何れカラメル焦がすまで
午前4時20分。
今は6月の半ばだろうか。
PCの熱も相まってうだるような暑さの中、リビングへ水を飲みに向かう。
冷蔵庫には野菜ジュース、麦茶、牛乳などが揃っていたが、
洗ったガラスのコップを使うのはためらわれた為、蛇口から直接水道水を飲む。
自室へ帰る途中、ふと思い出し、妹の部屋に行く。
妹は寝ていた。
寝顔を10秒だか見つめて、自室へ戻る。
ここのところの日課になっていた。いや、毎日ではないが…。
きっかけは5月のことだったと思う。
親の教育が厳しくて、毎日を楽しく生きることだけを考え、遊び惚ける日々。
そのせいで志望していた公立高校に落ち、私立高校へ。
努力にも才能ってあるのではないだろうか?言い訳だらけの人生に、ひとつ光明を見出したい。
自分は正しいって。間違ってなんてないって。嘘でも良いから誰か言ってほしい。
そんな話はさておき、中学の友達と離れ離れになった俺は、みじめな高校生活を送っている。
精神的には中学よりましな人間ばかりだけれど、いじめ…みたいなのは多少あった。
と言っても、俺が体験したのはひとつだけ。
朝、登校したときに、下駄箱に手紙が入っていた。
よくある長方形で、差出人無記名。んでクローバーのシール。
俺ははやる気持ちを抑えつつ、それをカバンに仕舞い、何食わぬ態度で教室へ。
そして1時限目の、皆が黒板に注目しているそのタイミングで、教科書を立てて、こっそり手紙を読んだ。
内容はこうだった。「放課後、屋上に来て下さい。」
告白ではないかと思ったが、よく考えたら俺は帰宅部だし、成績は中の上だし、スポーツ下手だし、惚れる要素がない。
期待3割、失望7割、ほろ苦ブレンドで、気持ちを切り替えた。
そして放課後、一般開放されている屋上へ向かう。
「あ、やっぱ来たわ」
そこには2組の男子が数名と、ギャルっぽい女が1人いた。
ああそうだよな、と思った。が、
「ごめんねー君、間違えたみたい」えっ。
「だから確認しろって言ったのに」「わりー」
どうやら別の人にラブレター、それもガチのやつを入れる予定のようだった。
いじめではなかった。むしろ良い人たちだった。
ただ、帰るタイミングを計っているうちに、ギャルの告白の練習みたいなのに付き合わされた。
それで会話するうちに、一つの感情が芽生えた。
この女はないな、と。
悪い癖だと思う。さっき言った通り成績普通だし、運動下手だし、友達いないしで、この私立高校において俺の存在価値なんて無いに等しい。
そんな人間がどうやってプライドとか精神を保つか知ってる?他人を見下すことさ。
放課後に友達とマ〇ドナ〇ドとか行って駄弁る奴。(昔やってたけど)
テストの成績みせっこして勉強会する奴。
運動部で全国とか目指す奴、学食とか行く奴、カラオケ、ゲーセン、合コン、あとナンパ。
みんな別世界の人間だと思った。才能と行動力、この世界ではそれが全てだ。
金なんて親次第、愛なんて行動次第。自由は彼らにこそふさわしい。
自分にはもらえないんやなって。見下されてんのは俺の方やなって。
「パパー、劣等感が服着て歩いてるよ」
せめて笑うなよって。今はそれだけ考えて生きてる。
話を戻そう。
ギャルが自分にふさわしいかはさておき、妹には及ばない人種だと思った。失礼ながら。
まず黒髪。ロングこそ至高。(個人の感想です)
ツインテ、ツーサイドアップ、ポニテ、お団子、ウェーブ、なんにでもなれる。
しかも奨学金を借りるくらい成績もよかった。当然公立高校だし、スポーツも出来るし、ゲーム上手いし、友達多いし。
気配り上手だし、肌綺麗だし、髪も綺麗だし、何着ても似合うし、八重歯可愛いし、最強だった。
強いて言えば、まだ料理が下手なのと、身体の発達が遅いことぐらいか。
天は二物を与えずというが(誤用)、何故兄妹でここまで差がつくのだろう。
うちの家は、父親がギャンブルで借金抱えて、離婚してから俺が14歳になるまでは母親が一人で俺を育ててきた。
