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3話 犯人探し

教室に傾いた太陽の日差しが差し込む。

放課後、ハヤトは掃除を終えて教室にいた。

意味もなく放課後の居残りはしない。

本来なら幽霊部員のハヤトは帰宅する時間だが、やるべきことがあった。


「それでは今から放課後裁判を開始する」


教壇に立つハヤトは厳しい表情で眼前を眺める。

そこには放課後の教室と、三つの仏頂面があった。

各々適当な席に座り、ハヤトが話し始めるのを待っていたのだ。

ちなみに席は横一列ではなく、無秩序にバラバラだった。

その中の一人、栗色の髪をしたガタイの良い男が口を開く。


「おい? 俺はエロ本の交換会があると聞いて勇んで来たんだが?」


そして男は残りの二人をビシッと指差す。


「この面子でどうやってエロ本交換すんだよ! 性癖バラバラ過ぎんだろうがよ!」

「それは嘘だ!」


ハヤトはこのバカもとい長嶋テツジに呼び出した理由が嘘であることを伝えた。

というかこの面子でそこは嘘だと察してほしいハヤトだった。

テツジ以外の揃ったらメンバーに顔を向ける。


「あら、嘘までついてワタシたち集めるなんて、今夜は乱行パーティーかしらぁ?」


そういうのは化粧をしたスキンヘッドのオカマだった。名前は高浪ワカ。あだ名で若様とか呼ばれている。


「若様それってわたしともエチエチしちゃうの?」

「何言ってんのよぉ。アキちゃんとワタシ、ハヤくんとテツくんでちょうど男と女2対2じゃない。好きな方えらびなさいよぉ、あまりはもらっちゃうからぁ」

「じゃあ、テツくんいーらない!」

「せめて良い方で答えろよ! そもそも俺はノーマルだけど!」


若様にアキちゃんと呼ばれていたのが最後の一人、粟原(いわばら)アキラである。

ピンク髪のマッシュショートボブが可愛い、少し小柄な女の子、ではなくこれまた男の娘だ。

そんな三人を見ながら思う。

よく全員、エロ本の交換会の嘘(・・・・・・・・・)に騙されてくれたな、と。

そして同時にテツジは純粋な男であり、ハヤトの誘いを受けるのは分かるが、残り二人はハヤトと性癖が合うわけがないのにと思う。オカマと男の娘だし。

はたしてナニを交換する気だったのやら……。

話題がどことなく怪しい方向に向かっているので、ハヤトは考えるのをやめて本題に戻る。


「単刀直入に言おう。僕は今犯人探しをしている、のだ!」

「ぷぷっ、ハヤトっち似合ってないよ、なにその口調!」


似合ってないらしいので、ハヤトはすぐさま裁判官モードをやめる。


「口調なんてどうでもいいんだよ! それより今日僕の大切なもの食べていった奴は手を上げて!」


ド直球に本題に入るハヤト。

誰が食べたのか素直に話してもらおう。

そう言って三人を睨むハヤトに、テツジが指摘する。


「よくわかんねーけどよ。なんでこの三人にすでに絞られてんだ?」

「そうだそうだ! わたしは何も食べてない!」

「やだ! ハヤくん童貞食べられちゃったのぉ⁉︎」

「食べるでなんでその発想になっちゃうのさ⁉︎ 違うよ!食べられたのはピーマンの肉詰めだよ! あ、それも肉詰めだけね」

「なるほど皮を剥かれて食べられたのね」


若様の想像力は止まらないらしい。

一人で「ハヤくんは仮性……ッ!」とか言ってる若様をほっといて、残りの二人を見る。そもそも若様の可能性は低いと考えている。

するとテツジが同じ質問を繰り返す。


「それで? なんで俺たちが疑われてるんだよ?」


察しの悪いテツジに説明をする。


「簡単だよ。人の弁当を食べるなんて、親しくないとしないでしょ? そして、僕は友達が少ない」

「「あ、うん……」」

「そんなに可哀想なものを見る目で見ないでよ!」


テツジとアキラの同情の視線が痛い。

