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Fiction  作者: 神門志御
5/6

異なる世界

ある時不思議な夢を見てから、怪異な出来事に遭遇するようになった、高校2年生の尾崎賢一だったが、自分にも不思議な力がある事に気がつく。

その夜、自宅に帰ったが…。

 家に着いた俺は、母さんに見つからないように、そーっと鍵を開けドアノブに手を掛けると、自然にドアが開いた。

 自然にドアが開いたのでは無く、母さんが怒った顔でドアを開けたのだった。

 「賢一、こんな時間まで連絡もせずにどこに行ってたの。母さんどれだけ心配したと思ってるの。」

 人の顔を見るなり、怒った口調で問いただしてきた。

 しかし、俺の体に目をやると、面白い様に顔色を反転させてオロオロし始めた。

 「どうしたの!なんで怪我してるの!?早くお家に入りなさい。」

 慌てた様子で、ドアを前回に開いて、俺のカバンを持ったかと思うと引ったくる様に、カバンを持っていった。

 俺はどう言い訳しようかと一生懸命考えながら、玄関に上がった。

 ---------


 下着だけの姿になった俺は、リビングのテーブルの椅子に腰をかけると、母さんが用意した消毒薬や傷薬で手当てしながら、コーヒーを啜った。

 母さんは心配そうにこちらを見つめている。

 俺は母さんを心配させないように、嘘の言い訳で説明した。

 「大したことはないんだよ。」

 「何が大したことないのよ。」

 「いや、今日新谷の家に遊びに行った帰りにさあ、ちょっと蹴躓いて転んだんだけど、たまたまゴミ捨て場に蛍光灯が捨ててあって、割れた欠片で切ったんだよ。」

 かなり苦しい言い訳だったが、母さんはジロジロ人の顔を見ながら、

 「本当に?」

 明らかに疑った目で問い掛けてきた。

 「本当だよ。」

 しばらく俺の体の傷を見やっていたが、「ふぅっ。」とため息をついて、

 「何か危ない事にでも会ったのかと思ったわ。」

 まだ疑っている様だったが、問い詰めるのは諦めたようだった。

 「危ない事って何だよ。」

 「最近、物騒でしょう。近くの小学校の周辺で変質者が目撃されたって言うし。ニュースでも物騒な事件が増えた気がするし。」

 (確かに最近は殺人事件とか、通り魔事件とか増えている気がする。もしかして関係があるとか?…まさかね。)

 「こんな遅い時間なのに連絡も無かったから心配で。やっと帰ってきたと思ったら、あなた血だらけじゃない。…母さん、卒倒しそうになったわよ。」

 (まあ、あいつらと遊んでいる時や、部活で遅くなる場合には、必ず連絡入れてたもんな。)

 「本当にゴメンよ。俺も連絡するのすっかり忘れてて。」

 「傷は痛む?ちゃんと消毒した?」

 「いや、血は出てるけど傷は大したことないよ。」

 心配を掛けない様に、考えながら答えた。

 本当の事を言っても信じてもらえないだろうし、信じてもらえたとしても、心配させる事には変わりがない。

 嘘も方便というが、こういう場合は仕方ないだろう。

 「それより、上着もズボンも切れたのはどうしよう。」

 ワイシャツは取り替えるから良いにしても、上着とズボンが切り裂かれているのを知らない奴から見たら、どう思うだろうか…。

 「とりあえず、アイロンテープで誤魔化しておくわ。丁度、冬服を買わなきゃと思ってたし、土曜日にでも買いに行きましょう。」

 そう言えば、結構寒くなってきたよな。

 冬服だとまだちょっと早い気がするが、この際贅沢は言えないな。

 「ああ、分かった。」

 母さんに返事をすると、お腹がぐぅっとなった。

 「ご飯あるから、今出すわね。」

 俺はいつもよりも、とてもお腹が減っていた。

---------


 遅い時間の夕食を取り、俺は自分の部屋に向かった。

 今日はこれまでに無いくらい、とても疲れていた。

 部屋に入ると、急激に睡魔が襲ってきて、どうにも起きていられる状態では無かった。

 学校の宿題が無いのは幸いだった。

 寝間着を着るのがやっとで、倒れ込む様にベッドに入ったのだった。

 ベッドに入ってから今日の事を考えようとしたのだが、考える間もなく、直ぐに意識は消えていた。

 

