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聞けなかった想い  作者: よう
8/9

(8) あの日

1年間の浪人生活。

ようやく受験を終え、あとは合格発表を待つばかりとなりました。

手ごたえはあったし、試験も終わればあとはもう結果を受け入れるしかありません。


「受かっていたら、ます最初に理恵に電話しよう。」


この一年間、理恵と何も話していなかった分、色々な話がしたい、と思うようになっていました。

そして、その最初の一言は、「受かったよ!」でありたい、そう強く願っていました。



その日は合格発表の前日でした。

もうすっかり受験勉強から解放された私は、昼近くまでベッドでダラダラと寝ていました。

そんな時間に、私の携帯が振動しています。

アラームをかけた記憶もなく、ディスプレイを見ると、同級生の亜希子の名前が出ていました。


「おはよー。久しぶり、どしたの?」


途中まで言いかけた私の声を遮り、亜希子が一方的に喋り始めました。亜希子の声は泣いているようでした。


「典子!大変なの!理恵が…、理恵が交通事故で亡くなったって…!」


それから言われたことは、あまり覚えていません。

亜希子からは、ようやく昨夜理恵の親から高校時代の友人への連絡がつき、今夜理恵の通夜があると朝からみんなに連絡を回しているところだ、と聞かされたんだと思います。

私はその日の夕方、電話で聞いた内容のメモを頼りに葬儀場に向かいました。

入り口の前に書いてある看板には確かに理恵の名前を見つけましたが、ここで今何が行われているのか、全く実感が沸きません。


会場には見た事のある顔が集まっていました。高校の同級生、美術部の先輩、後輩たち。

その中に亜希子の顔を見つけて、声をかけました。


「あっちゃん。」

「典子!」


真っ赤な目をした亜希子は私に抱きつくと、そのまま何も言わずに泣き崩れました。


亜希子が理恵のご両親から聞いた話によると、学校が終わり春休みになった理恵は、関東に実家のある大学の友人達と、車に乗り合って帰るところだったそうです。

早朝の高速道路、居眠りなのか、運転ミスなのか、詳しくはわかりませんが、事故を起こし、理恵はその場で亡くなったとのことでした。


お通夜の前に棺桶のそばまで行きましたが、事故のせいか、最後まで棺桶は開けられることはありませんでした。

祭壇に飾られた、高校時代と同じ顔で笑っている理恵の写真だけが、これは理恵の葬儀なんだ、と主張しています。


一年会っていなかったからなのか、そこに理恵がいる、と言う実感は全く沸きませんでした。

まるで、大勢でドッキリを仕掛けているのではないか、そう思ってしまうくらい、現実味の無い時間でした。

今でも理恵は名古屋に住んでいる、そんな気持ちです。


これで棺桶の中に眠る理恵の顔を見ていたのであれば、少しは違った感情があったのかもしれません。

ですが、私は涙を流す事もなく家に帰り、着替えてすぐにベッドにもぐり込むと、泥のように眠ってしまいました。



その翌日。

いつもよりも早く目が覚め、すばやく身支度を済ませると、大学の合格発表を見に行きました。


何故か確信めいた感覚でまっすぐ掲示板に向かい、視線を向けたその先に私の番号が見えました。

そして、その事を家に報告しようと携帯を手にした瞬間、最初に理恵の電話番号が目に入ってきました。


理恵に伝えるはずだった、伝えたかった、合格の言葉。

私が合格した事を聞いたら、理恵はなんと言ってくれたのだろう?


でも、彼女は今頃、葬儀の最中。


電話する相手も失い、帰ってくる言葉も失った事を感じた私は、家に電話をする事もやめ、ぼんやりとした気分で帰りの電車に乗りました。



家に帰り着くと、待ち構えていた母に合格した事を簡単に報告し、そのまま自分の部屋に入りました。

一人の部屋に入り、思うことは合格の喜び、ではありません。


卒業式の前に、背中に向かって言った言葉はなんだったのだろうか。

あの年賀状は、理恵が描いてくれたものなのだろうか。

彼女の私に対する本当の気持ちは、一体何だったんだろうか。


どんなに知りたくても、永遠に知る事のできなくなった謎が、私の心の中に残っています。



そしてその時、私が彼女に抱いていた密かな気持ちを自覚しました。


私は布団をかぶって、初めて声を上げて泣きました。

何も考えず、ただひたすらに泣いているうちに、いつの間にか眠っていたようでした。

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