしまいます。狼さん以外にも、たまに女の子でも女の子を食べようとする人がいて、そのように食べられそうになることを〝貞操の危機〟と言います。貞操の危機になったら悲鳴を上げて助けを呼びましょう」


「……ちなみに、ここでの『食べる』の意味は?」


 そう尋ねるサイードは、それはそれは疲れていそうな表情をしていた。狼さんの説明が長すぎたせいだろうか。


「『食べる』に『食べる』以外の意味があるのですか? 狼さんは人のお肉を食べるんですよ。生きている女の人に直接かぶりついて……想像しただけで痛そうです。でも人肉はそんなに美味しくないらしくて、雑食動物じゃなくて草食動物のお肉の方が――」


「なるほど、理解した。君は本当に箱入りなんだな」

「え、つまり馬鹿ってことですか?」


 肉についての説明は、最後まで聞かれることなくバサリと切られた。ジャンとの勉強会のときにも実は少し思ったが、エリエノールは本の内容を要約することを覚えないといけないのかもしれない。話が長いと最後まで聞いてもらえないことがままあるのだ。


「違う。いや、違くはないか。頭は良いのに、何故そんなに知識が偏ってしまったのか……」

「そ、そんなに変でしたか……?」

「君の性知識の程度は、はっきり言って一桁の歳のおこちゃま並だ」


 成人祭での「おちびちゃん」に引き続き、今度は「おこちゃま」と言われた。そんなにもそんなにも、エリエノールは容姿も精神的にも小さな子のようなのだろうか。


 エリエノールだって、一応は十五歳だ。あと一年もせずに成人して、大人の仲間入りだ。


 サイードの方が数ヶ月誕生日が早いからと言って、こんなふうに侮られては面白くない。


「じゃあ、さっきの、『変なこと』とか『事に及ぶ』っていうのはどういう意味なんですか? 結局赤ちゃんはどうしたらできるんですか?」


「……それを、僕に聞くか? しかもベッドの上で?」


「殿下が教えてくださらないなら、今度ジャン様にお聞きします」

「駄目だ。ならば今日僕が教えよう――」



  

 そういうわけで、サイードは根気強く丁寧に、ほとんど無知なエリエノールに〝子どものつくり方〟について説明をしてくれた。

 


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