(9) エピローグ
辺りの明るさとセミの鳴き声で私は目を覚ましました。
周りに停めている車の数は増えて、旅行に向かう家族連れや、運送会社の大型トラックが忙しく出入りしています。
パーキングエリアに止めてエンジンをかけたままだったワンボックスの車内は涼しく、大阪から運転し続けて疲れていた私は快適に寝てしまっていたようです。
軽く倒していた運転席を起こし、飲みかけのペットボトルのコーヒーを一口飲み、車を降りました。
外の空気は相変わらずねっとりと熱を帯びており、さっきまでの快適さを全てかき消そうとしてきます。
私は汗が出てくる前に軽く体を伸ばし、運転席に戻りました。
助手席には、大阪を出てから置かれたままの私のカバンとスマートフォン。
あの電話を取ってから、もう10年近く経ったことに気付きました。
「そっか、もうすぐお盆だもんねぇ。」
誰もいない助手席に、何年経っても忘れる事のできない笑顔を思い浮かべながら、私は車を再び走らせました。
今日は日曜日。なんとなく寄り道がしたくなりました。
絵を搬入しなければいけないけれど、夕方までには間に合うでしょう。
このまま、花を買いにいこう。
亜希子ちゃんにも電話して、都合が合えば一緒に行こう。
いくつもの秘密を持ったまま眠っている、理恵のところへ。