文字が読めないっ!
本当は朝投稿するつもりだったのに、昨日買った俺ガイル最新刊が面白過ぎてすっかり忘れてました(笑)
お待たせしました、7話目です
「ふぇっ?」
やっとたどり着いた念願の書斎。
そこには予想してなかった先客がいた。
「セロ?セロだーーっ!!」
その先客はおれの姿を認めた途端、歓声を上げて飛びついてくる。
父親譲りの艶やかな黒髪がぴょこぴょこと可愛らしく揺れた。
誰であろう、クリスカだ。
庭のミミズもどきの天敵こと、クリスカ=フィーレギオンがそこにいた。
「んふふ~。わーいセロがいる~!」
「ふもっ、ふももも!(ちょっ、苦しい苦しい)」
なにがそんなに嬉しいのか、ご機嫌な我が姉はおれを抱きしめたまま離さない。
幼児特有の高い体温に包まれて、おれはジタバタともがく。
「んふふっ、セロかわいぃ~」
「ふ~もっふ!ふももももっ・・・ぷはっ!」
なんとか顔だけ出すことに成功したおれは荒くなった息をあえぐように鎮める。
あー苦しかった・・・。
そんなおれを抱きしめながら、クリスカはニコニコと楽し気に笑っていた。
やっと息が整ってきたおれは、改めて幼い姉の顔を見た。
「ん、セロどうしたの?」
おれが見つめていると、クリスカはクリっとした両目を丸めて小首を傾げた。
その姿を見てふと、当然の疑問を覚える。
・・・なんでここにクリスカがいるの?
ここはレンリの書斎だ。当然遊び道具なんてものはない。
てっきり自分の部屋か庭で遊んでると思っていたから、こんなところにいるだなんて予想外もいいとこだ。
と、さっきまでクリスカがいたところを見れば、分厚い背表紙の本がいくつも散乱していた。
「あう~」
クリスカの腕の中から抜け出し、本のもとに這い寄るとそこには四五冊の本が積み重なっていた。
その中の一番上にある一冊を抱え上げてみる。
日本でもあまり見ないような、広辞苑サイズのぶっとい本だ。これ武器にしたら強そうだな。
装丁は革なのだろうか、表紙は滑らかで質感のいい手触りをしている。他の数冊も同様だ。
・・・そういえばおれが書斎に入ってきたとき、クリスカこの本持ってたな。
よくよく思い出してみれば、確かにクリスカはこんな本を開いている最中だった。
集中して読んでいたところにおれが現れた、そんな感じの状況だった気がする。
てことはこれ全部クリスカが読んでたのか?
こんな鈍器になりそうなサイズの本を?
・・・うっそだぁ~~。
七歳児がこんなもの読むわけないっしょ。だって十七歳でも読みたくなくなる厚みだぞ。
おれなんて持ち上げることすらできないのに・・・って、そういやおれいま赤ちゃんだったわ。持てなくて当然だわ。
「にひひっ、セロつーかまっえたっ!」
そして当のクリスカといえば、逃げだしたおれを再び確保して、おれの最高級に気持ちいい自慢のほっぺをぷにぷにしている。
あっ、あっ、そこはらめぇ!そこ敏感なのぉ!
なんてね。冗談です。
つんつんぷにぷにと、頬刷りしそうな勢いでおれの頬をこね回すクリスカ。
実に楽しそうである。そのうちほんとに頬刷りを始めそうだ。
まぁ気持ちはわかるけどね?なんてったって最高級ですから。
お肉のランクでいえばA5通り過ぎてS5と言ってもいいくらいだ。
「~っ、セロはやっぱりかわいいなぁ!」
「あうう、あ~うっ(よせやい、照れるじゃねえか)」
クリスカに抱きしめられるがまま、おれは手にした本を開く。
予想外の展開があったとはいえ、もともとの目的はこれだからね。
これ読まずして目標達成は実らない。
長くなったが、ようやく知識との対面というわけだ。
そして気が付く。
―――あ、おれ文字読めない。
始めてみた奇怪な記号の羅列を見て、ようやくそのことを思い出した。
すっかり失念していた。今の今まで気にも留めていなかった。
そりゃ考えてみれば言語が違うのに文字が日本語なわけないよね。
知らない文字で書かれた本なんて読めるわけないよね。
しかたない、ここは賭けだが・・・
「あう、だっ、だっ!」
「これ?これよみたいの?」
「う!」
おれが手をペチペチ叩きながら本を指差すと、クリスカは嬉しそうにそう尋ねてきた。
おれが読めないなら、誰かに読んでもらえばいい。いるじゃないか、さっきからずっとおれの頬を弄繰り回しているお姉様が。
「わかった!あたしがよんであげる!」
よしっ、やったぜ!
こころの中でそっとガッツポーズし、姉の暖かい体に身を預けた。
「それじゃあここからね?えーっと・・・」
クリスカの読み聞かせが始まると、急にその内容がまったく意味不明なことに気が付いた。
なにやら知らない単語ばかりが出てくるのだ。
「まどーきへー」やら「まかく」やら聞き覚えのない言葉ばかりだ。
言葉回しもなんだか堅苦しいし。
やっぱり難しい解説書のようなものだったらしい。
まぁ、とりあえずは文字を覚えることを先にしよう。
内容を知るのはそのあとでいい。
そう思い、まだ少したどたどしいクリスカの声を聴きながらおれは彼女がなぞる文字を見つめた。
あ、なんかまた眠くなってきて・・・
・・・・・
「クリスカ~!セロ~!お昼ごはんよ~。
そろそろおりていらっしゃーい」
日が頂点に登りきり、気温もすっかり上がった正午時。
昼食の支度を終えたエプロン姿のイリシアが二階のセロたちを呼びに来た。
「あら?・・・まぁ!」
イリシアは書斎の前に立つと、小さく驚きの声をあげる。
二人一緒に丸くなって可愛らしい寝息を立てていたのだ。
「うふふふ、可愛らしい寝顔ね。途中で寝ちゃったのかしら」
ふと、イリシアはセロの手の中になにやら茶色い箱のようなものを見とがめた。
この書斎に置いてあった本の一つのようだ。おそらく読んでいるうちにつかれてしまったのだろう
起こさないようにそっとセロの手をどかし、その題名を覗く。
「何を読んでいたのかしら・・・。
これは・・・『魔導機兵構造理解書』?また難しい本を読んでたのねぇ」
分厚い本を抱えて寝こける二人の頭を優しくなで、イリシアはほほ笑んだ。
「・・しばらく寝かしてあげようかしらね」
一体いつの間に取り出したのか。
手にした毛布を二人にかけ、イリシアは階段を降りて行った。
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