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 蹄の音。車輪の音。木の葉が割れる音。聞き覚えのない繰り返し。嘶きに意識が揺れる。体の内側が凝固し裂けるような痛みと隣り合いながら男は首を振った。浮いている。痛みから、体から。意識がどこにあるのかわからない。痛みと眠りが額の裏を焼いている。傷口から滲む膿のように、避けようのない眠りが意識に絡まる。

 反転。虚空を漂っていた意識が地面へ叩き付けられる。

 男は馬車から転げ落ち、激痛とともに目を閉じた。


 シャジーチは馬車を止め、男の顔を窺う。それくらいしかできることはなかった。触れるわけにもいかず、声をかけたところでどうなるものでもない。腕組みをして思案しているとミハージィが心配そうな顔で降りてきた。


 ミハージィは男の顔を一頻りこね回し、つねってみた。なにも起こらない。男の顔は触れたように歪み、放せば戻った。男の顔に手を触れ、放したということが感じられただけ。しかし、それだけの感触ですらミハージィには快いものだった。


 男は夢を見ていた。

 痛みを感じている。痛みを見ている。その両方が正しいと感じられる。しかし、それらと自分が明確に切り離されているようにも感じている。夢を見ているのだという実感。それがどういう仕組みなのかもわからず、ただ次に起こる夢を待っている。思考や感情の渦、記憶の一幕。あるいは全てが混ざり合った空想。

 夢を選べるのなら、せめて安らかな夢を。

 夢の中で夢を思う。夢想家とはこんな風なのだろうか。夢の中に生きる者を夢想家というのかもしれない。漠然とそんな考えが浮かび、流れていった。それに続く考えも、それがどこから浮かんできたのかもわからない。

 主観と客観が入り交じった空間の変遷。全てが別々の方向へ歩き始める。ばらばらになりそうな主観を精一杯引き留めようとしても何も変わりはしない。それぞれがそれぞれに広がりながら、それを見ている自分は一つのままだ。

 全てに割って入る大きな手。幼く、柔らかい手に見える。暗闇の向こうから手を伸ばしている? 薄闇のベールからこちらを探っている?

 瞬間、世界が塗り替えられる。上も下もない世界で上と下が入れ替わる。

 手を取り、抗う。落ちることにか、浮かぶことにかわからず。ただ、どちらにも自由はない。握った手は柔らかく、すり抜けていく。


 ああ、自分は落ちているのだ。


 その実感だけが残り、滲む暗闇が夢を呑み込んだ。




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