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夏の樹  作者: 粥
40/64

四十

ある日、藍那の保育園から電話がかかって来た。


「はいもしもし。はい、はい、...え?」


那月は学校が終わってすぐに保育園に向かおうとしていたら、槐が声をかけて来た。


「那月?どしたの?そんな慌てて」

「槐。いや、なんか藍那が保育園で男の子と喧嘩したらしい」

「え!?藍那ちゃんが?」

「怪我させたみたいで、今から事情聞きに行く」

「私も付いて行っていい?」

「...頼める?」

「ん、一緒に行こ」


二人は急いで藍那の待つ保育園に向かった。

保育園に着くと、保育士の先生が間に入って藍那と男の子は背中を向け合って体育座りをしていた。まさに喧嘩後って感じがして那月は笑ってしまいそうになった。


「分かりやすく拗ねてる。ふふっ」

「笑っちゃ可哀想だよ」


とりあえず先生に挨拶をして事情を聞くことにした。


「何があったんですか...?」

「それが私もよく分からなくて...。私が来た時には既に喧嘩が始まってまして、藍那ちゃんいつもは静かな子なんですけどねぇ」


藍那は子供にしては落ち着いていて、静かなタイプだった。

簡単には人に懐かず、だからこそ槐にすぐ懐いたのは珍しかった。

そして滅多に怒らないし、滅多に気持ちは口に出さない。だから取っ組み合いの喧嘩になるほど藍那が怒ることがあったのかもしれない。


那月と槐は藍那の側に行って何故喧嘩になったのか聞いてみた。


「藍那、何で喧嘩したの?」

「................」

「何か悪いことしたの?」

「........(フリフリ)」

「どっちから手出したの?」

「...あいな」

「ちゃんと謝った?」

「........(フリフリ)」

「謝らないの?」

「........(コクリ)」

「そっか」


藍那は悪い事をしたと思ったら絶対に謝る子だ。その藍那が暴力を振ったのにも関わらず謝ろうとしない。

随分と珍しいケースだ。


とりあえず、相手の親御さんが来て散々謝罪をしたし、された後で那月たちは家に帰った。

那月の母はもうすぐで帰ってくるみたいだ。


「とりあえず夕飯作るから槐、悪いんだけど藍那の近くに居てあげて?」

「分かった」


自分の膝枕で不貞腐れている藍那の頭を何が合ったか深く追求せずに優しく撫でている。

話す気になるまで質問するのをやめてあげたのだろう。


「今日はハンバーグにするんだって、藍那ちゃんハンバーグ好きだもんね?」

「........(コクリ)」

「どこか怪我してない?痛いところとか無い?」

「........(フリフリ)」

「そっか、良かった無事で」

「........」


そんな話をしていると藍那はボソッと喋った。


「...あいなわるくないもん」

「そうなの?」

「わるくちいっちゃだめだもん...」

「悪口言われたの?」

「........(フリフリ)」


悪口を言われたわけじゃないのに怒るわけがない。

謎は深まるばかりだった。


そんな時、家のインターホンが鳴った。槐は藍那を慰めているので、夕飯の下拵えをしていた那月が出た。


「はーい?...ん?」

「あ、あの...!あいなちゃんのおにぃさん...ですか!?」

「はい、藍那のお兄ちゃんです。藍那に何か用かな?」

「ぼく...きょうあいなちゃんにまもってもらって...そのせいでけんかになっちゃって」

「君と藍那の喧嘩に何か関係があるの?」

「ぼく、なまえが凛っていうんですけど...おんなのこっぽくてよくからかわれるんです」

「そっか」

「それでいじめられてるところを、あいなちゃんがおこってくれたんです。『ひとのなまえをわらうな』って」

「あいつはイケメン過ぎるんだよなぁ...」

「だからあいなちゃんはなにもわるいことしてないです!たたいたりしたのはだめだけど...でもそれはしかたないっていうか...」

「そういう事だったのか...。教えてくれてありがとう凛くん」

「はい...」


凛という藍那のお友達は伝えたい事を伝えて帰ろうとしたところを、那月が呼び止めた。


「凛くん」

「はい?」

「藍那は君の名前をなんて言ってるのかな?」

「...『かっこいい』って、いってくれました」

「俺もそう思う」

「...ありがとうございます!」


凛くんを見送った後、那月は玄関先で少しだけ一人で物思いに更けた。


(いつのまにか誰かを守る側になったんだなぁ...。誰に似たんだと思う?親父)


那月は夕飯を作り途中だった事を思い出して家に戻った。


藍那は槐の膝でいつの間にか眠ってしまっていて、あどけない寝顔を晒していた。


夜、槐を自宅へと送っている最中にその話をした。


「そっかぁ、それで喧嘩になったんだ」

「友達の名前を馬鹿にされたから怒った。暴力は良くないけど、そんな妹に育ってくれて誇らしいな」

「嬉しいね〜」


こうして藍那の喧嘩の真相は明らかになった。


そしてこの時の那月は、この凛くんがいずれ藍那を助けてくれる存在だという事をまだ知らなかった。

最後の文章すごいありがちだぁ

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