ハヤトは「それで!」とその視線を振り払うように声を大きくする。


「一体誰が食べたの⁉︎」

「「……」」

「ワタシは包茎ですら守備範囲よぉ」


無言な二人に、相変わらず一人で暴走している若様。

ハヤトは黙る二人に付け足す。


「ちなみに僕はアキラが犯人だと思ってる」

「なんかもう疑われてる⁉︎」


正直性格的に一番やりそうなのはお子様なアキラだと思っていた。

これでアキラが犯人です、と言ってくれれば手っ取り早く終わったのだが……。

これでは誰が犯人か特定できない。

しかしこんなことになるのは想定済みだった。

ハヤトはすぐさま考えていたプランに則り行動を開始した。

手始めに、廊下から人呼ぶ。


「入りたまえ! 助手のミズキくん!」

「オレのことをくん付けすんな! というか助手じゃねぇし、その喋り方キモい」


キモいらしいので、ハヤトはすぐさま裁判官モードをやめる。


「あ、ありがと。じゃあそれもらうね」


ミズキは持っていた巾着袋をハヤトに渡す。

花柄の刺繍が施されたそれの口をほどき、中にある物を出す。それはタッパーだっだ。

集まっていた三人はハヤトのしたいことがイマイチわからないようで、ハヤトを見て固まっている。

だからハヤトはそんな三人に説明する。


「みんなにはこの中のものを食べてもらおうと思う。そう! このピーマンをね!」


タッパーの中身、ピーマンを見せながらハヤトは宣言した。ちなみにピーマンは火が通っており、軽く味付けもされている。

これはミズキが掃除が終わってすぐに、家庭科室で作ってきてくれたものなのだ。

改めてミズキがこんな面倒を引く受けてくれたことに感謝しながら、ピーマン単品を食べることになった三人に言う。


「僕は考えたよ。なんで犯人はピーマンの肉詰めという料理の肉詰めだけを食べたのか? なぜピーマンだけを残したのか?」


ハヤトはビシッと三人に指を突きつける。


「それは犯人がピーマン嫌いだからだ!」


だから、とハヤトは再度言う。


「みんなにはピーマンを食べてもらう。そして食べられなかった人が犯人だ!」

「今時本気でピーマン食べられない高校生とかいないだろ……」


テツジがうるさいが構わずハヤトは、三人を集めピーマンを持たせる。


「さあ、食べて」


ハヤトの催促に、三人は顔を合わせため息をつく。

やるしかないのか、という表情だ。

そして意を決したように、次の瞬間。


「すみませんでしたぁ〜。ほんの出来心でやっちゃいました。テヘッ☆」

「やっぱりアキラが犯人だったね! そんな気はしてたよ!」


やはり予想通りアキラが犯人だったようだ。しかし本人は反省する気がない態度である。おしおきが必要かもしれない。

ハヤトはイラッとするも、顔には出さない。

ピーマンを食べている二人に謝り、ハヤトはアキラの前までいく。

アキラは結局食べなかったピーマンを持ったまま首をかしげている。


「どったの?」

「いや、食べ物は粗末にできないからね。それちょうだい?」

「あっ、ハヤトっちがピーマン食べてくれるんだね!」


ハヤトは差し出されたピーマンを無言で受け取り、


「僕は食べないよ。食べるのはーーアキラだよ!」


そう言ってヘラヘラ笑うアキラの口にピーマンを押し込んだ。

指先に唾液がつくのを我慢して、ピーマンをアキラの口の奥にさらに押し込む。

びっくりして目を見ひらくアキラは頭の処理が追い付かないのか、硬直していた。

その刹那の時間で、ハヤトはアキラの口の奥に突っ込んでいた手を引き抜く。

引き抜く際のちゅぽっとどこかいやらしい音で我にかえったのか、アキラは怒りとも恥ずかしさとも取れない朱が顔にさす。

そしてピーマンを吐こうとするが、


「させるかあっ!」


ハヤトが勢いよくその口に手を当てて吐くのを許さない。

暴れるのでその背中に手を回し、しっかり拘束する。


「あらぁ、大胆ねぇ〜。テツジもワタシにしていいのよぉ?」

