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前の席の方の画力について

 疑問です。

 青春とは、()()でしょうか?




 このような状況ですが、検討つかないので定義や語源から推し量ってみましょう。

 とはいえ、定義は知りません。

 なので、言葉から考えます。


 木火土金水の五元素にいろんなものを当てはめてみましたー、という昔の中国で成立した思想の一つ、陰陽五行説が由来でしたね。例をあげると、木には、色は青、季節は春が該当します。

 ここから、木の青春、火の朱夏、金の白秋、水の玄冬、と。元は四季を表す言葉でしたが、転じて今では人生の時期を表現するのに使われていますよね。仲間外れの土はかわいそうですが、一度、置いておきます。


 この中でもよく耳にする 青春 は、わたしたちくらいの世代を指しています。孔子も『論語』にて「学を志す」時期と説いていますよね、確か。 あ。わたし、読書します。人間なので☆


 おっと、話を戻しますね。

 時期を考えると、青春と学生時代は重なっています。ちょうど、今なのです。「今しかできないことをやりなさい」云々と、壇上にて好々爺な校長先生がおっしゃったのが、十数分前のことです。

 今しかできないこととは、つまり、この十代という若さがあるからできることを指しているのでしょう。十代の熱量、すごいらしいのですよ。わたしがこれなので実情は知りませんが、おそらく一般的にはすごいのでしょう。そうでなければ、かの好々爺殿が私たちへの寿ぎに選択した理由がわかりませんからね。


 では。


 それは――今しかできないこととは、この目の前に差し出された未知に手を伸ばすことで達成されるのしょうか。


「ダメかな?」


 さてさて、首をかしげている彼にどのように対応すれば良いのでしょう。断り方は分かりませんし、OKの意をこめてページの空欄を机前方へ差し出しました。


「お、やった。ね、何かいていいの? なんでもいいの?」


 楽しそうにシャーペンの芯を繰り出す彼に、にこにこしておきます。

 ご存じでしょうか?

 学生として学校に通っている以上、人間と関わるしかないんです。わたしも一応、人間の造形を保っているので人間のくくりの中にいる生物です。しかし、人間って複雑で難しいんです。

 人間として生きることに向いてないなーって思いますけど、まあ、生きる分には大きな問題はありません。


「よし、かけた! 何かわかる?」


 彼は書いたものを自慢げに指定していらっしゃいます。

 さあ、何でしょう。

 地球外生命体か創作生物でしょうか。それとも、謎の新生成物?


「うちの犬」


 ……わぁ。そうでしたか。ほーぅ、そうきますか。なるほど。彼の中で、これは犬さんなんですね。

 試しに、こちらの生物の近くに わん と書いてみましょう。ええ。犬さんですからね、こちらの地球外生命体さんは。

 おっと、待ってください。

 書いてみて気が付いたのですが にゃー の方が適しているような気がしなくもないです。こちらの生命体さん、しっぽが長くて耳が上にピンとしていますから。


 ……おやや?

 それだけなら猫さんである必要はありません。ブルドッグや牧羊犬etc.でなければしっぽが長いこともありますし、柴犬やパピヨンやシェトランドシープドッグetc.であれば、耳は上にピンとしていますからね。

 おそらく、彼によって描かれたのは、そういう犬さんなのでしょう。

 そのような結論が出ると、この奇怪なイラストが少しずつ……犬さんに見えてこないこともないような気がしなくもありません。

 犬種特定の壁が高すぎます。


「あれ、もしかして犬に見えない?」


 わぁ。ピンポイントなご明察です。まったくもってその通りでございます。

 とりあえず、にこにこしておきます。残念。苦笑に近くなってしまったのは、防げませんでした。

 彼はたいして気に留めていないようですけど。


「シベリアンハスキーってわかる? めっちゃでかい犬でね、……」


 おー。

 ふむ?

 特徴をとらえていないわけではない気がします。どのようにすれば改善を……いえ、これが完成形ですかね。直すところがわかりませんから治せません。むしろ、絶妙な絵画なのでしょう。近い将来、ピカソの生まれ変わりと称されるかもしれません。

 それにしても、犬さんって良いですよね。温かくて賢くて。お世話は大変なのでしょうが、一緒にいてくれる大切な存在になってくださるのでしょう。はるか昔から人間のパートナーですし、有能ですよね。さすがはお犬さまです。

 ん。ふと伯父宅の猫さんが頭に浮かびました。犬さんがいるなら猫さんもいらっしゃいませ、ということですね。I'm pleased to receive your request. Noted with thank you!

 そういうことですから、犬さん。お隣、失礼いたします。


「お、猫だねー!」


 ほう、なるほどです。

 彼は、感覚がおかしいのではなく、ただ絵心が壊滅的なだけみたいですね。一安心です。ノートスペース見開きを動物園にした甲斐がありました。



 帰宅途中、並木の薄紅色の陰で新緑が顔を出していました。

 久しぶりの日本なのでもっと花弁を堪能したかったですが、これは来年にとっておきましょう。

 ちなみに、担任の先生からのお話や必要な書類などの配布が完了し、入学式の一日はおしまいです。

 うさぎさんとふれあいたいと生徒手帳の白紙ページに描いているところ、突然「何してるの? あ、うさぎ? 俺も何か描いていい?」と話しかけられたので驚きました。彼の…………彼は、五〇音順でツユリウタの直前になり得るお名前です。

 お尋ねするべきだったでしょうか。あ、そういえば自己紹介もしませんでした。話す必要がないのは願ったりかなったりですが、わたしが折れるべき狭いエリアですからね。

 機会があれば、しましょう。

 ぜひとも、機会があれば。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] もしかして文学青年ですか?なんか作風がそんな感じです。 [一言] 好きかも。こんな作品。
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