五十六
嶺二が転校してきた次の日、隣の席である藍那ともう結構喋る仲になっていた。
そして今はお昼休み中で、二人とも隣同士移動せずにお昼ご飯を食べていた。
「へぇ、じゃああの小坂さんの双子の弟なんだ」
「まぁ弟っていう気はしねーけどな」
「それで、小学校から紫音さんはこっちに来て、嶺二くんはあっちに残ったと」
「そぉだね、でも色んな都合でやっぱ同じとこいた方がいいでしょって事でこっち来た」
「そぉ」
そんな昔話をしていると露華がお弁当を持ってやって来た。
「何よ何よ〜随分仲よさそうにしてんじゃん」
「あんた...藍那ちゃんが言ってた露華ちゃんだな」
「そだよ〜よろしく嶺二くん」
「別に仲良くないし」
「露華ちゃんはお弁当?」
「うん、二人とも似たようなコンビニ飯だね」
「おにぎり2個で足りる?藍那ちゃん」
「足りる足りるー」
「藍那ちゃんって細過ぎてもっと食べたら良いのにって思う」
「これくらいで十分だよ。それに太ったら着たい服着れないしね」
「あー...女子の痩せたい理由ってほとんどそれ?」
「そーかもね〜」
藍那は適当に返事をしながらお昼ご飯のおにぎりとパックの野菜ジュースを飲み干した。
「そういえば、夏休み終わったから後もうちょいで文化祭じゃない?」
「あーそういえばそうだね!高校の文化祭って結構派手なイメージだから楽しみなんだよね〜」
藍那たちの学校では土日を文化祭の開催日として一般開放し、その前々日は午後から、前日は一日中文化祭の出し物を準備する期間が設けられている。
これはどうやら那月たちの世代と何ら変わりは無いようだ。
「このクラスは何すんの?」
「お化け屋敷、綿あめ屋さん、射的屋さん、メイド喫茶とかが選択肢としてあるらしいよ?」
「綿あめ...」
「綿あめ好きなの?可愛いな」
そんな話をしていると、凛が藍那の教室のドアを開けた。
他クラスの人間である凛があまりに堂々としてたから、みんな一斉に凛の方を見て、コソコソと小声で凛をリスペクトしていた。
「やっぱカッコいいって」
「そのくせ本命には子犬みたいに甘えた感じになるの超推せる!」
凛のことを知らない嶺二は、みんなのその小言を聞いて只者では無い事を察した。
「何か随分モテてる感じのする子だねぇ」
「実際モテてるんだよ、でも彼女はまだいない」
「何で?」
「そりゃあ...」
そう言って露華は藍那に視線を移す。藍那は気にせずおにぎりを頬張ったまま、凛に見向きもしない。
そんな藍那に話しかける為、凛は他クラスだろうが関係無しにズカズカ足を踏み入れた。
「藍那ちゃん、今日バイト?一緒に帰ろ」
「あ?まぁ良いけど」
「ありがと」
「凛くん、相変わらず藍那の送り迎えしてるの?」
「待て、別に送られてない。たまたま会って一緒に来てるだけだ」
「変わんなくない?」
そんな会話をしていると、嶺二がジッと凛の顔を見つめ、そして何かに気付いたようにハッとさせた。
「あ!そうかそうか!君が凛くんか!」
「................」
凛は初対面とは思えないくらい冷たい目で嶺二を見つめる。
見た目ヤンキーチックな嶺二に全く臆していないことが分かる。
「この前紫音が凛くんに会えたっつって喜んでたから、同じ学校だったんだなぁ?」
「...紫音?ああ...あの人か。君誰?」
「俺その人の双子の弟の嶺二。よろしくなぁ〜」
「藍那ちゃんと友達になったの?」
「おぅ!マブだべ!」
「なってない。話しかけて来るから話してるだけ」
「え!?そうだったの?」
「何だって良いけど、藍那ちゃんの嫌がることしないでね」
「は〜い」
凛は藍那と帰りの約束をするだけして帰っていった。
凛に冷たい対応を取られて凹んだかと思いきや、ニヤニヤと変な笑顔を浮かべていた。
「へぇ〜〜おもろい子だねぇ〜」
「何処が?めっちゃ冷たかったじゃん」
「いやぁ、あのいかにも、取るなよ?態度で言ってくる感じ。オモロイわ」
「お昼ご飯の話か?」
「んー?そだよ〜?ご飯美味しいか?」
「もう食べた。トイレ行ってくる」
嶺二の言った言葉の意味を全く理解せず、理解しようともせずに藍那はトイレに行くために教室を出て行った。
トイレから出てくると、凛がいた。
凛のクラスの教室にちょうどトイレがあるという作りだったので別に驚きはしない。
「藍那ちゃんだ」
「お前何してんの、教室の前で一人で」
「知り合いが電話して来たから、それを取ってただけ」
「あっそ」
そう言って藍那は自分の教室に戻ろうとしたところで、凛にワイシャツの裾を掴まれた。
「藍那ちゃん...」
「なんだ?何か用か?ワイシャツの裾引っ張ると伸びるからやめてほしい」
「ごめん、じゃあこうする」
凛は藍那の手を握った。優しくも不安げな表情を浮かべて。そしてそれは握った手にも表れていた。
「あの人...誰?」
「あの人...あー、嶺二くんか」
「どんな関係?」
「ただのクラスメイトだが」
「そか...あんま仲良くしない方がいいかも、あの人とは」
「それはお前が決める事じゃ無い。って何でそんなこと言うんだ?」
「................」
凛はジッと藍那を見つめるだけで、藍那の問いには答えない。
するとその時昼休みが終わるチャイムが鳴り、それに気付いた凛が藍那の手を離した。
「ごめん」
「もういいか?」
「ん」
「授業遅れるなよ」
「うん」
藍那はそう言って自分の教室に帰っていった。