借金といっても大したことはなくて、恐らくもう完済したのだろうが、そのせいで裕福な家ではなかった。今も。
で、俺が14歳のころに、母が再婚した。年収より人柄に惚れたという。当たり前だけど。
その時に出会ったのが、再婚相手の娘、俺の妹だった。義妹というべきか。
そんなわけで、賢い妹の存在は、母から見てさぞありがたいことだろう。俺と違って。
あれから2年。んでさっきの告白事件が先月。
初めて会ったとき、俺はコミュ障じゃないし人見知りでもないのだが(嘘つけ)、何というかまぶしくて目を合わせられなかった。
上品な佇まいとか、丁寧な態度とか、貴族かよって。
今でこそ崩した態度なものの、緊張することに変わりはない。
そんなん意識しないわけがなかった。しかもこっちの家で共同生活て。
いまだにまともな会話できなくて、寝顔ぐらいしか顔が見れないという有様。
でも、もしかしたら、やっていけるかもしれない。告白事件を経て、今日は初めてそう思った。
俺は休日に寝溜めをするから、いっつもこの日曜は早朝も起きてるのだが、それだと月曜がつらいので、いい加減直したいと思いつつ、まだ寝れないのでPCでネトゲーをする。
午前8時、妹が起きる。俺は今起きた体を装い、10分遅れでリビングへ向かう。(クマはばれてないはず)
「おはよー」「おはよう」母も義父も起きていた。
そこで会話は途絶えた。気のせいか妹に見られている気がする。母が朝食を用意する音だけが響く。
義父は新聞を読んでいた。妹はスマホ。俺は空気に耐え切れず近くにあったリモコンでテレビをつける。
っていうか貴族でもスマホいじるんだね。
「おはようございます。時刻は8時15分。今朝は気持ちの良い晴れです」
「そういえば」妹が口を開く。
「9月の修学旅行、千葉になるって」義父はへーと返す。
「あ、俺のところも…ディ〇ニー行くって」学校は違うが行き先は同じのようだったのでそう告げた。
「ホント!?」嬉しそうに妹は、驚いていた。
「お、おう」「じゃあ会えるかもね!お兄ちゃん」
何なんだよ。なんでそんな嬉しそうなんだ。っていうかお兄ちゃんて。2年経って初めて言われたぞそんなの。
俺って奴は、思ったより単純なのかもしれない。
2
自分が気持ち悪い人間だということはそれはもう存分に理解しているつもりだった。
ましてや妹に対しては。
「はーい番号順に並んで」教師の問いかけに、気だるそうに生徒たちは並び始める。
「じゃあ出発します」バスを降りてここからは歩き。修学旅行初日は千葉近郊の歴史的文化遺産とか巡り。
はっきり言ってまったく興味がなかった。しかも団体行動。
とくに感慨もなく周り、生徒たちはスマホで写真を撮り、初日終了。
男子のグループ数名で相部屋なので、知ってる人がいるわけもなく、俺は露天風呂は行かずに部屋の風呂に入って、あとは雑魚寝。
俺以外の男子達は夜遅くまで盛り上がっていたが、俺は疲れたので寝た。
2日目、自由行動。誰かと約束をしているわけでもなく、一人で千葉を周る。
方向音痴なのでスマホとモバイルバッテリー必須だったが、気楽だった。
夜は生徒全員ディ〇ニー集合で、ワンデーナイトパス?で安いようだった。しかも団体割。
「じゃあ21時までにまたここに集合してくださーい」
「おっしゃどこ行く何乗る!?」みんなはしゃいでいた。荷物チェックされながら一人ずつゲートを通っていく。
園内に入った後はやはり、一人だった。当然か。
アトラクションでも乗ろうかと考えつつ、お土産も買わないとな、とガイドマップを見ていると、同じく一人身を見つけた。
「蒔乃…?」妹だった。どうしたんだ、と問う間もなく。
「美希が…ね、一緒に周れなくなったって」
「そうか…俺一人だから、一緒に周るか?」
「うん…」
暗い顔を見るのは初めてだった。パレード目当ての客で混んできて、俺たちは自然と手をつないだ。
その後アトラクションにいくつか乗れたが、妹は無理して笑ってて、俺は内心泣きそうだった。
