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Fiction  作者: 神門志御
1/6

はじまり

 今は何時頃だろう。

 布団に入ってから、ようやく意識が薄れてきて眠れるところだったのに、わずかに耳に聞こえるホワイトノイズの様な音が耳につく。

 それは次第に大きくなっていた。そして、今度は人の声を含んでいる様になった。

 「…ーチェ…。」

 声の主は女性の様だった。

 もはやブラウン管テレビが目の前にあるかの様な現実感を持っていて、その声はホワイトノイズに掻き消されて聞き取りづらかったが、確かに聞き覚えのある女性の声だった。

 「お願い…。気づいて…。」

 今度はハッキリと、そして声は続いた。

 「思い出して…。お願い。私達の…、この世界を、助けて…。お願い…。」

 (思い出す?)

 (この世界?)

 (助けて?)

 何の事だか全く理解できなかったが、その女性の声は、突然とホワイトノイズと共にプッツリと途絶えて、静寂が訪れた。

 程なくして、目覚ましベルの代わりにしている、とあるラノベの主題曲が、けたたましく鳴り響いて朝になった事を知った。

---------


 (夢、だったのだろうか?)

 まだ布団に入っていたい気持ちに苛まれながらも、いつも通りの電車に乗っていた。

 「次は〜、桜上水ぃ〜。桜上水ぃ〜。4番線到着。お出口は左側になります。この列車は定刻通りに到着します。桜上水の次は…。」

 車内には駅に定刻通りに到着するとのアナウンスが流れていた。そう言いつつ、いつも2〜3分は遅れているのだけど。

 学校までは、駅から歩いて10分も掛からないのだが、学生ばかりが歩いていて、当然クラスメートや部活仲間がもいるため、他愛もない話をしながらちんたら歩いているから20分程は掛かる。

 今日もクラスメートの中澤裕太なかざわ ゆうたが声を掛けてきた。

 「よう!」

 気さくな挨拶だった。

 根も気さくな奴で、誰とでも直ぐに打ち解けられるので、友達が多いらしい。

 適当に成績も良くて、適当にスポーツもできる、所謂優等生タイプで、羨ましい奴だ。

 「おはよう。」

 その隣には、ちょっと体格の良い、ラノベオタクで2Dマニアの新谷恵介しんたに けいすけが居た。

 何故か、この二人は仲が良い。

 俺もラノベは好きだから、その点で新谷とは話が合うのだがが、中澤は何故なのかは分からない。

 「おはよう。」

 俺もいつもの様に軽い挨拶で済ませると、

 「なあ昨日の宿題やった?」

 中澤は適当に成績が良いのだが、宿題は好きではないらしい。特に数学は苦手らしいが、宿題はその数学科目のテキストだった。

 「まあ、普通に」

 素っ気なく俺は答えた。

 「僕もまあ、普通に」

 続けて新谷も答えた。

 「良いよな、ケンもケイも、数学できてさぁ。」

 ケンと言うのは、俺の事だ。尾崎賢一おざき けんいちだから、《ケン》と言うことらしいが、かなり安直だと思う。

 ケイも当然、恵介だから《ケイ》。

 「公式とかよく分かんないんだよ。記号の塊みたいな…。logとかXとか、昔っから苦手なんだよなぁ。」

 その苦手な数学すら、並以上の成績なんだから、やってられない。

 「とりあえず、宿題だからやったけど、本当に面倒くさい。」

 よっぽど数学は嫌いらしい。

 「テストと違って、宿題はとりあえず出せば良いって。出さないと成績に影響するって、母親が言ってたよ。」

 そうなんだ…。何の気なしに宿題ってやってたけど、そういう物なんだ。

 これまで一生懸命やってたけど、提出すれば良いって、ちょっとショックを受けるな。

 などと、他愛もない話をしながら歩いていると、学校についた。

 三人でいつも通りに話をしていると、俺はすっかり、夢の事は忘れていた…。

---------


 突然、緊急地震速報が鳴り出した。

 周りの生徒もほぼ一斉に。

 「地震が発生しました。地震が発生しました。強い揺れにご注意ください。」

 けたたましく警報音とアナウンスが流れていると、周りでは「うわ、びっくりした」「またかよ」などとザワザワしていた。

 中澤は、「今度は地震来るんだろうな。」などと言っているが、ここ1〜2ヶ月の間に定期的に緊急地震速報が鳴るのだが、強い揺れどころか、微弱な揺れすら感じたことがない。

