五十五
時は遡って藍那を送り届けた凛のその後について今回は話そう。
凛はその後、街中をボーッとしながら練り歩いていた。
そしてふと気になった古着屋さんに入って洋服を見ていると、急に店員さんではない人に声を掛けられた。
「あの...間違ってたらごめんなさい、凛くん...?」
「................誰」
「すっごい時間使って思い出そうとしたのに駄目だったね...。私、凛くんと同じ中学だった小坂 紫音って言うんだけど、覚えてないかなぁ?」
「...この前、SNSフォローしてきた?」
「うん!懐かしさのあまり思わず。ダメだった?」
「別に」
「そっか、じゃあリフォローしておいてね」
凛はフォローを返していないことを今更思い出して、今のうちにフォローし返しておいた。
と言っても凛はほとんど投稿しないし見ていない。
そもそも始めたのも、昔藍那が気まぐれで始めたのに便乗して自分も始めただけだった。
でも、いつのまにか飽きて辞めていた藍那に乗り遅れ、まだアカウントを消せずにずっと残っていただけだったから、ほとんど抜け殻状態である。
「ありがと。そんな事よりここで何してるの?服買いにきたの?」
「ただ見てただけ」
「そっか。凛くんの学校って、この近く?」
「まぁ」
「あーじゃああそこかな?うちの学校と近いね」
「へぇ」
「凛くん、この前花火大会に行ってたでしょ?」
「うん」
「見つけたんだ〜女の子と一緒にいたから声かけなかったけど。あの子彼女?」
「違う」
「じゃあ誰?」
「藍那ちゃん」
「あいな...もしかして長谷 藍那ちゃん!?え、分かんなかった!綺麗になってたから...」
「藍那はずっと綺麗だよ」
「あははっ!相変わらず仲が良いんだね〜二人は」
紫音がずっと話しかけているが、全く紫音の方を見ずに凛は服を見ては手に取ってサイズとデザインを見ながら店内を回っていく。
相変わらず藍那以外の人間には、全く興味を示す素振りさえ見せない。
店内を見回って、一枚だけ服を買って店外へ出た。
帰ろうとしたところで、紫音に制服を引っ張られた。
「ね、久し振りに会ったんだし、もうちょっとお話してかない?」
「何も話す事ない」
「え〜いっぱいあるよ。ほら、あそこのカフェでさ」
力づくで引っ張られ凛はカフェへと連れて行かれた。
店内に入ると、ほとんどの客と店員の視線が二人に集まった。凛は言わずもがな、紫音は中学で一番可愛いとまで言われていた女子だ。高校生になった今でもそれは健在で、二人セットで観るととても絵になっていた。
テーブルに着き、凛はアイスコーヒー、紫音はアイスティーを頼んだ。
「ここら辺はよく来るの?」
「藍那ちゃんのバイト先だし、見送りで」
「へぇ〜、私もよく来るよ。古着屋さんいっぱいだし、こういうお洒落なカフェもあるしね」
「あんた、何で僕を引き止めたの。何か話あったんじゃないの」
「話なら今してるじゃん?ただの雑談」
「...あそ」
凛は運ばれて来たアイスコーヒーをストローから飲み、面倒臭そうに外を眺めた。
段々と暗くなって来て、藍那のバイトが終わるまでここに居ることを決意した。
「ねぇ、藍那ちゃん以外の中学の人とまだ会ってる?」
「会ってない」
「そうなんだ、私SNSやってるから、たまに一緒に遊ぼうってなるよ」
「あそ」
「凛くんは、中学の時友達多かった気がしたけどそんな事ない?」
「上部だけならいくらでもいたかな」
「あはは...そっか」
「あんたこそ...」
凛はようやくそこで初めて目の前にいる紫音の目を見て話した。
「あんたこそ、中学の時は愛想を振りまくってたし、お友達は多かったんじゃない?」
そう言った凛の顔は至極つまらなそうで、皮肉をこれでもかと言うくらい込めた言い方をした。
そんな凛の意見に、紫音は真っ向から応えた。
「うん、中学の時は...そうだったかも。嫌われないようにするのに必死だった。...でも、今は本当に信頼してる友達だけを大事にしてるよ」
「................」
「だから、凛くんが思い描いてる、誰にも意見しないで同調してるだけの、つまらない小坂 紫音じゃあ無いんだなぁ〜」
紫音はニヤニヤとイタズラが成功した子供のように笑いながらそう言った。
正直その言葉で怒らせて帰らせようとしていた凛は、予想外の返しをされて面食らった。
「驚いた。あんたなら、こう言われたら怒って帰ると思ってた」
「ふふんっ!舐めてもらっちゃあ困るな〜」
「................」
「ん?怒ってる?」
「いや、面白いと思った」
「その割に全然笑ってないなぁ〜。でも面白いと思ってくれたなら良かった!」
紫音は嬉しそうに笑った。
凛の中では、紫音はとりあえず人の言う事に同調して、波風立てないように、保身に走った会話しかしなさそうだったので、初めて会話して意外な一面を見た。
藍那とはまた違う『強さ』を持った人だという印象を受けた。
少しだけ興味を持ったので、今度は凛から会話のネタを出してみた。
「あんた、高校でもそんな感じ?」
「私?こんな感じっていうのは...?」
「その...明るいっていうか、馬鹿みたいっていうか」
言い方は酷いがつまりそういう事だ。
紫音は凛の言い方に苦笑しながらその質問に答えた。
「馬鹿みたいって...。まぁ、この性格は本当に生まれ持った性格だからこのままかなぁ。猫かぶってると思った?」
「まぁ...」
「あははっ!よく言われる。長〜く一緒にいるとね、みんな段々これが素なんだって理解してくれるんだ」
「................」
「だから心配しなくても良いよ。ありがと!」
「別に心配はしてない」
「ありゃ...。凛くんは?いつも学校じゃそんなつまらなそうにしてるの?」
「どうでしょうね」
そんな感じにずっとカフェでしゃべり倒して、あっという間に藍那のバイトが終わる時間になった。ちょうどその時間でカフェの閉店時間だったので二人は店を出た。
「いっぱい喋っちゃってごめんね?疲れたでしょ」
「はい」
「あはは〜。じゃあまた今度会おうね!ばいば〜い」
「................」
凛は大手を振って帰る紫音を、興味無さそうに途中まで見送った後、藍那のバイト先へ急いだ。
店の前で待っていると、バイトを終えた藍那が気怠そうに出てきた。そして、凛がいる事に驚いていた。
「帰ったんじゃなかったのか?」
「色々あって、藍那ちゃん待つ事にした。家まで送るよ」
「???この時間まで何してたんだ?というか、なんか疲れてないか...?」
「んー...まぁ今言った色々が疲れになったのかも」
「深く聞くつもりはないけど、さっさと帰るぞ。もう疲れた」
「うん」
そして凛は藍那を家まで送り届けた。
一話一話のほとんどを思いつきで書いているので、全然固まりきっていない設定で書いており、キャラブレが多少出ていると思います。明らかに変わっただろ!と突っ込まれない為に尽力してはいますが、おかしいなと思ったら優しい心で目を瞑っていただきたいです。
最初に言っておきます、この話を書いたのは12/29なのですが、紫音と嶺二というキャラを作ったのもその日です。急遽です。




