五十三
夕方になり、ひぐらしの鳴き声が聞こえてくる中、藍那はリビングでテレビを見ていた。
テレビでは各地の花火大会のネタで盛り上がっていた。
ボーッとテレビを見ていると我に返す様にインターホンが鳴り、藍那を玄関へと誘った。
「こんばんわ、藍那ちゃん」
「ん」
「行こ」
「ん」
藍那は素っ気ない返事をして玄関に置いてあったサンダルを履いて凛と一緒に外へ出た。
「浴衣はー?」
「着るわけないだろ、めんどくさい」
目的地に近付くほど、太鼓と民謡が大きくなっていき、人の数も増えていった。
「藍那ちゃん、手、つないで良い?」
「何でだ?」
「逸れちゃうでしょ?」
「その歳になってまだ逸れる事が出来るのか凛は」
「いや藍那ちゃんの話」
「................」
藍那と凛は仲良く手を繋ぎながらお祭りの会場になっている神社にやって来た。
この神社の近くに大きな川があるので、そこで打ち上げ花火を行う。だからみんな焼きそばや綿あめ、たこ焼きなどを買ってから打ち上げ花火の会場に向かうというのが恒例になっていた。
「藍那ちゃん、何食べる?」
「綿あめ!」
「じゃあ最初綿あめの屋台行こっか」
「うむっ!」
若干興奮気味の藍那を綿あめ屋さんまで連れて行き、列に並ぶ。
「おい見ろ!あんなに大きいぞ!すごいな!」
「一人で食べたら他のもの入らないから一緒に食べようね」
「む!バカにするな、一人で食べられる!」
「ダメだよ。藍那ちゃん意外と胃袋小さいんだから」
「むぅ...」
「焼きそばとか食べれなくて良いの?」
「食べるぅ...」
「じゃあ我慢しよ?」
「うん」
最早子供のようになりつつある藍那を宥めつつ、凛は綿あめを買ってあげた。
(意外に高かったな...まぁこのボリュームだし納得)
密かに綿あめの値段の高さに驚いていたが、隣で幸せそうに頬張っている藍那を見て、それでも良いかと思ってしまった。
「凛、次は焼きそばだ」
「うん、分かった」
そう言って焼きそばの屋台にいると、通りがかった人に声を掛けられた。
どうやら凛たちと同じ中学だった人らしく、地元の知り合いだった。
「あれ?美山に長谷じゃん。久しぶりー!」
「おー久しぶり」
「................」
藍那は愛想笑い、凛は藍那の後ろから睨んでいるのとそう大差ないくらいの目つきで相手を見つめる。多分顔と名前を思い出そうとしている。
「何だ何だ〜?ようやく付き合い始めたのかお前らは」
「別に付き合ってない」
「え?祭り一緒に来て、しかも手繋いでるって事はそういう事じゃねぇの?」
「これは藍那ちゃんが逸れない為」
「はぁ...変な奴らだなぁ。あ、そうだ!お前らアイツ見た?小坂」
「小坂...?」
「ほら、中学ん時めっちゃ美人だった小坂!今見たって奴と会ってさ、また一層可愛くなってるらしいぜ」
「「へぇー」」
同級生と比べて平坦な反応を見せる二人。拍子抜けしたのか同級生はつまらなそうにして去ってしまった。
「結局名前思い出せなかったな...。卒アル見たばかりだから分かると思ってたけど」
「小坂、そんな名前だったな。さぞかし可愛いんだろうな」
「藍那ちゃん可愛いもの好きだもんね。それっぽい人見かけたら教えるよ」
「たのんだ」
腹を満たした凛と藍那は、人の流れに乗って花火大会の会場に着いた。
会場は凄い人混みだったが、丁度人二人分空いてるところがあったので、そこで立って見ることにした。
しばらくすると、アナウンスが流れ、その後花火が打ち上がって行った。
数々打ち上がる花火の種類と大きさに、観客たちは歓声を上げていく。
「すごいね、キャラクターの花火だ」
「枝垂が一番好き」
「あの枝垂れ柳みたいに打ち上がるやつ?」
「そう。凛は?」
「僕、彩色千輪菊。あの小さい花火がいっぱい上がるやつ」
「花畑みたいなやつか」
「そうそう、綺麗だよね」
二人はそんな会話をしながら花火に夢中になっている。
だが、みんなが花火に夢中になり夜空を仰ぎ見ている中、藍那と凛を見つめる女性がいた。
(...アレは...)
その女性は二人を確認した後、まだ打ち上がっている最中の花火を無視して、一人帰っていった。
そして、開けた場所でバイクにまたがるアッシュグレーに髪を染めた男性からヘルメットを受け取った。
「花火大会は楽しめた?紫音」
「んー?まぁ、それなりにはね」
「会いたがってた奴は見つけられた?中学ん時のお前の...」
「余計な事言ってないで行って」
強制的に会話を中断されて、男性は口をチャックした。
そう言って二人は二人乗りで何処かへ走り去ってしまった。
明けましておめでとう御座います、の頃合いですかね...?
3日連続投稿を完遂しまして私非常に満足であります。
というのも休みが終わればまた長期間投稿が空いてしまうので、今の内にという心算でございました。
今年も、粥と藍那たちをよろしくお願いいたします。




