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夏の樹  作者: 粥
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いつもの様に音楽を聴きながら歩いていると、目の前に気怠そうに歩く長谷くんを見つけた。

私はすぐに声をかけに行った。


「長谷くん、おはよ」

「...っ!ああ、大和さんか」

「一緒に行っても良い?」

「良いけど」


長谷くんは興味が無さそうにそう言った。本当に興味がないのかは知らないが、恐らくこれが彼の通常運転なのだろう。

来るもの拒まず、去る者追わずのスタイル。

意外にぼっちになりやすい人の受け答えの仕方だ。だって自分からは動かないから。


まぁ別にこっちに歩み寄って欲しい訳じゃないし、行けば応じてくれるのなら別に構わない。


「そういえば、この前はありがとう。おかげで助かった」

「この前...あぁ、藍那ちゃん迎えに行った日か」

「藍那、綺麗な人って言ってた」

「あはは...恥ずかしいけど、お世辞でも嬉しいな」

「藍那はお世辞なんて言えない」

「そ、そっか...」

「素直に受け取りな?」

「ありがとうって言っておいて」

「了解です」


学校に着くと長谷くんは自分の席にそそくさと座ってしまった。

ので、私も荷物を席に置いたら長谷くんのいる席へと向かった。長谷くんの席は一番前なので、机の前にしゃがんだ。


「あれ、席誰かに座られてた?」

「ううん?ただ長谷くんと喋りに来ただけ」

「そか...」

「ダメだった?」

「教室で話しかけられた事なかったから、意外だっただけ」

「そっか、この前初めて喋ったのも昇降口からは外だったか」


私は思い返してみると長谷くんに教室で喋りかけたのは初めてだという事に気づいた。


「良いの?俺なんかと喋ってて」

「何で?」

「俺ぼっちだし、ぼっちの奴と絡む奴は決まって変な目で見られる」

「ふーん」


私はしゃがんだ状態から立ち上がり、長谷くんの耳元まで自分の口元を持って来て小声で長谷くんにしか聞こえない声で囁いた。


「私が誰と話そうが、それは私の勝手でしょ?」

「...でも」

「私の友達をこれ以上蔑むのはやめて欲しいな」

「友達って...」

「友達だよ、私と長谷くんは。今決めた勝手に」

「...はぁ、分かったよ。分かったから離れて。この状況はまた別の誤解を受けるよ」

「そっか、ごめんごめん」


あまりに近過ぎて長谷くんは若干引いていた。

私はすぐに顔を遠ざけ、普通の距離感に戻した。


「長谷くん今日も藍那ちゃんのお迎え?」

「まぁ」

「そっかぁ、私も行っていい?」

「え?今日も雨降んのか...」

「んーん、私が一緒に行きたいだけ。今日は雨降らないよ」

「降らないのは助かるけど、何故に大和さんが一緒に来るの?」

「だから、一緒に帰りたいだけだよ。嫌なら良いんだけどさ」

「それ言われたら断りにくくなるって分かってるくせに...。まぁいいけどさ」

「ふふっ、ありがと」


私は半ば無理やりに長谷くんと一緒に帰る約束をした。



長い授業も終わり放課後、私は席を立って長谷くんの席へ行こうとしたところで既に長谷くんがこちらへ向かっていた。

長谷くんは私とあえて目を合わさずすれ違いざまに、


「校門を出て左」


端的にそれだけ言って長谷くんは一人で出て行ってしまった。

私も慌てて後を追おうとしたが、あの行動と言動の意味を理解して少し間をおいて教室を出た。


(校門を出て、左...)


駅や帰り道として使っている人たちが多い道の全く違う道を行き、交差点のところで長谷くんは待っていた。


「お待たせ、時間置き過ぎたかな?」

「いや、これくらいで良いだろ」


長谷くんは自分と一緒に帰っている私がみんなに噂される事を危惧してあえて、学校を出る時間を別々にさせたのだ。

まるで極秘任務を請け負っているエージェントの様で少し楽しかったが、彼からしたらただの迷惑だったかもしれない。


「ごめんね、私が無理に付いて行きたいって言ったばっかりに妙な気を使わせて」

「付いて来て良いって言ったのは俺だし、あんな風に学校を出ろって言ったのも自分の為だ。だから謝らなくて良い」

(優しいなぁ...)



本当にその通りだからそう言ったのか、私を気遣ってそう言ってくれたのかは分からないけれど、私は後者だったら良いなと思った。


「じゃ、行くか」

「うん」


私たちは雑談を交えながら藍那ちゃんの待つ保育園に向かった。


「大和さんはバイトしてるの?」

「バイト?うん、してるよ」

「何のバイトか聞いて良い?」

「料理屋、お酒は出ないところ。結構美味しいって評判だよ」

「へぇ」

「今度来れば?興味あるなら場所教えるよ」

「考えとく。入学当初からやってる?」

「もちろん。もしかして、バイトしたいの?」

「うん、そしたらうちの食費は俺分浮くから」


先程から執拗に詳細を聞いて来るからなんだろうと思ったらそういう事か。

バイトしてなかったんだな。


「あれ?でもじゃあ藍那ちゃんのお迎えとかどうするの?」

「毎日俺ってわけじゃないから、週二日くらいで入れるバイトとか無いかな...。でもそんな奴雇わないか」

「うーん...長谷くんが構わないなら店長に聞いてみるよ?うち個人経営だし、人は足りてる方だと思うから週二日でも大丈夫だと思うけど」

「ほんと?頼んで良いか?」

「ん、じゃあ今度シフト入ってるとき言ってくるよ」

「悪いな」


バイトで一緒になったら、長谷くんと少しは仲良くなれるかな...。

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