21時前に俺たちは別れて、その日はずっとモヤモヤしていた。
このもやは何だろう?いや、答えはとっくにわかっていた。
次の日、帰宅後、疲れてたけど、俺は母に「妹を守りたい」と、想いを告げた。(妹はまだ帰っていなかった)
でも、やんわりと告げたはずなのに、誤解されたようだった。いや、誤解ではないのか。
「え?駄目。シスコンやめて消えて。消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて消えて」
母は夜勤明けだった。BPM140のペースで俺の存在の消滅を願う母に対し、俺は恐怖よりも拒絶されたショックで気が動転していた。
いやむしろ、何故受け入れられると思っていたのだろう。自惚れにもほどがある。
そこにあろうことか義父は、追い打ちをかけた。
「義路くん…兄妹でってのは、どうかと思うな」
「…すいません」
▶にげだす
たたかう
俺は自室に戻り、全財産と、貴重品諸々を持ち、妹が帰る前に家を出た。
夏休みの間に、P〇3を買うためにバイトしてたので、多少の金はあった。
人生で初めての、家出だった。
3
当てもなく彷徨い、気づけば午前2時だった。
そこでようやく疲労と空腹を感じ、せめて夕飯だけでも食っときゃ良かったと思い、コンビニでパンを買った。
公園かどこかの適当なベンチに座り、パンをかじると、涙が止まらなかった。
食べ終わって目をつぶると、いつのまにか寝ていた。
次の日になって、帰ろうかと思いつつも、ほとぼりが冷めるまではと、また遠くを目指した。
どこまで行けば許されるんだろう。歩く必要はないんじゃないか。そう気づいてからはずっと休んでいた気がする。
仮に許されたとしても、認められなければ意味がないのに。
ここで久しぶりにスマホを見た。義父と妹から着信が大量に来ていた。
俺はスマホを川に投げ捨てて、また歩いた。モバイルバッテリーも捨てた。
次の日、電車のほうがはやいとおもって、すいかでかいさつをとおった。
けいきゅうみねまち?しらないところだ。
ぼくにみかたはいないのだろうか。
10月
郊外の路上で女性に話しかけられた。
「お兄ちゃん、やっと見つけたよ」唯一名前を知っている人だ。
「お義母さんはまだ認めてなくて、お父さんは捜索届出そうか悩んでたけど、大事にしたくないから私が捜しに来たの」
よく分からなかった。
「帰ろう」俺は差し出された手を払った。
「…どうしたの?あ、もしかして告白の返事求めてた…?」
そういうのじゃないのに。
「…えっとね、兄妹だけど、どちらかというと好きだよ。だから、」
そういうのじゃないのに!
「これから仲良くなりたいとは思う…って聞いてる?っていうかくさいよ」
俺たちは何故かラブホへ向かった。
俺が風呂から上がると、警察が来てて、子供は入っちゃ駄目だから帰りなさいと言われた。
そもそもラブホに入ったのも、俺に風呂に入ってほしいだけだったらしい。他になかったのか。
「さあ帰るよ。えっと、ここからだと新幹線で3時間くらいかな…」
「待ってくれ、ネットで調べ物をしたい」
「え、スマホは?」
「すてた」
「もう…じゃあスマホ貸すよ。え、ネカフェ行きたい?逃げたりしないよね」
疑われていたので同伴が条件でOKされた。
ネカフェにて
「あるはずなんだ…兄妹で結ばれる方法が」
「何調べてるのー?」
「馬鹿見るな」
でたらめにネットを検索していると、あるひとつのwebページだけ、すごく光り輝いて見えた。
「これは…?」
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◆ セカイのスキマ ◆
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
セカイのスキマへようこそ!あなたは934276人目の救済対象者です。
セカイのスキマでは、この世の全てを統べる神様ちゃんが、何でも願いを叶えてくれます!
