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森の音を聞く。温かい洞の中へ一筋、冷たい流れが呼び込まれる。漂う炎を眺めながらベッドの上で膝を抱えている。スーウェンは目を閉じ、焼き付いた光をなぞるように視線を動かす。瞼の裏の暗闇が燃えている。
目を閉じるだけでは駄目だ。暗闇は孤独を呼び込んでしまう。思い出したくない過去を、手放したくない思い出を。眠りでなければ。強く目を閉じて思う。
夢を感じることすらない無我の黒、世界すら塗りつぶせる暗闇の雲。
スーウェンは考えながら頭を振った。どうにかして今の考えを忘れてしまいたかった。
全てが消えるわけなんてない。消えるのは私だ。消えていると思っているのは私だけだ。どんなに何もかもが感じられなくても、私が触れられるのは私の世界だけだとしても。どんなにか息巻いたところで大きな世界の砂粒のような一欠片に過ぎない。考えれば考えるほど寂しさが滲む。いっそ消えてしまえばいいのに。
そうすれば……なんだというのだ。
何も変わらない。
スーウェンという女が消えた。それだけだ。
土に呑まれ、腐り、それと分からぬように引き延ばされる。女は腐り、土として残るのだ。世界から剥がれ落ちることなどできない。私は消えない。見えなくなるだけだ。死んだところで消えられないのなら……。
死にたくない。どこから湧き出てくるのかわからない恐怖や願望が喉まで上ってきている。死ぬことは忌むべきことだと私に考えさせる。
私が生きようとしているのか、私が死のうとしているのかわからない。
誰かが教えてくれればいいのに。
寂しさ、孤独をこんなにも強く感じるのはいつ以来だろうか。森での暮らしも、年に一度の来客も慣れたものだった。日を浴びて森を歩く、それだけで幸福だと思えた。誰に追われることもなく生きていられるのだと思っていた。
嘘だ。
私はこんなにも寂しい。
追われているのは誰にでもない。私自身の気持ちに追われている。それも最初から。
戦おうと思えば戦えた。本当に魔女になってしまえばよかったのかもしれない。でも、そうしたら、誰かを殺してしまったら、きっと、誰の傍にもいられなくなる。誰の傍にいても、安心できなくなる。
私と同じ人殺しかもしれない。
そうなったらもう、戻れなくなる。私が魔女になったとしても、きっと普通に笑うだろう。普段通りに。楽しいことを楽しいと思い、可愛らしいものに可愛らしいと感じ、誰かの笑いにつられて笑う。でも、その誰かが人殺しなわけなんてないって、笑えなくなる。
あるいは、戦って死んでいれば。こんなくだらないことを考えなくても済んだのだろう。覚悟が足りなかったのかもしれない。私は独りで生きるという覚悟が。戦って死ぬのも独りで生きるのも変わらない。でも、そんなことを考える今ではそれが正しいのかどうかもわからない。戦って生き残って、痛みや苦しみを避けるために誰かを傷つけることを正しいと思えただろうか。私が納得できないなら、私の人生は終わりだ。誰かに痛めつけられて、苦しめられて、納得できなくなったら、それはもう私じゃない。
眼の奥に涙が溜まっているような頭の重さを感じ、スーウェンは丸まったままベッドに倒れた。自分を強く抱き、慰めるように撫でながら目を開く。
聞こえない。風が運ぶ車の音が、馬の嘶きが。
枝の揺れる音、旋風に舞う木の葉の音。森の音は変わらず聞こえるのに馬車の音は聞こえない。かといってここに辿り着いたような気配もなく、辿り着く前の音もない。
それが今日という日でなければ気にも留めなかっただろう。普段と変わらぬ静寂に不安を感じるのは確かな来訪を知っているからこそ。来るべき人が来ない、そう思うだけで胸が騒ぐ。呼吸が大きくなる。
スーウェンは洞の縁へ走り、辺りを見回した。誰もいない。何も変わらず、ただ冬に染まる森があるだけ。木の葉が舞い、枝が揺れている。一瞬強く吹いた風に心が揺れる。体を揺らすほどでないその風が全身を揺さぶるように感じられる。
スーウェンは走り出した。追いかけてくる不安に何度も振り返り、目に涙をためながら。




