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夏の樹  作者: 粥
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夏が来て、私たちの学校は衣替えとして夏服になった。

うちの学校の夏服は紺色のポロシャツか、白のワイシャツを着ることが定められている。

私はどちらも着るが、どっちかしか着ないという者もいる。


「あっついなー...」


家から出た瞬間にそんな言葉が私の口から自然に出た。

途中、コンビニに寄るとペットボトルの中身を凍らせた飲み物が売っていたのでついそれを買ってしまった。


(しまった...冷えてて気持ち良いけど飲めない)


私としたことがドジを踏んだ。いつもならこんな事しないのに、暑さで頭がやられたのかもしれない。

でもとりあえずは手に持って冷たさの恩恵に縋ろう。


学校に着くと既に冷房が効いていて、教室はとても涼しかった。

長谷くんの席を見てみると長谷くんは既に登校していて、いつもの席で頬杖をついている。


「おはよう」

「っ!?」


私はいたずらで持っていたキンキンに凍ったペットボトルを死角から長谷くんの頰に当てた。

長谷くんは相当驚いたのか、目を見開いて私を見てきた。


「大和さん...」

「驚いた?」

「そりゃもう」

「あははっ、ごめんね、大丈夫?」

「何したの?」

「これを当てた」

「夏に売れるやつじゃん...」

「でも飲めないんだよね、まだ。しかもこれ最初は味濃くて最後すっごい薄くなるんだよね」

「結局普通に買ったほうが良かったりするパターンだ」

「ほんとだよ...」


私は確信を突かれて更に落ち込んだ。


「暑いね」

「そうだね」

「藍那ちゃんは大丈夫?熱中症とか」

「大丈夫。気を付けてる」

「夏風邪とかもあるし、油断出来ないね」

「すっかり藍那を気に入ってくれたみたいだな」

「あー...ごめん口出しし過ぎた?」

「いいや、素直に嬉しい」


長谷くんは少しだけ口角を上げて笑顔を見せた。久しぶりに見るとなかなか破壊力がありますなぁ。さすがイケメン。


「そういえば、暑くないの?髪の毛、だいぶ長いよね」

「え?あー...まぁ汗かいた時引っ付くのは嫌かな」


サラサラのストレートな長谷くんの前髪は今長谷くんの顔の鼻の下辺りまで伸びている。後ろ髪もだいぶ伸びているので、遠目から見たら男子の制服着た女子だ。


「切らないの?」

「切りに行く暇がない。それに美容室ってなんか苦手なんだ、話し掛けてくるし」

「あー確かに。私は行きつけの店があるよ。そこは店員さんも一人しかいないし、話す内容も私の趣味の話だし居心地はいいよ」

「そういう所があると便利だと思う」

「家ではどうしてるの?」

「基本的に髪の毛は括ってる。前髪は分けたりピンで留めたりかな」

「へぇ、ちょっと見てみたいかも」

「何も面白くないよ」


しばらくすると始業の鐘が鳴ったので、私は自分の席へ戻った。



昼休み、美咲は今日部活の友達とご飯を食べると言って別クラスへ行ってしまった。

なので私は、長谷くんの席へ向かった。


「長谷くん、一緒にお昼良い?」

「...別に良いけど」

「ありがと」


私は長谷くんの机の前に、誰も使っていない椅子を持ってきてそこに座った。

お互い向かい合うようにしたのは、話をし易くするためだ。


「今日も、藍那ちゃんを迎えに行くの?」

「いや、今日は母親が休みだから母親が行くらしい」

「そっか、じゃあ今日は何の予定も無いの?」

「まぁ、そうなるかな」

「じゃあ、放課後私のバイト先来ない?この前バイトしたいとか言ってたよね?」

「あー...良いのか?急に行っても」

「大丈夫だよ」

「じゃあ、お邪魔する」


長谷くんを家の近くのバイト先に連れて行く事が決まった。


放課後になると、長谷くんはそそくさと教室から出て行ってしまった。

一瞬、約束を忘れてしまったのではないかと不安に駆られたが、この前の事を思い出した。


『校門を出て左』


この言葉はこの前長谷くんと藍那ちゃんを迎えに行くときに待ち合わせに使った場所。

私も少し経ってから校門に向かって、左に曲がった。するとやはり長谷くんが待っていた。


「悪い、忘れてるかもしれない事を考えてなかった」

「いいよ、結局覚えてたし」

「行くか、どっち?」

「私の家の近くだから、そっちだよ」


人通りの少ない道の方を行き、私のバイト先に着いた。


「店長、バイト希望の人連れて来ました」

「んぁ?おお!君かぁ〜!よく来たねぇ」

「ども...」


長谷くんは恥ずかしそうにペコリと頭を下げた。人見知りなのかな。

うちの店の店長は、奥さんと一緒にこの創作料理屋を営んでいる。


「じゃあこっち来て、面接しよう」

「え...?」

「店長、今日は面接しに来たんじゃ無いんです」

「え?そうなの?あ、見学?」

「そうです」

「そっかそっか!じゃあゆっくりしてって、気に入ったらすぐ面接するから言ってね」

「はい」

「じゃあ私はバイトだから、そこら辺の席座ってお茶でも飲んでててよ」

「ああ、頑張ってな」


小一時間ほど、長谷くんは端っこの方の席で、私のバイト姿を見ていた。

なんか恥ずかしかったけど、長谷くんの為だと思って頑張った。

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