「場所はココ」と書かれた下に、千葉県の、とある場所のざっくりした地図が描かれていた。
「なあ、千葉に寄らないか。帰り道で通るし」
「なんで??」
「行ってみたい場所があるんだ。旅費は出すし、プリンもおごる」
「行く!!!」
2年の間に知った好物をエサに、俺たちは千葉へ向かった。
「おかしい…場所はこの辺なんだが」
「まだー?少し休んでいこうよ」
「いや…そうだな」
団子屋に寄り、買った地図と照らし合わせる。
「うーん」
「甘ったれだんご、おまちどうさま」
「あせってもいいことないよ、のんびり行こうよ」
「うーん」
「お客さん、セカイにはスキマがあふれています」
「うー…え?」
「どうぞこちらへ」
団子屋の奥に地下へと通じる階段があり、そこにあるのは2kmはあるかという真っ白で広大な空間だった。
l ワ l <「はーい私が神様ちゃんです!本当は合言葉ないと来れないんですよー感謝してくださいねー」
「神様、話があります」
-ワ- <「おっとおースルーですかーいい度胸ですねー」
「何でも願いを叶えるというのは本当ですか」
l ワ l <「壁をご覧くださーい」
壁を見ていると、突然ニワトリのイラストが現れ、それは動き出したかと思うと、卵を産み始めた!
呆然とするうちに、ニワトリがどんどん現れて卵を産んでいく。
l ワ l <「次は牛さんですねーうしさーん」
今度は牛が描かれ、自ら牛乳を流し出していく。次にバケツが下に来て牛乳をキャッチ。
ニワトリと牛の鳴き声がやかましい。
その後、雪が降ってきたかと思うと、それは砂糖だったらしい。とても幻想的だった。
蒔乃「わーすごーい!」
フライパンで砂糖と水が混ざり、それはカラメル。そして卵と牛乳も砂糖と混ざる。
ココットが均等な間隔で配置され、液体が流し込まれていく。
最後に巨大な冷蔵庫の絵に、それをイン。時計がぐるっと回ったかと思うと、チーンと音が鳴った。
l ワ l <「プリンの出来上がりー!めしあがれー」
次の瞬間、空からゆっくりと今作ったであろうプリンがたくさん落ちてきた。
蒔乃は「すごいすごーい!!」と子供のようにはしゃいでいる。
ていうかこれ、一歩間違えば殺戮兵器?あとアニメ化したらすごそう。
つまらない感想しか出てこなかった。
l ワ l <「では願いを聞きましょーか」
「…この国を、日本を、兄妹婚出来るようにしてくれ」
蒔乃はプリンに夢中で聞いてない。
l ワ l <「いいんですかー義理なら法律上問題ないのにー」
「…え?」盛大な勘違いをしていた。
l ワ l <「10,9,8…」
「あっじゃあ、とりあえず100億円ください」
l ワ l <「わっかりましたーではではアデュー」
するとまばたきした後、団子屋は跡形もなくなっていた。
蒔乃はまだプリンを食べていた。
「これ食べきれないからお土産で持って帰ろ!ちょっと食べてー」あ、うん。
記憶は確かに残っていた。
そして数か月ぶりの我が家に帰ると、母は仕事でいなくて、義父が新聞を読んでいた。好きだなそれ。
「おお義路くん、おかえり。心配したんだよ」
「すみません」
「それはそうと、私は二人の交際を認めないからね」
いやまだ告白すらしてないんだが。
「臨時ニュースです。国会で兄妹婚を許可する法案が可決されました」
「「「!?」」」
ついでに叶えてくれたらしい。
あれから数か月後。蒔乃にはまだ告白出来てないけど、兄妹仲睦まじく過ごしている。好感度65%くらい?
両親にはまだ認めてもらってないけど。
そして俺は猛勉強し、何とか蒔乃と同じ大学に合格できたのだ!
…もちろん蒔乃の協力あってのものだが…。
金も100億あるし、人生安泰だ。
ちなみになぜ100億かというと、国家予算規模の額を個人が所有してたら色々と面倒だからだ。いや充分多いけど。大丈夫かなこれ。一応宝くじが2億当たったことにして残り98億は隠している。(何ればれそう)
途中ファンタジー要素あるし、兄妹での恋愛は認めない人もいると思うけど。
妄想ならいいよね。二次元なら兄妹モノとかよくあるし…。ふあ…
「…ん?なんだ夢か」
うたた寝をしていた。小説を書いていたようだ。ざっと読んでみる。
「俺そもそも妹いないじゃん」
l ワ l <「想像力が俺たちの魂だ!!つってね」
おしまい。
Normal End
CG 7/12
Clear Time 1:23:02
つり乙2.2アトレ√やっててピーンときて書きました。でも二次創作じゃありません。
※この物語はほぼフィクションです。実在の人物、地名、団体、法律などとは一切関係ありません。