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夏の樹  作者: 粥
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四十三

秋穂の家に泊まることにした宗介は、帰らなくて良くなったのでお風呂に入る事にした。


「っつぁ〜!あぁ〜良い湯だ」


宗介はお風呂に入って、あまりの気持ちよさにそんな言葉が漏れた。

風呂はやはり大きく、お洒落だった。何かうなじに当たる機械はボタンを押すとお湯が出て、常時掛け湯の様な状態になった。しばらく使っていたが、耳に水がたま〜に入るので宗介は止めてお湯に浸かった。


「それにしても...やっぱ良い家なんだなぁ〜こんなデケェ家の風呂入ったの初めてだ」


宗介は身体を洗う為に湯船から出た。

すると、後ろから秋穂が話しかけて来た。


「宗介」

「あ?どしたぁ?」

「着替え、置いとく」

「おー悪りぃな」

「........」


宗介はお礼を言ってシャワーから出るお湯で頭を濡らし始める。

シャンプーを手にとって頭を洗っていると、まだ風呂場のドアの奥にいた秋穂に驚いた。


「あれ?お前まだそこにいんの?」

「ん」

「何で...?まぁいても良いけど、出る時恥ずいから、そん時は出ろよ」

「ん...」


だが秋穂はその後すぐにお風呂場から出て行ってリビングのソファに寝転んだ。


(俺の着替えって...この家にあんのか?)


そんな疑問を抱きつつ、宗介はお風呂から上がった。


ホカホカを通り過ぎて熱くなった身体を、クーラーの効いた部屋が冷ましてくる。湯冷めするかと思っていたが、むしろこれくらいが宗介にはちょうど良かったみたいだ。


「ふぅ〜!良い湯だった!サンキュな!あと着替えも。これ、親父さんのか?」

「........(コクリ)」

「そか。...お前とおんなじ匂いがすんな」


宗介は自分の体の匂いを嗅いでそう言った。二人とも同じボディソープを使ったので当たり前なのだが。


「そう言やぁ、ベッド買ったんか?」

「........(フリフリ)」

「嘘だろ!?まだ買ってねぇの?じゃあ俺どこで寝るんだよ?」

「........(ポンポン)」


秋穂は自分が普段寝る場所として使っているソファを叩いた。どうやら二人はそのソファで一夜を過ごさなければいけないらしい。


「いやぁ...ちょっと流石にそれぁ...厳しいんじゃねぇかな?」

「........?」

「俺も一応男だし、お前んことは手のかかる妹くらいに思ってるけど、だからって一緒に寝るのは...なぁ?」

「妹じゃない」

「わぁーってるよ!例えっつーかそんな感じだ」

「じゃあ別にいいでしょ」

「お前...貞操観念どうなってんの?緩すぎだろ...」


宗介は秋穂の対応にただ頭を抱えるだけだった。

とりあえずは、秋穂にソファを譲って硬いフローリングの床で寝ることにした。


「宗介、痛くない?」

「痛ぇよ。痛ぇけど、だからって一緒にゃ寝ねぇぞ」

「どして?」

「どして?って...あのなぁ!」


宗介は起き上がって、秋穂の目を真っ直ぐ見て話した。


「お前は...!...何つーか、学校一の美少女って言われてんだ!俺もそう思ってる...。だから、軽はずみに一緒に寝るとか...今日だって本当は泊まらねぇ方が良かったんだ!」

「...迷惑だった?」

「違ぇ、そうじゃねぇ!泊めてくれたのはありがてぇけど、もっと危機感を持てって言ってんだ。俺みてぇなボンクラ相手にこんな事してちゃ、変な奴らに付け入られるかも...」

「じゃあ...」


秋穂は宗介の言葉を遮って、胸ぐらを掴み引き寄せた。

そして、これ以上喋らせないと言わんばかりに、宗介の唇にキスをした。

そしてゆっくりと唇を離して、いつもの無表情で宗介の目を真っ直ぐ見てくる。


「宗介が私の隣にいればいい」

「あ...おま...何を...」

「ずっと、一緒にいればいい」


あまりに突拍子も無い事が起きて、宗介は混乱していた。

急に妹の様に思っていた秋穂にキスをされて、元々可愛いと思っていた秋穂の顔は、みるみる大人の女性の艶っぽさが出てきた。

今宗介の前にいるのは、一人の恋する女性なのだ。


宗介の唇には、秋穂の唇の柔らかい感触が残っている。

秋穂はまだ狼狽えている宗介をジッと見つめるだけで、何も言わない。


「...なんだよ...それ...。お前、俺んこと好きなのか...?」

「多分好き」

「多分て...お前そんな曖昧な...!」

「宗介が家に来ると嬉しい、宗介が帰ると寂しい、宗介が頑張ってると応援したくなる、宗介が悩んでると助けてあげたくなる、宗介が笑いかけると...ここがギュってなる」


秋穂は自分の胸に手を当てて、ギュッと服を掴んだ。


「宗介、私のこれは、『好き』じゃない?」

「...いや...好きじゃない...とも言い切れん...けど...。いやあの...」

「宗介は、私に『好き』をされて、迷惑...?」


秋穂はようやく表情を変えて、宗介には尋ねる。不安そうな、今にも泣きそうな表情で。


「め、迷惑ちゃうよ!めっちゃ嬉しいって!ただお前...俺何かで、ええの...?」


宗介は混乱のあまり言葉の訛りが出て来た。


「ん...宗介がいい」

「...マジか...」


呆気にとられながらも、二人はどうやら付き合うことになったらしい。


そして秋穂は宗介のメガネに手を伸ばして、そっとメガネを宗介から取り上げた。


「ん...見えへんて...」

「........!」


メガネを取った宗介はめちゃくちゃ目つきが悪かった。相当目が悪いのか、眉間にシワが寄って、いつものメガネを掛けている優しい表情からは想像出来ない顔つきになった。

だが、秋穂にはそれがツボだったのか、胸の奥がまたキュンッとなった。


「宗介、カッコいい...」

「はぁ?意味分からん...目付き悪なるから返してや」

「やだ」


秋穂はまた宗介にキスをした。

今度はメガネが無い分やりやすくなった。


「...ぷはっ!またお前勝手に...」

「じゃあ次は宗介から」

「はぁ!?何でや!...嫌やわ恥ずいし...。つか今付き合って今キスってどんだけハイスピードやねん...」


宗介はゴニョゴニョ言いながらも、ゆっくり秋穂の唇にキスをした。


「嬉し...」

「笑うな、めっちゃギュッってしたなるから...」

「していいよ?」

「...お前ほんま...やな奴やわ...」


そう言いながらも宗介は秋穂をギュッと力強く抱きしめて、ソファの上で二人は眠った。







「やっぱベッドは買おう」

「宗介狭いから降りて」

「薄情過ぎや!!!」

思いの外早くくっ付いたなぁって感じです。それは自分でも思ってます。

もう終わらせにかかって来てるのかなぁって感じですね。


いや、そもそもこの二人に関しては元からおまけ感の強いカップルだったんですよね...(この二人が好きだった人ごめんなさい)

まぁでも先ずは二人が無事付き合える所を書けて良かった気がします。いやホント。


では最後の二人を繋げる作業にかかりますかね...。

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