(5) あの時の二人
車のエンジン音と、規則正しく聞こえてくるタイヤの音が響くなか、東京までの距離を見てまた少しうんざりして来ました。
あと何時間だろう。眠くなりそうだな。
そんなことを考えながらふと助手席側を見ると、理恵も眠そうでした。
美術室で絵を描いているときに隣で居眠りしている理恵を見たことがありますが、あの時のような感じです。
眠気と一生懸命戦っている理恵の顔がなんだかかわいらしくて、話しかけてみました。
「ねぇ、高校時代はさ、いつも美術室で一緒にいてくれたじゃない。あれって、なんでだったの?」
理恵は眠気を振りほどくように首を振った後、またいつもの微笑を見せました。
「なんでって…典子はどう思ってたの?」
「え?私?私が何を思うって?」
彼女は微笑んだまま前を見つめていました。
「典子は私の事をどう思っていたのかなって。いつも隣に座って、くだらない話をしていただけじゃない?」
「理恵の事を…?」
「だってさ、絵も描かないで、ただ隣に座ってるだけの私を、よくずっと相手してくれていたなって。」
そう言われたら、確かにそうです。
いくら同じ部活だからって、絵も描かないで遊んでいるだけの人間と、よくあんなに仲良くできたなぁ、と。
でも、私にとって理恵は相談相手であり、話し相手であるとともに、同じ空間を共有する大切な友人でした。
絵を描こうと思ったときから話をして、描いている時間も一緒にいる。
私の気持ちを一番わかってくれていると思っていたし、私がちょっと聞くのに辛い事も言ってくれる。
いるのが当たり前、いてもらわないと困るくらいの存在に感じていたのは確かです。
「そんなことないよ、理恵がいてくれたから私はずっと部活も続けられたんだと思うよ。」
それを聞いた理恵は、ちょっと嬉しそうな顔をして、続けました。
「それは、なんで?」
「なんで…?」
なんでだろう。
理恵がいたから続けられた?
じゃあ、理恵じゃなきゃダメだった?
私は前を見たまま、考えました。
先生が見に来てくれても、多分こんなに落ち着かなかっただろうな。
理恵が隣にいるから、落ち着けた。
じゃあ、なんで?
でも、理恵じゃなきゃダメだったと思う。
「なんでなんだろうねぇ…。」
二人で真っ暗な高速道路を見つめながら、つぶやき合いました。