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チョコキス。

作者: 七色 鈴音


ピンポーン


『はーい。あ、勝手に上がってきて。』

彼は玄関まで私を迎えにくるのが面倒なのか、とても雑な扱いを受けた。

階段を上ると、少し不機嫌そうな彼と、彼のお母さんがいた。

「別にインターホン鳴らさなくていいって言っただろ。」

「だって鳴らさないと尚斗の家に来た気がしないんだもん。」

私と尚斗は幼なじみで、家が隣だから尚斗の家に入るのは間違えて入った気がするから嫌だったのだ。

あと、もう一つの理由は尚斗をからかうのが楽しいから。

ふと、尚斗の隣をみると、紙袋いっぱいにチョコが入っていた。

今日はバレンタインデーで、尚斗は何故かよくモテるのだ。

「うわー。さすが尚斗!私もそれくらいもらいたいよ。」

「やろうか?」

「尚斗!」

尚斗のお母さん――美代ちゃんが尚斗を叱った。

尚斗はそれに慣れたようにはいはい、と聞き流している。

「美代ちゃんの言う通りだよ?私だってあげたチョコ、誰かに渡されたら嫌だもん。」

「いく、お前誰かにチョコ渡したのか?」

「まぁ、義理だけど。」

「いくに俺たち以外に渡す人がいるとは思わなかった。」

「尚斗!」

尚斗はまた美代ちゃんの地雷を踏んでしまったらしい。

尚斗が説教を受けているその間に、私は小声で

「台所お借りしまーす。」と呟いて持ってきた材料を台所の上に置く。

尚斗は三人兄弟の真ん中。3年ほど前から、毎年私はこの台所を借りて彼らにお菓子をつくっている。

始めは作ってから持っていっていたのだが、美代ちゃんの

「ここで作ったらいいじゃない。」という一言で今のようになった。

ちなみに、

兄の浩斗はかっこいい。

弟の幸斗はかわいい。

……きっと尚斗がモテるのは遺伝だろう。

3年前から変わらず、作るのはチョコレートケーキ。

これがなかなか好評なのだ。

竹串をさして、何もついてないことを確認して完成!

味見ができないのが難点だけど、慣れてしまえば簡単で美味しくできる。

粗熱が冷めたころに冷蔵庫にいれて、今度は美代ちゃんと晩御飯を作る。

これもお約束。

美代ちゃんは娘と仲良く並んで料理をするのが夢だったらしく、私のおかげで夢が叶った、とよく喜んでいた。




「「ただいまー!」」

夕飯が出来ると、ちょうどパパさんと浩兄が帰ってきた。チョコがいっぱい入った紙袋を手にして。

「お邪魔してまーす。」

「おぉ!いくじゃないか!久しぶりだなぁ。」

「あら、二人とも良いところに帰ってきたわね、ちょうど今出来たところよ。このままご飯にしましょうか。尚斗ー!幸斗ー!ご飯よー!」

美代ちゃんが階段に向かって叫んでしばらくすると二人とも降りてきた。

みんなが席につく。

向かい側はパパさん、ママさん、浩兄でこちら側は幸斗、尚斗、私の順で座った。

本日のメニューはハンバーグとグリーンサラダにコーンスープ。

さすが、美代ちゃん。

むちゃくちゃ美味しい。

手伝いはしたが、味付けをしたのは全部美代ちゃんだった。

ご飯が終わると、美代ちゃんが私の作ったケーキを6等分してくれた。

兄弟は待ってましたとばかりにがっつく。

一瞬の緊張、だがそれは尚斗の一言で終わった。

「うまい!さすがいくだな!」

満面の笑みを浮かべていう尚斗。

それから一口自分も食べてみる。

変な味はしない。よかった。

「うん、うまい!いく、俺の彼女にならない?」

そういった浩兄はパパさんに頭を叩かれていた。

「毎年食べてるけど、やっぱりいく姉のケーキは格別だね。」

そうにっこりしながら言ってくれたのは幸斗。

私もそれにつられて笑った。








場所は変わって尚斗の部屋。

尚斗の部屋は綺麗に片付けられているし、漫画もあるし私にとって最高の環境だ。私はベッドに寝転びながら、尚斗はそれにもたれながら二人して漫画を読み始めた。

「ねぇ、尚斗〜。」

「ん?」

返事はしても、こっちは向かない。

しかもコイツ、さっきからもらったチョコを食べ始めてる。

うらやましい。

「その中に本命チョコ、ってあるの?」

「ないぞー。告ってきた奴からはもらってない。」

「なんで?」

少しの沈黙。

その間、私は尚斗を見つめ続ける。

それから尚斗は観念したように

「好き奴がいるから」と言った。

「好きな奴がいるのに、もらったら相手に失礼だろ。」

「ふぅん?え、尚斗の好きな人ってだれ?気になる!」

「……そういうと思ったから言いたくなかったんだよ。」

「ふーん。幼なじみには教えられないのか。」

私はそっぽを向いた。

尚斗は少し困ったようにしている。

「そういうわけじゃないけど……」

「あ、Micchelのチョコレートじゃん!どんな味?一口ちょうだい!」

不意に私の目の前に彼の顔がきて、唇がかさなった瞬間口の中に甘さが広がった。



「こんな味。」

「……甘いよ。」





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