辿り着いた!
テン、テン、テテテン♪
おまちどおさま!
おあずかりした ポ◯モンは
みんな げんきに なりましたよ!
・・・って違う!
毛布を跳ね除け、気持ち的に勢いよく起き上がる。
いやはや、随分懐かしい夢を見ていたみたいだ。
志半ばで挫折したおれは、現在また揺りかごの中へリスポーンしていた。
多分、ガーベラあたりが寝こけたおれを見つけて戻したのだろう。
あんなとこで寝てたら邪魔もいいとこだしね。
「・・・あら、セロ起きたの?」
するとイリシアが読んでいた書類から目を離しおれに気が付いた。
机に書類を置き、おれの元へやってくる。
その表情はいつもより厳しい。これは怒られる流れか。
やっぱり階段は不味かったかな・・・
「もー、ダメじゃない。
あんなところで寝てたら風邪引いちゃうわよ」
あ、そこなんですね。
階段上ってたことに関してはノーコメントなんだ。
というか、流石にここまで息子を自由にさせてて大丈夫なのか?
中身は17歳だけど、こっちの世界じゃまだおれ一歳児だよ?
今思えば階段なんて手足滑らせればそのまま転げ落ちる危険もあるわけだし。
・・・まぁそのおかげでおれは好き勝手やれてるわけだから文句を言う筋合いはないんだろうけど。
それよりも階段トライのほうだ。
おれはリビングの揺りかごへと戻されてしまっている。
またセーブポイントからのやり直しになってしまった。
しかたない、最初からまたリトライするか・・・
と、思ったのだが。
揺りかごから這い出ようとして気が付く。
「う~?(・・・う、動けん)」
全身の節々が、軋むように痛い。主に腕と足が。
力を入れてもどうにも体が重くて思うように動かせない。
こっちに来て初めての感覚だが、随分と懐かしい感覚でもある。
これは・・・・・筋肉痛?
「だううぅぅ(まじかぁ)」
めっちゃ久しぶりに筋肉痛になった。
前世で高二の冬頃からはもう筋肉痛になるほど筋トレはしてなかったから、実に一年半ぶりの感覚だ。
体が思っていたよりも動かない
今日はもうここまでだということだろうか。
まさかここまで赤ん坊の体が柔かったとは思わなかった。
せめてあともう二回はいけると考えてたんだけどな。
しばらくは練習して体を鍛えたほうがいいかもしれない。
・・・とりあえずもう一回寝とくか。
――そんなこんなを繰り返して、一週間が過ぎた――
「う、う、あううううぅぅああ!!」
どっこいしょぉおおお!!
段にしがみついて踏ん張り、思いっきり左足を蹴り上げ引き上げる。
そのままコロンコロンと転がって、天井を見上げて寝そべった。
お腹を大きく上下させながら荒い息を吐く。
果たして勢いよく持ち上げた先の床は、真っすぐ平たんに伸びていた。
やった・・やったぞ!!
とうとう上りきった!!
回数にして12回。
毎晩筋肉痛にうなされながらもトライし続けた一週間がとうとうその実を結んだ瞬間だった。
そもそも二階から始めればよかったとかはいってはいけない。
夜は二階にいるんだから朝早く起きれば楽だったんじゃないかって、いまになっておれも後悔してるんだから。
二階は居住空間となっている。
部屋数は6、
手前から順番に客間、子ども部屋、子ども部屋、子ども部屋、両親の寝室、書斎となっている。
廊下に沿って一列に並んでいる配置だ。
外にはバルコニーもあり、丘の上からの景色を一望することができる。
現在、二階は客間と子ども部屋が一つ空いている。
空いている子ども部屋は今後おれのものになる予定だ。今は両親の寝室で寝てるからね。
ちなみにガーベラは下の村に住んでいる。
これはフィーレギオン家の決まりで、従者は家で寝泊まりはできないらしい。
なんでも昔、従者によって当主が暗殺されたことがあったそうだ。
以来、この家に仕えるものは住み込みで働くことができなくなったという。
・・・はい、解説終了。
それじゃあさっそく書斎に向かおう。
それが目的でここまで頑張ったんだからな。
書斎を目指す理由はただ一つ。
この世界についてもっと知るためだ。
せっかく裕福な家に生まれたんだから、どうせならバラ色の人生を送りたい。
なんてったっておれがいるのは異世界だ。満喫しなきゃ大損でしょ。
そのためには、子供の間の積み立てが必要だ。周りのベイビーたちがまだバブバブいっているうちにさっさと差をつけてしまえば、もう勝ち組コースまっしぐらだ。
なら、天才児としてチヤホヤされるためにも、今のうちに賢くなってしまえばいい。
そしてより知識を深めるためには、やはり本は不可欠といえよう。
どうやらこの世界にインターネットはないみたいだし、手っ取り早く情報を得るためにはおそらく本が一番だ。
この家の中でもう本が置いてあるのは多分書斎だ。寝室にも一二冊置いてあったけど、あれだけじゃ足りないしまず手が届かなかった。
チラ見だけど書斎には少なくとも数十冊は本が置いてあった。レンリかイリシアのどちらか、もしくは両方が読書家なのかもしれない。
おれは別に読書家というわけではないけど、読書アレルギーというわけでもない。
普通に小説は読んでいたし、学校の課題で評論や新書なども読みなれている。
あの面倒な読書記録は無駄じゃなかったんだなと今更ながら思った。
「あーう」
そして、とうとう書斎の前までやってきた。
滑らかな質感の木製の扉は半開きになっている。
いよいよ念願のゴールインだ。気分は箱根駅伝のクライマックス。
これまでの苦労を噛みしめながら、おれはその隙間に小さな体をねじ込んだ。
そして・・・!
「ふぇっ!?」
そこには先客がいた。
評価とか感想もらえたらめっちゃ嬉しいです