 教室で、隣の席に座っている大野大樹おおの だいきの貧乏ゆすりの方が、よっぽど揺らされる。

 地震は来ないに越した事は無いのだが、こうも頻繁に警報がなると、一回くらい来たらどうかと思う。

 その時だった。

 地震と言うか、例えているなら、ジェットコースターで継ぎ目に来ると「ガコン」と振動するのに近い、そんな揺れを感じた。

 いや、感じた揺れは、もっと強かった。

 来ないと思っていた地震の揺れが来たからなのか、「ウォッ。」と言う声を上げて、中澤がよろめいた。

 「何、これ!?」

 揺れた瞬間は声も出せなかった新谷も、ちょっと様子がおかしいと思ったらしい。

 俺もちょっとビビりながら、続けて来るかもしれない地震に警戒して、「二人共、大丈夫?」と声を掛けた。

 それから1分ほど経ったが、余震の様なものは来なかった。

 周り生徒たちも、しゃがんだり、立ったまま踏ん張っていたり、お互いに声を掛けていたり色々だったが、一様に余震か本震かに警戒していたようだった。

 「何だったんだろう。今の地震?地震だったのかな?」

 新谷は、自身の揺れとは違うと感じていたらしく、疑問をそのまま声に出していた。

 「やっぱり地震じゃないのかも。地中で水道管が破裂したとか。」

 「確かに、地震のグラグラと揺れる感じじゃなかったもんな。」

 新谷の言葉に、中澤も相槌を打つように返した。

 「地面が陥没したりして。」

 「うそ!?」

 今度は中澤が、新谷を冗談で脅かしていた。


 「なあ、あれ何だろう?なんか、黒いものが地面から出てきてるんだけど…。」

 学校の門近くに居た一人の生徒が、校舎の方を指差ししていた。

 俺らがいた位置だと、ちょうどか木や壁が邪魔で見えなかった。

 何が出てきたのか興味が湧いてきて、門の方に近付こうとあるき出したとき、周りから「うわぁ、でかい黒アリだぁ!」と叫んだ生徒がいた。

 その声は門の近くではなく、門徒は反対側の俺の背中の方からだった。

 中澤が「おい、あれ見ろよ。ワサワサ出てくるぞ。」と、俺の肩を小刻みにパタパタと叩きながら、「何かヤバくねぇか!?」と追い打ちをかけるように早口でまくし立てた。

 新谷はと言うと、虫が嫌いなので、今にも卒倒しそうな青い顔をして、中澤が向いている方を凝視していた。

 俺もそちらを向こうとしたが、今見えている門の方では、指差ししていた生徒が尻餅をついたまま後ずさりながら叫んでいた。

 「来るなぁ!」と後ずさりながら叫んでいたが、とうとう黒アリらしきものの頭が、門の柱の影から出て来ていた。

 直ぐに襲いかかる事はなかったのだが、頭についている触角を、周りの様子を伺う様にあちらこちらに向けていた。

 その行動はまさしく黒アリのそれだが、その頭の大きさは、普通の黒アリに比較するまでもなく大きい。

 サッカーボール程にあるその頭から、蟻の特徴である大顎も突き出ていた。

 「うわぁ、わぁ、…助けて…。」

 巨大な黒アリが目の前にいるのに、喚いているだけで逃げようとしない。いや、恐怖で動けないのだ。

 ようやく、その生徒は逃げようと、黒アリに背中を向けて起き上がろうとした時だった。

 背中を向けたのがわかったのか、巨大な黒アリは、巨体に見合わない素早さで生徒に襲いかかった。

 「や、やめろぉ。誰か助けてくれ〜。」

 黒アリは、その強靭な顎と蟻酸で攻撃する。小さな黒アリであるなら噛まれてもチクッとする程度だが、1cm程の黒アリだと噛まれればそれなりに痛いくらいだ。

 それが目の前に1m程の黒アリなら、噛まれれば簡単に腕ぐらい切り落とされそうだった。

 蟻酸の毒性は、目に入ると失明してしまうらしいが、これだけの巨体だとどの位の蟻酸を出すのだろうか。

 「痛い、痛い、イタイ。」

 生徒の背中から脇腹に掛けて、大きな顎が刺さっていた。今にも食い千切られそうな勢いだった。

 「に、逃げようよ。」

 これまで青ざめて黙っていた新谷が、慌てた声を上げながら、俺の袖を引っ張っていた。

 「いや、でも、助けないと…。」

 中澤は、襲われている生徒を助けるつもりらしい。

 不意に中澤の方を見ると、学校の門とは反対側から這い出ていた黒アリが近づきつつあった。

---------


 その時だった。

 何処からか、門の方に駆け寄ってくる生徒がいた。

 「いやー!」

 叫びながら、剣道の竹刀を振りかぶって、生徒を襲っている黒アリの方に近づいていく。

 バシンッ!

