五十
長い一学期が終わって夏休みに入った。
宿題も早々に終わらせた藍那は、ベッドの上でゲームをしていた。
(暑そうだけど、曇ってきたな...)
冷房を付けていた藍那の部屋は25度に設定されていて快適そのものだった。
今日母は朝から仕事で家には誰もいなかった。家に一人なので、好き勝手過ごそうと決めていた。
その時、藍那の家のインターホンを鳴らした者がいた。
「こんにちわ、藍那ちゃん」
「...何故来た」
「藍那ちゃんの顔が見たくて」
「彼氏か!」
「ふふふっ」
「暑いから帰るか入るかどっちかにしてくれ」
「じゃあお邪魔しまーす」
藍那は凛を家に入れた後、一応お茶を出してあげた。
「ありがとう」
「別に」
藍那はそっけなくそう言ってベッドの上で携帯を弄り始めた。
「藍那ちゃん、宿題終わらせた?」
「まぁ」
「さすが」
「凛もだろ」
「んーまぁ後ちょっとだよ」
絶対終わらせてるな。藍那は心の中でそう思った。
「ねぇ、5日後の夏祭り一緒に行かない?」
「えぇ...めんどくさい。人多いし」
「でも花火とかあるよ?藍那ちゃんの好きな綿あめも売ってるよ?」
「花火...綿あめ...」
「りんご飴も食べようよ」
「よし、行くか」
「やった〜」
凛は嬉しそうに微笑んだ。
凛が部屋を見渡して、本棚から中学のアルバムを見つけた。
「あ、懐かしいこれ」
「ん?ああ、卒アルか」
「一緒に見よ」
「卒業してから一回も見たことないな」
凛と藍那は隣り合って卒業アルバムを眺めた。
知っている顔がいっぱいあって、懐かしさで笑みが零れる。
「あーこんなだったこんなだった」
「あ、こいつよく私に話しかけて来たけど全然話続かなかった奴だ。懐かし〜」
「え、この人藍那ちゃんのこと好きだったらしいけど、気付いてなかったの?」
「え?あ、そうだったのか?知らなかった」
「結構分かりやすかったと思うけど...」
「そうか?...あ、多分凛がいたからだ」
「僕?」
「凛、今と同じくらい私と一緒にいたし、言い寄って来てたから、こいつのアピールをアピールに取れなかったのかも」
「僕のせいか...」
凛は申し訳ないといった顔をするかと思いきや、安堵する顔を見せた。
色々見ていると、藍那と凛が良く写ってる写真が多かった。
「凛はこの時から私の近くをウロウロしてたな」
「うん、そうだね」
「まぁそれは今も変わらないか」
「藍那ちゃんは...変わったよね」
「まぁ、色々見て来たし、聞いて来たからな」
「お父さんのこと?」
「それもそうだが、凛にも関係ある」
「僕と何か関係があったの?」
藍那は元々他人に対してここまで拒絶的、無関心ではなかった。
どちらかといえば社交的で、人の中心にいるタイプだった。でもいつの日からか、藍那は一人になりたがった。
誰かに喋りかけられれば、愛想笑いで心の底から笑うことなく、会話が続かない様にする話し方をする様になった。だからみんな藍那の近くに寄ることをやめた。
そして藍那のその対応はもちろん凛にも例外なく行ったのだが、凛の場合そう簡単に引き離すことはできず、凛だけは冷たい対応を取りながらも、まだ会話する様になった。
凛は藍那が何故そんな対応をする様になったのか聞いたことがなかった。初めて聞けるその理由に、少しソワソワした。
「凛は、結構かっこいいらしいぞ」
「...は?」
「中学の時、凛とは今より仲良く接していたろ?」
「うん...」
「それが、他の女子は気に食わなかったらしくてな。よく虐められたなぁ〜」
「そうだったの!?」
初めて聞く話に凛は耳を疑った。
「だから私は友達を作るのをやめた。一人で生きられる様になりたかったから」
「...僕のせいで、ごめん...」
「凛のせいじゃない、まして私のせいでも無いがな。これに関しては今更掘り返す話でもないんだ。気にするな」
藍那はそう言って凛の頭をワシャワシャと撫でた。それはまるで、那月が藍那にする様な撫で方だった。
「今は今で露華もいるし、楽しい高校生活を送れてる」
「そっか...」
卒アルも最後のページになり、凛はそこである人物を見つけた。
「あれ...この人...」
「ん?あ、こいつ確か中学で一番可愛いって言われてた奴だ。男子に人気で、愛想振りまいてたなぁ〜」
「この前この人にSNSでフォローされた。何でだろうって思ってたら、同じ学校だったんだ」
「へぇ〜確かうちの高校からも近い学校に入学してた気がする。もしかしたら最近見かけたんじゃないか?」
「へぇ、まだフォローし返してないけど」
「してやったらどうだ?うまく行けば付き合えるかもしれないぞ?」
「................」
「な、なんだ...?」
凛はとても残念な顔をして藍那を見つめるが、藍那は全く分かっていなかった。
まだ彼女は気付いていませんよ




