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聞けなかった想い  作者: よう
7/9

(7) よみがえる記憶

高速道路はようやく静岡県の端に近づきました。

暗闇の中に、大きな富士山の影がちらちらと目に入ります。


その瞬間、私は、頭の中で一枚の小さな絵を思い出しました。


浪人中の正月に届いた年賀状。高校時代の友人達や先生からの応援メッセージが書かれた年賀状に混じって、差出人の名前が書かれていない年賀状が1枚。


その年賀状には、新年早々縁起の良さそうな富士山が大きく描かれ、普通に売られている12色や36色くらいの色鉛筆には入っていないような、非常に多彩な色の色鉛筆を使って塗られていました。

あて先の文字は今までの年賀状などでは見た事のない筆跡で、誰が出したか見当がつきません。

絵の下には小さく「受験頑張って」とだけ書かれていました。


思い出してみると、あの色鉛筆は、理恵にプレゼントした100色の物ではないか、と言う気がします。

そう思うと、本人に確かめてみたくなりました。


「そうだ、そういえば、理恵さ、名古屋の大学行った後のお正月、年賀状くれなかった?」

「年賀状?」

「そう。差出人の名前書いて無かったんだけど、富士山の絵が描かれていてさ。」

「富士山の絵、ねぇ?」

「それを、珍しい色の色鉛筆を使って描いてあったのよね… あれって理恵が描いたんじゃない?高校の時プレゼントした100色の色鉛筆使ってさ。」

「典子がその色を見てあの色鉛筆だと思うんだったら、きっとそうなんじゃない?」


理恵は悪戯っぽく笑っています。


「何それ、どっちなのよ?描いたか描いてないのか、ハッキリさせて欲しいんだけど?」


そう言いながらも、私もつい笑ってしまいました。


「結局さ、浪人してからホントに連絡くれなかったよね。寂しかったけど、その分頑張らないとな、って思うことができたのかも。」

「それはもう、連絡しなかった甲斐があったという事だよね。」


隣に座った理恵がニコニコ笑っているのは、本当に高校時代の美術室を思い浮かべてしまいます。

それだけに、あの、卒業前の日の記憶がどんどんよみがえってきました。


「ねぇ、理恵はさ、最後に美術室行った日、私の背中で何か言ったよね?」

「何か言ったかな?典子には何って聞こえたの?」


理恵はずっと落ち着いた笑顔で、私を見守っています。


「言った気がする。『好き』とかなんとか、言わなかった?」

「好き?私が典子の事を?」


つい、言ってしまった。でも、なんとなく、あの時感じた感情は、自惚れでなければ、そうだったのではないかと。


「うん、そう言われた、気がしたの。いや、もちろん、女同士だし変な意味じゃないんだろうけど…!」


言ってしまってから、なんだか恥ずかしくなり、慌てて誤魔化そうと思いました。

ですが、理恵はからかう事もなく、表情を変えませんでした。


「典子はどう思ってた?私のこと。」

「え?私が?」

「そう。典子は私のこと好きだったの?」


そう言われて、考えてしまいました。

私は、理恵から一方的に好きと思われていたことに戸惑っていたのか。

それとも…。


「そうだねぇ…」


そこまで言った所で、不意に大きなあくびが出てしまいました。


「ごめんごめん、高速道路まっすぐ走らせてるだけだと、眠くなってきちゃうね。」


照れ隠しに笑いながらそういいましたが、理恵は少し怖い顔で私を見つめました。


「ちょっと、危ないんだからね、高速道路は。典子もわかってるでしょ?」

「うん、もちろんわかってる。」

「無理しないで。次のパーキングエリアで休んでいこうよ。」


理恵がそう言うと、ちょうどそばにパーキングエリアが迫っていました。


車を停めると、私は軽くシートを倒しました。

そして、助手席の理恵に向かってひと言だけ言いました。


「ありがとうね、理恵。」


それを聞いた理恵が少し微笑んだのを確認すると、私は目をつぶりました

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