「キモいこと言ってんじゃねぇょ!」


若様が大胆と言うようにかなり密着した状況である。

しかしハヤトはアキラにピーマンを食べさせることに夢中でそんなことは些事だった。


「んんっ〜! んんんっっっ!」


口を塞がれたアキラがもがきながら何かを叫んでいる。おそらく離せとか止めろとかそう言った趣旨の言葉だろう。

しかしハヤトは手をどけない。


「離せって? やだね! ピーマンだらけのの渋く苦い昼ごはんの借りは絶対に返してやる!」

「うわっ、器ちっさ……」


テツジはやられていないから気持ちがわからないのだ。なんとでも言えばいい。むしろこんど同じ目に合わせてやろうか?

ハヤトはテツジの言葉を無視して続ける。


「離れようたって無駄だよ。アキラがピーマン咀嚼して飲み込むまで離さないから。この至近距離ならピーマンの咀嚼と嚥下の音ぐらいわかるからね!」

「んんっ! んんっ!」


背中に腕を回され、後ずさりできないと思ったのか、今度は状態をのけぞらさせて逃れようとする。

しかしハヤトは逃さない。

状態をのけぞらせる動作に合わせて、アキラの後ろにある机に、アキラの身体を押し倒した。もちろん口に手は当てたままである。


「〜〜っっっ! んんっ!」


机に押し倒され上にハヤトが覆いかぶさることで、華奢で小さな身体のアキラは本格的に身動きが取れなくなる。

顔も先程より赤くなっているように感じた。

瞳は潤み、抵抗というより、許しを請うている雰囲気だった。


「許してほしい? ダメだね。それを飲み込むまで、僕はアキラを解放しない」


ハヤトは覆いかぶさるアキラの耳元で囁く。


「ほら、お食べ」


そしてついにーー。

赤面し、どこか悔しそうで苦虫を噛み潰すような乱れた表情で、涙を溢れさせながらアキラはピーマンを咀嚼する。

音と手に伝わる口の動く感触でわかる。

ーーゴクリ。

喉の鳴る音と共に、全てが終わった。

アキラはピーマンを食べたのだ。

ハヤトはそれを確認すると、手を話す。

アキラの口からは溢れた唾液がハヤトの手との間で糸を引いていた。

ハヤトはやり遂げたことに満足して、状態を起こす。


「はー! スッキリした!」

「もしもし警察ですか、ここに性犯罪者がいます」とミズキ。

「いや、なんで⁉︎」


開放感に浸ろうとしたハヤトは後ろで控えていたミズキの一言に驚愕する。

しかしテツジと若様もミズキと同様に思っているらしく、


「お前ら男のはずだけど、なんか興奮しちまった……」

「ワタシもあれはヤりすぎだと思うわぁ。陵辱モノとか」

「い、いやいや! そんなつもりでやってないし! 僕たち男同士だし!」

「あっそ。じゃあ、あれを見てもそんなこと言えんの?」


ミズキの極寒の声音が怖い。

ハヤトはミズキが指差した方を見る。

そこにはもちろんアキラがいるのだが……。

机に押し倒された態勢で。

ナニがあったのか肩息をしていて、汗でびしょ濡れで。

その服装は激しく乱れ。

疲れ切ったように横たわり、閉じた瞳の目尻には涙の跡。

口からは唾液がだらしなく、一筋垂れていた。

そして先程までハヤトがあの上に覆いかぶさっていたのだ。


「完全に事後だよな」

「ち、ちちち違うからっ! 僕はただ!」


テツジの事後認定に反論しかけ、袖をくいっと弱々しく引く感覚に気づき、ハヤトは後ろに振り向く。

そこには先程まで目を閉じていたはずのアキラが、薄く目を開けてこちらを見ていた。

その表情は睨んでいるのではなく、どこか優しく笑むようで、とても可愛く感じた。


「責任、とって……ね?」

「ノリノリじゃないかぁぁぁあああああっ!」


たわ言に隠したが、ハヤトは思った。

……責任とるのも、ありなのか?

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