 見事に黒アリの頭に竹刀が打ち込まれ、続けざまに二発三発と打ち込んでいた。

 さすがの黒アリもひるんで生徒を噛み付いていた顎を外した。

 なおも、容赦なく何発も竹刀を打ち込むと、次第に黒アリは後づさりし始めた。

 「今のうちだ。あいつを助けるぞ。」

 中澤がすかさず噛まれていた生徒に向かって走り始めていた。

 「ちょ、ちょっと待ってよ。」

 新谷もヨタヨタしながらも、中澤の後をついていった。

 俺は一瞬付いていくの躊躇ったが、後ろから黒アリの集団が近づいてくるのを見て、とりあえず竹刀を振りかざしている生徒の近くの方が逃げやすいと思い、中澤の後を追うように走り出した。

 今も竹刀を振りかざして、黒アリを攻撃し続けていたが、流石に黒アリの甲羅は硬いようで、竹刀がボロボロになって来ていた。

 「誰か、木刀を持ってきて。」

 どうやら彼、いや、彼女か。

 女子の剣道部員の様だった。彼女が最初にいたであろう場所には、防具が入っているらしき大きなバッグと、竹刀を入れている袋があり、木刀が刺さっているのが見える。

 俺は彼女のバッグに近づき、すぐさま木刀を取り出して、彼女の近くまで走ってい行った。

 彼女がそれに気がついた様で、彼女から俺に近づいてきた。

 彼女に木刀を急いで渡すと、踵を返す様に、彼女はまた黒アリの方に走って行った。

 腹部から血を流して倒れていた生徒を中澤が抱えて引っ張ろうとしている脇をすり抜け、彼女はその木刀で黒アリの頭部を滅多なぐりにした。

 その殴打は凄まじく、黒アリの長い触覚は千切れ、顎から液体を垂れ流し、頭の甲羅にもいくつも亀裂が入っていた。

 彼女は、トドメとばかりにひときわ大きな声を上げて、黒アリの頭部に木刀を振り抜いてた。

 「ギ、ギィィーー!!」

 黒アリの断末魔の叫びか、耳障りな奇声を上げて、黒アリはその場でグッタリと動かなくなった。

 見るとすぐ近くまで、他の黒蟻たちが近寄って生きていたのだが、先頭の黒アリが動かなくなると、ピタリと止まって警戒態勢で停止したように見えた。

 「おい、あいつら逃げていくようだぞ」

 誰かが発したその言葉通り、黒蟻たちは背中を向けて、出てきた穴に潜って行った。

 反対側にいた集団も、よく見れば何人かはカバンやバット、木の棒などで生徒たちに応戦され、敵わないと思ったのか、出てきた穴に潜って行った。

 「うう」

 腹部から血を流している生徒がうめき声を上げ、とても苦しんでいる様だった。

 「誰か救急車呼んでくれよ。早く!」

 中澤は、持っていたハンカチで血の出ている腹部を抑えて周りの人に叫んだが、その声で我に返ったのか、近くにいた大人達は慌てて救急に電話をしていた。

 (どうやら、もうアリたちはいないらしい)

 俺は周りを見渡して、先程の黒蟻たちが出てきた地面の穴や、木の影などにいないことを確認した。

 「もう大丈夫みたいね。」

 木刀を振り回していた剣道部らしき女子生徒は、同様にあたりを確認して、ボソッと呟いた。

 途端に地面にへたり込んで「怖かったぁ。」と、少し声を震わせながら、涙目になっている顔を俺に向けて軽く微笑んだ。

 

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「小説家になろう」に登録して、はじめての作品です。

実は、30年以上前に考えて、途中で断念した構想が元になっています。

異世界物と言えばそうも言えるのかもしれないのですが、まあ、書き進めてからのお楽しみにしてください。

正直、文才は無いと自負しているので、読みづらいところなどは温かい目で見守ってくれると嬉しいです。

せっかくこの様な形で公開できるので、読んでくれる人が1人でも居てくれると嬉しいです。


自分でも書くのが楽しみです。

今後ともよろしくお願いします。

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