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夏の樹  作者: 粥
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四十四

どうも初めまして、ってわけでも無いのかな?大多数は小さい頃の私を知ってるみたいだし。

じゃあどうも久しぶり、16歳になった藍那(あいな)だよ。

お兄ちゃんの次は私の話なんだね...。

はぁ...私にみんなを楽しませる話なんてないのに...。ま、もし良かったら見て言ってよ、どうせこれはただの自己満足だし。





高校一年生になって、最初の秋が来た。

嫌いな夏が終わって清々する。涼しい季節で、ワイシャツ一枚で快適になるのは本当に嬉しい。


藍那(あいな)、買い物行こう。夕飯の材料買いに行かなきゃ」

「うん、ちょっと待ってて」


前述した通り、私には父がいない。だが、頼りになるお母さんと、かっこいいお兄ちゃんがいる。あとお兄ちゃんのお嫁さん、彼女のことはもう本当のお姉ちゃんとして扱っちゃってるけど、嬉しそうだったから良いかな。


お兄ちゃんはもう家を出てて、お嫁さんと子供と一緒に暮らしている。

高校生から付き合ってて、そのままゴールイン。とても幸せそうな結婚式だった事を今でも鮮明に覚えている。


「今日は軽く野菜炒めにしちゃおっか」

「うん」


お母さんと来たスーパーで野菜炒めの具材を買って、すぐに家へと帰った。


今は母と二人暮らしなのだが、その事をクラスメイトなどに伝えるとやっぱりどうしても気を使われてしまう。

だから父は単身赴任中だと言って誤魔化す様になった。


「学校どう?楽しい?」

「別に普通かな」

「普通か〜」

「そっちこそ、職場で上手くできてんの?」

「出来てるわよ〜最近エミちゃんが結婚したのよ!」

「エミちゃん...って誰だっけ?」

「うちで一番可愛い子!この前教えたでしょ?」

「忘れた」


私とお母さんはそんな会話をしつつ、夕飯を食べ終えた。


部屋へ戻りベッドへダイブ、携帯を弄って居る内に眠くなっちゃって、風呂にも入らず眠ってしまった。

起きたのは朝の4時。


(お婆ちゃんかよ私は...)


心の中でそう呟いた。

空が白んでいて、遠くの方には朝日が顔を出そうかという頃合いだった。

登校までまだ全然時間があったので、散歩に出かけた。


「涼し」


吹き抜ける風が、防寒対策として羽織ったパーカーの裾と私の長い髪を揺らす。

ポケットに手を突っ込んで歩く事15分程度。近くの海にやって来ていた。

特に海に行くことを目的として歩いていた訳ではないのだが、私は朝方に見る海の新鮮さに引き寄せられ、砂浜を踏みしめた。


風の匂いが変わったので大きく深呼吸。やはり潮の匂いがするのは否めない。


「........」


波打ち際を、海に入らない程度に離れて歩いていく。全く人がいないかと思っていたけどそんな事はなく、結構朝のランニングやペットの散歩で来る人がいた。と言っても起きるのが早い70、80のお爺ちゃんお婆ちゃんばかりだった。



朝の散歩にも飽きて家へ戻ったのは7時くらい。思いの外海岸に居たんだなぁ〜と呑気に考えていた。

玄関を開けると、起きたてのお母さんと遭遇。


「あれ?あんたどこ行ってたの?」

「早くに起きちゃってちょっと散歩に」

「えぇ〜!危ないでしょ」

「もう高校生だし、それにこんな朝早く起きてる人なんてお年寄りくらいだよ」

「いやいや、高校生なんて一番需要があるわよ」

「何言ってんの」


確かに高校生は可愛いけど、こんな擦れた目をして居る私に乱暴しようなんて人は気が狂ってる。

朝ごはんを食べたり、昨日お風呂に入れなかったのでシャワーを浴びてゆっくりしていると登校時間になったので制服に着替えて家を出た。




学校に着くと、私は自席でずっと携帯を弄って居る。基本的にそこから動かない。

学校での私は家よりも気怠げで、面倒臭そうで、やる気がなく、でも愛想笑いはするというスタイルだ。

あといつまでも学校に居たくないので学校が終わったら即座に下校してる。後たまに、甥の大和(やまと)の送り迎えくらいだ。

そんな学校の私をお姉ちゃんに話すと、


「那月みたい」


と、言われた。


どうやら行動がお兄ちゃんと全く一緒だった様で、ケラケラ笑いながら言われた。

小さい頃は気にしなかったし、今の自分が言えたことではないが、よくそんな人間が彼女を作ってその後円満に結婚出来たな...。


自席で携帯を弄っていると、一人の男子が話しかけて来た。


「藍那ちゃん、おはよぉ」

「んー」


私に話しかけて来たこのゆるふわな雰囲気全開の男は、私の保育園からの幼馴染の美山(みやま) (りん)

腐れ縁という事で、ずっと私に構い続けている。

何かは忘れたが、私が何か彼にとって心に響くようなことを言ってしまって、それがきっかけで懐くようになった。


「藍那ちゃん、今日一緒帰ろ?」

「一人が良いんだけど」

「え〜...そこをなんとか。ね?」


凛はコテンッと首を傾げて可愛気にそう言った。

そんな事されても私は断る事をやめない。


「...好きにすれば?」


私も大概甘い。

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