四十一
「よっ!」
「...え?」
「海行くぞ!那月!」
「海...?何で?」
「とりあえず水着を持てー!」
「ちょっ、玄関先で騒がないで欲しい」
とりあえず騒がしい宗介を家に入れると、家には槐がやって来ていた。
「お!大和さんだ〜何だお家デート中だった感じ?」
「さっきまで膝枕で寝てたよ、私が」
「あらぁ〜邪魔したなぁそれは」
「良いよ、いつでも会えるしね。それで赤石くんは何しに来たの?」
「そうそう!あのな?今秋穂に夏休みを満喫させようと躍起になってんだ。ほんで今日は海行くかぁとか考えてたけど二人で行くのもつまんねぇと思ってお前ら呼んだ!」
「呼んだっつか来たんだろ」
「海かぁ、そういえば行ってないなぁ。私行きたいかも」
「え...本当に?」
「よしっ!んじゃさっさと準備準備!」
「いや俺行くなんて...」
「那月来ないの?」
「大和さん来んのにお前来ねぇの?」
「いや槐が行くなら行くよ」
「何なんだよ!」
槐は一旦水着やらを持って来るために家に戻った。
荷物を持って帰って来た槐を連れて三人は秋穂の家にやって来た。
秋穂に家にやって来て眠そうな声をインターホンから聞かせてから部屋に入れてくれた。
玄関を開けるとブカブカのTシャツから肩を出させて、相変わらず履いてるか履いていないか分からないくらい短いパンツを履いていた。
「........?」
「あー、那月と、大和さん。この前会っただろ?」
「あー...」
「覚えてないんだ...。というかちゃんとショーパン履いてる?」
槐がそう聞くと秋穂はTシャツの裾を上げて確認した。すると履いてなくて、下着が露わになった。
那月は予想していたのか後ろを向いていたので槐が目を塞ぐことは無かったが、宗介はがっつり見た。
「履いてなかった」
「みてぇだな、履いてこい」
「........(コクリ)」
宗介に言われて秋穂はショーパンを履きに部屋へ戻った。その間に三人はリビングにお邪魔した。
「いつもあんな感じなの?何というか...ズボラとも違うけど抜けてるっていうか」
「そうだなぁ〜この前は上も着ずに下着だけで出迎えられた事があったっけか?」
「それヤバいんじゃ...」
「宅配ん時どうしてんだろうな?」
「相当気まずいだろうな」
「那月見てないよね?」
「見てないよ」
「すっごいおっぱいだったよ、意外と大きかった。私負けちゃった」
「別に教えなくて良いからね」
那月は興味無さそうにそう言った。
戻って来た秋穂は宗介の隣に座って四人はこれからどこに行くのかを改めて宗介の口から伝えられた。
「海に行こうと思うんだ、夏だしやっぱそういうのも必要だろ!」
「海ってどこの?」
「そこ」
「だろうな」
近辺に海があるとわざわざ遠くに行く必要が無くて良いが、新鮮味に欠けるのが傷である。
「暑い」
「荷物預けてさっさと泳ぎに行こうぜっ!」
「そうだな」
四人は荷物を海の家に預けて、早速海に入っていった。
秋穂は泳げないので浮き輪を持っている。
「意外と冷たくないね」
「熱いからね」
那月と槐は二人で少し深い所に泳ぎに行った。
「私沖の方に行くにつれて水が冷たくなってくのちょっと怖いんだ」
「足伸ばすと冷たい水に触れるよね、ちょっと分かる。浮き輪いる?」
「んーん、大丈夫だけど何かあったら助けてね」
「もちろん。おいで」
「ん!」
那月が槐の方へ手を伸ばすと、槐は嬉しそうに那月に抱き着いた。冷たいはずの水の中で、二人はお互いの体温を感じた。
一方、浅瀬で浮かんで寛いでいる秋穂の下から宗介が出て来て秋穂を驚かせた。
「ばぁっ!!」
「........」
「...なんつって...。あれ?驚かねぇ?」
「見えてたし」
「あー...海綺麗だもんな」
地元の海の透明度に裏切られた宗介だった。
宗介は、秋穂の使っている浮き輪に腕を引っ掛けて至近距離で会話を始めた。