 辺りが騒がしい。

 どうやら、最近何度か見ている夢の続きだと認識した。

 そう言えば、小さい頃にも同じ様な夢を何度か見ていた事を思い出して来ていた。

 あたりが騒がしいと思っていたが、見ると数人の男たちが円陣を組むように立っているのが分かった。

 よく見るとその中心に一人の女性が立っており、周りの男たちを何やら話をしているのが分かった。

 その男たちから少し離れて、木陰に座り込んでいる数人の男女、それもひどく疲弊してボロボロであった。

 そして、その傍らには見た事がある人物が寝かされていた。

 いや、寝かされていると言うより、死んでいる様な感じだった。

 近寄ってもっと良く見てみたい衝動に駆られたが、夢の中だからなのか思う様に身体を動かすことが出来ないでいた。

 「まだ、諦めないで!」

 男たちの中心にいた女性から、ひときわ大きな声が響いた。

 「彼は生錬石に変わっていないわ。つまり、まだ彼の心は何処かに存在しているという事でしょう。」

 生練石…。

 以前、刑事さんが見せてくれた写真に写っていたものだ。

 寿命ではなく何かのキッカケで死んでしまった時に、その人の思いや意志が高濃度のエネルギーの塊として結晶化すると、それが生練石となってこの世に残るのだ。

 「しかし、どこに彼が居るのか分からないじゃないか!」

 円陣の一人から、悲痛な声が上がった。

 「いえ、探し出せるわ。」

 そう言って、腰の袋のようなものから、きれいな装飾が施されたアクセサリーを取り出した。

 長い鎖が付いており、ペンダントの様なものの中心には紫色の淡い光を放つ宝石がハマっていた。

 「深淵の魔法陣か。」

 男が呟く様にその名前を呼んだ。

 「これがあれば、彼のいる所に運んでくれる。」

 「しかし…。」

 男たちだけでは無かった。

 辺りにいる人達も、俯いてしまった。

 「わかっているわ。これを使う為と使用者もこの世界から消えてしまう。」

 「そうだよ。レイナまで居なくなったら、俺達はどうなるんだよ。」

 近くにいた子供、中学生位だろうか、涙目になりながらレイナと呼ばれた女性に訴え掛けたのだった。

 「大丈夫よ、あなた達なら。一緒に戦ってきたじゃない。…諦めないで。」

 レイナ…の顔は俯いてよく分からなかったが、唇を噛み締めていた。

 何処か聞き覚えのある名前の彼女は、何処か見覚えのある姿をしていた。

 今にも崩れそうなほどボロボロの身体で、しかしみんなの前だからか、歯を食いしばって必死に立っていた。

 「彼は、…アーチェは、必ず連れて帰って来るわ。だから、それまで頑張って…。」

 しばらくの沈黙が辺りを包んで、木々の、風の、全ての音さえも消えてしまった様だった。

 「…わかった。アイツを必ず連れてこい。それまでは俺達は、皆死なずに待っているよ。」

 風格のある男が呆れたように言って、レイナの頭をその大きな手のひらで撫でていた。

 「お前は昔から強情だったからな。こうなったらてこでも動かん。アイツも、そんなお前に手を焼いていたもんなぁ。」

 「そうだな。」

 辺りからは、ハハハッと笑いが起り、わずかに心地の良い空気が漂った。

 「じゃあ、とりあえず俺達はさっさとお前を見送って、ダーナシュタイン王国に向かうとするか。あそこならまだ陥落してはいないだろう。俺達が一緒に戦えば持ち堪えられるはずだ。」

 「ええ。」

 風格のある男とレイナは、覚悟を決めた様にお互いに頷いた。

 レイナは、「深淵の魔法陣」を握り締め胸のあたりで祈るように手を組んだ。

 静寂が訪れ、数秒の後、彼女の身体の周りを纏わりつくように薄紫の気体が包み込んでいった。

 ブツブツと何かを呟くとその気体は強い光を放ち始めた。

 やがて、彼女の身体は少しづつ透き通るようになり、薄紫の気体と混ざる様にその透明度を増していった。

 より一層強い光に包まれたかと思うと、彼女は光と共に消えていった。

 間際、「必ず戻るから…。」と聞こえた気がした。

 しばらく周りにいた人たちは呆然としていたが、気が付いた様に、

 「俺達は成すべきことをするぞ!レイナなら必ずアーチェを見つけて帰ってくるはずだからな!」

 と掛け声を掛けた。

 「「「おー!!」」」

 周りからは呼応するかの如く咆哮が響いた。

 

 ふと、あまりにもリアルな夢に、自分もこの世界に居るような錯覚を覚えた。

 しかし、夢には終わりがあるもので、少しずつ自分がこの世界から遠ざかって行くのがわかった。

 意識が薄れ、夢とも現とも判別できない時間が流れた。

 やがて、再び自分の意識が戻ると、見慣れたが、どこか懐かしい自分の部屋の天井が、視界に入ってきた。

 その時、いつもの音楽が鳴り響いて、朝になった事を知った。

---------

どうも志御シオンです。

ようやく本題の第1章に入れそうです。

(これまでがプロローグみたいなものです。長くなってしまいました。)

さて、どうなる事やらですが、本業は年末年始の休みに入るので、できればこの期間に話を進めたいですね。

では、引き続きよろしくお願いします。

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