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夏の樹  作者: 粥
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梨沙と槐は、じゃんけんをして先にどっちがシュートするかを決めた。

勝ったのは槐だった。


「初っ端から外すなんてやめてね」

「しませんよ、そんなこと」


槐は左右に首を傾けてポキポキと音を鳴らした後、ピョンピョンと二、三回投げる場所で軽くジャンプしてから構えて、何の溜めも無くボールを放った。

スパンッというリングに当たらずダイレクトに垂れてる網に入った独特の音を鳴らした。


「おぉ〜流石」


梨沙は余裕のある態度で適当に拍手をした。今にシュートを見て尚この態度なのは、完全に自分が負けるわけ無いと思っている自信の表れだ。


「じゃあ私だね、よっ」

「あ...」


梨沙は槐が立ったフリースローを行う立ち位置ではなく、コート外から投げ入れた。

槐の様にリングに当たらないなんてことは無かったが、スリーポイントフィールドよりも遠い場所から難なく入れたのは、槐も驚いた。


「あらら、入っちゃったね。今ので私のターン終了でいいかな?」

「...構いません」

「悪いねぇ」


梨沙はニヤニヤしながらそう言った。

完全に槐をからかって楽しんでいる。


どんどんゴールに入れて行って、二人とも一歩も引かない攻防が続く。


「入れるねぇ」

「負ける気が無いですから」

「はっはっは、槐も負けず嫌いだもんなぁ」

「人の事言えます...かっ!」


槐のボールは最初に投げた軌道と全く同じ軌道をなぞりリングを通った。

梨沙は相変わらずのニヤケ面でボールをリングに入れた。


「槐、君何かに悩んでるでしょ?」

「........」


槐は少し怒った様にボールを放った。

ボールが乱れてリングに少し当たったが、なんとか入った。


「何でそう思いましたか?」

「そう見えたからかな」

「なるほど」


梨沙が難なく入れた後槐の番になり、今まで通りボールを放ったのだがボールはリングを通らず、当たって地面に力なく落ちた。


「........」

「私の勝ち、夕飯奢りね」

「...分かりました」

「ついでにさっきの話の続きもしようか」

「何故」

「負けたんだから、ね?」

「横暴ですね...」

「なんとでも〜」


二人は帰りがけにファミレスに寄った。


「さて、何に悩んでるの?」

「...友達が、出来たんです最近」

「良かったじゃん」

「その友達は、父親がいないみたいなんです」

「はぁ」

「それで、一度もそういう話をした事がないのでそういう話を聞いても良いものかなぁと」

「んー...わざわざ聞きに行く必要も無いんじゃない?ていうか、何で知ってんのそれ。本人から聞いたわけじゃないんでしょ?」

「妹さんがいるので、そこからポロっと聞きました」

「なーるほどね、ふむ...」


梨沙はドリンクバーで持ってきていたコーヒーを一口だけ飲んだ。


「待ってなさい。いつか自分から言ってくれる時が来るよ」

「そうとも限らないんですよね...。何せ自分の事を話すタイプではないので」

「そうなの?」

「話しかければ喋ってくれますが、あちらから話しかけに来てくれた事はありません」

「それ本当に友達?」

「まだその人は友達だと思ってないかもしれません」

「寂しいねぇ」


やがて来た料理を二人で食べ始めると、長谷の話はいつのまにか終わっていた。


帰りに、梨沙は一つだけ槐に伝えた。


「槐」

「はい」

「友達だからって、何でも話してくれるとは限らないし、何でも話して良い訳じゃないからね」

「...はい」


梨沙は真面目な顔でそう言った。

槐は帰り道を歩いている途中、梨沙のその言葉を反復した。


「友達だからって...か」


確かにその通りだと思った槐は、とりあえずこの件は一旦忘れることにした。

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