「遊ぼうぜ?」
「私泳げない」
「ちょっと深くまで行こうぜ、ゴーグル付けて中見ると綺麗だぞ」
「怖い」
「だぁ〜じょーぶ!俺がいる!」
「........」
「な?」
宗介はそう言って首をコテンッと傾げた。その仕草が可愛くてニヤケそうになったが秋穂はしっかり無表情を保って宗介の提案に乗った。
「じゃあ...いいよ」
「うっし!任せろ!」
宗介は浮き輪についてた紐を引っ張って、秋穂をどんどん深い所へ連れて行った。
ある程度行ったところで止まり、秋穂に海に顔を浸けて下を見てみるように促した。
「いっぱい魚いるぜ、覗いてみ?」
「........(コクリ)」
秋穂は言われた通りゴーグルを着けて中を覗いた。
すると、熱帯魚が優雅に泳いでいたり、サンゴ礁達が青い海の中で色鮮やかに映えていた。
思わず写真に収めたくなる光景だった。
「...っぷはぁ」
「な?綺麗だろ?」
「........(コクリ)。すごい」
「ひひっ!秋穂なら良さが分かると思った!」
宗介は嬉しそうに笑った。
そんな宗介の笑顔を見て秋穂も少しだけ口角を上げた。
ある程度泳いでお腹を空かせた四人は、海の家でご飯を食べる事にした。
いわゆるB級グルメがいっぱいで、秋穂はとても悩んでいた。
既に決まった秋穂以外の三人は座敷席で待っていたのだが、一人にしておくとナンパされそうだったので宗介が付いてあげた。
「秋穂、まだ決まんねぇの?」
「........(コクリ)」
「冷凍食品で美味しかったやつ食べれば?」
「何にした?」
「俺?俺は焼きそば」
「...じゃあ私もそれにする」
「ん?それで良いのか?」
「........(コクリ)」
結局宗介と同じ焼きそばを頼んだ後、更にかき氷を頼んで席へ戻った。
那月達の席は、結構目立っていた。
美人な槐、普段前髪が邪魔で見え辛い那月のかっこいい顔も今は海で濡れて邪魔なので上げているし、宗介も厳つい顔をしているが海に似合っている、そして極め付けは学校一可愛い秋穂。
正直この四人の席の近くには座りたくない。
「この後どうする?」
「この近くに水着のまま入れる水族館があるんだよ。そこ行ってみねぇ?」
「良いね、ちょっと寒そうだけど。秋穂ちゃんは?」
「行く」
ということでお昼ご飯を食べ終わった一行は、海水浴場の近くにある水族館へ向かった。
中にはもちろん人がたくさんいて賑わっていた。
「やっぱり少し寒かった」
「着て来てよかったね、パーカー」
「うん、ありがと那月、貸してくれて」
「どういたしまして」
宗介は、那月と槐に気を使って秋穂と一緒に少しだけ早く回って二人だけにさせてあげた。
おかげで秋穂は宗介と二人きりになれた。
「秋穂は寒くねぇ?大丈夫か?」
「........(コクリ)」
「そか。...にしても、綺麗だな〜こんな綺麗じゃ海ん中じゃ目立つんじゃねぇか?」
「綺麗だから怪しい」
「あー確かにカラフルなキノコはかえって怪しいもんな、それと同じか」
「........(コクリ)」
四人はある程度館内を回った後、夕日の落ちる頃解散した。
帰りがけ、宗介は秋穂を送っていった。
「今日はどうだった?楽しかったろ!」
「........(コクリ)」
「よしゃ!また行こうな!これから卒業まで!」
「........」
そう言われた後の秋穂は少しだけ寂しそうな顔をした。
(卒業したら、もう会えない...)
まだまだ先の話なのに、やけに不安が襲って来た。
私生活の方でバタバタしていたらいつのまにか十日以上も更新していなかった事に驚きです。
お待たせしました、今回も楽しんで頂けたでしょうか?
これから宗介と秋穂の話も書きつつ、藍那ちゃんの話もしていこうかと思います。
乞うご期待と共に、これからもよろしくお願いします。
体調を崩しやすい季節ですが、負けじと頑張りましょか。




