七
「こんばんわ、藍那迎えに来ました」
「あ、藍那ちゃんのお兄さん。今連れて来ますね」
保育士のお姉さんに藍那ちゃんを連れて来てもらって、帰る準備を始めた。
帰り支度も終わらせて帰ろうと言うところで、園長先生に長谷くんが呼ばれた。
奥の方で話をしていて、その場に私と藍那ちゃんの二人だけになった。
「藍那ちゃん、私長谷く...お兄ちゃんのお友達の槐って言うの」
「えんじゅ...?」
「そう、槐。藍那ちゃんは、今いくつ?」
「えと...いち、にぃ、...よん?」
「四歳?そっかー四歳ってこんな小さいんだなぁ...」
「えん...え...え...」
「槐、呼びにくかったらおねーさんでも良いよ?」
「おねーさんは、なんさい?」
「おねーさんは16歳だよ。永遠の」
「えーえん?ないてるの?」
「んーん、まぁ気にしないで」
「...?うん...」
まだ長谷くんは帰ってこないので、私と藍那ちゃんはまだ二人で会話をしていた。だが藍那ちゃんの方はまだ緊張しているみたいで、ずっと服の裾を弄っている。
「藍那ちゃん、お兄ちゃんのこと好き?」
「すきだよ...?」
「そっかぁ、それは良かった」
「おねーちゃんはすきじゃないの?」
「好きじゃないわけないじゃん」
「すきじゃない...わけない...すき?きらい?」
「あーごめんごめんちょっと分かりにくかったね。好きだよ、優しいよね」
「うん!おにーちゃんはやさしくて、かっこいいの!」
「うんうん、分かるよ」
兄の話になったら急に元気に嬉しそうに話し始めた藍那ちゃん。相当長谷くんが好きならしい。
「お兄ちゃんが好きなんだね」
「うん!すきぃ、おかーさんもすき!」
「そっか、おとーさんは?」
「おとーさん?おとーさんはしらない」
「知らない?」
「おとーさんいないよ?」
「え...?」
「藍那、大和さんお待たせ」
今の藍那ちゃんの言動に疑問を抱き、その疑問を投げ掛けようとした時に園長先生との話を終えた長谷くんが帰ってきた。
「長谷くん...」
「帰ろう」
「かえるー!」
私は、結局何も聞けずに一緒に帰った。
「おねーちゃんきれー」
「あはは、ありがと〜」
「あいなもいつかおねーちゃんみたいんなる」
「私を目指してくれるの?嬉しいな〜藍那ちゃんだったら私以上に綺麗になれるよ」
「ほんと!?えへへぇ〜」
「随分仲良くなったな」
黒いアスファルトの道路に私たち三人が並んだ影が夕日によって伸びている。藍那ちゃんの影が真ん中で一際小さく、次に私、一番大きく伸びているのが長谷くんだった。
当たり前か。
しばらくすると分かれ道に差し掛かった。
曲がれば私の家に通じる道だ。
「じゃあ、ここで」
「ああそっか、じゃあな。気をつけて帰れよ」
「ばいばいおねーちゃん」
「うん、バイバイ二人とも」
私は二人に別れを告げて、自分の家に通じる道ヘと帰っていった。
久し振りに公園でバスケをして帰ろうと、私は制服のまま公園へ向かった。
行ってみるといつものメンバーが集まっていた。人数は十人ちょっとくらいか。
「あ、槐だ」
「どうも」
「久しぶり〜最近来なかったじゃん、何かあった?」
「テストとか色々立て込みまして」
「へぇ〜もうそんな時期なのかぁ高校生も大変だねぇ」
「梨沙さんたちもテストは大丈夫ですか?」
「私は危ない科目は無いかな」
「良いですね、頭がよろしくて」
「ははっ、否定はしない」
梨沙さんはいつもの様にケラケラ笑った。この人どうにも掴めない...。あと私を呼ぶとき、ちゃん付けか呼び捨てが定まっていないのが少し気になる。
「バスケする?」
「いえ、今日はシュート練しようかと...」
「おやおや、何かあったの?君が試合しないなんて」
「別に何も...」
私はそう言ってネクタイを緩め、第1ボタンを外し、腰に巻いていたカーディガンを締め直した。
バスケットボールを慣れた手つきでドリブルしながらベンチに座ったままの梨沙さんに話しかける。
「梨沙さんはしないんですか?」
「あーそうだねぇ、どうしようかなぁ」
「まぁ私はどっちでも良いですけど」
「オッケー、じゃあ勝負しようか槐」
梨沙さんはそう言ってもう一個ボールを持って来て、私の目の前に立った。
「あっちのコート行こうか」
「........?」
梨沙さんは顎で向こう側のコートを指した。
この公園は本当に大きく、バスケットコートが3面、テニスコートが3面、トラックが1つ、後は芝生や木や花に囲まれた公園だ。春には桜が咲くのでお花見のお客でいっぱいになる。
さて、そんな事より今は梨沙さんのシュート勝負だ。
「入れてって、外した方が負け。負けたら、この後そいつが飯奢る」
「...分かりました、やりましょう」
「勝てる自信はあるかな?私に」
「負けると思ってたら、誘いには乗りませんよ」
「言うねぇ?」
梨沙さんが放つオーラが、一瞬で変わった様な気がした。
久しぶりにドキドキした。