表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の樹  作者: 粥
4/64

急な大雨になり、クラスのみんなはショックを受けていた。

窓を叩く強い雨は、絶望さえ覚える。


だが私は今日は鞄に折り畳み傘を忍ばせていたので、濡れることはない。備えあれば何とやら、ありがとうお母さん。

下校時間、昇降口前の下駄箱で靴を履き替え、折り畳み傘を鞄から出しながら歩いていると、長谷くんの後ろ姿が見えた。


「長谷くん、どしたの?帰らないの?」

「大和さん。いや、帰りたいんだけど傘忘れた。妹の迎え行かなきゃいけないし、どうしようかと...」

「藍那ちゃん...だっけ?そっか...」


私は少し考えて、長谷くんに傘を差し出した。


「入ってく?」

「え、いや悪いから良いって。それに保育園の近くまでコンビニないから、結構付いて来てもらう感じになる」

「別に良いよ。今日何の予定もないし」

「えー...」

「藍那ちゃん、待ってるんでしょ?それにビチョビチョで迎えに来るお兄ちゃんなんて、私だったら嫌」

「う...」


長谷くんは渋々私の傘に入って、二人で藍那ちゃんの待つ保育園へと向かった。

幸い私の家の方角に保育園があって、真反対を行く事は無かった。


「もしかして、毎回藍那ちゃんを迎えに行ってるからいつも帰りが早いの?」

「ああ、藍那を待たせたくないからな」

「偉いなぁ、ただ早く帰りたいだけなのかと思ってた」

「帰りたいのはもちろんだけどな」


しばらく歩く事数分程でコンビニが見えてきた。


「あ、コンビニ」

「ちょっと傘買う」

「入っててもいいのに」

「藍那も入れるから」

「あそっか」


私たちはコンビニに入って傘を買った、65cmの大きな傘だ。この傘なら藍那ちゃんを抱っこして入れられる。


コンビニのすぐ近くに保育園を見つけ、長谷くんは藍那ちゃんを迎えに行った。私は入り口で待っていようとしたが、先生に濡れてしまうといけないと言われたので、私も中に入った。


保育園の中はやはり子供がいっぱいいた。大きな声ではしゃぎ、室内でも関係なく全力で走っている。


正直、私は子供が苦手だった。

目つきが怖い、怒っている様に見えると親戚や街中の子供によく泣かれてしまうからだ。子供の頃からそうだったので、私は完全な苦手意識を持ってしまった。

おそらく、長谷くんの妹の藍那ちゃんにも泣かれるんだろうなぁ。と思うと少し憂鬱である。


すると、藍那ちゃんを連れた長谷くんが帰って来た。


「おまたせ大和さん」

「........」


長谷くんと手を繋いだ小さな女の子が、ジッとこちらを見つめている。この子が藍那ちゃんか。

長谷くんの背は大きめなので、目一杯手を上にあげて手をつないでいる姿が可愛らしい。

そして長谷くんを女の子っぽくして小さくした様な顔を見ていると少し笑ってしまう。多分長谷くんを女装させたら未来の藍那ちゃんなんだろうな。


「ほら藍那、お兄ちゃんの知り合いの大和さんだ。挨拶して?」

「...こんにちわ」

「はい、こんにちわ」

「ごめんね、全然愛想なくて。超人見知りなんだ」

「んーん、長谷くんに似てて可愛い」

「それどういう意味?」

「はて?それより帰ろ?」

「そうだね。帰るぞ藍那、抱っこだ」

「うん...!」


藍那ちゃんは抱っこというワードに反応した。

まだ抱っこが嬉しい年頃なのだろうか。


外に出るとさっきより弱まったが、まだ全然雨が降っていた。

長谷くんは藍那ちゃんを抱っこしている。心配したが、慣れているのか片手で藍那ちゃんを支え、空いたもう一方の片手で傘を差していた。


雨が降りしきる中、私は長谷くんの家まで向かった。


「家から一番近いところまで来たら、帰っていいからな。うちまで付いて来る事はないから」

「うん、じゃあここら辺にしようかな」

「そか、ありがとな。藍那、お姉さんにバイバイしな?」

「...ばいばい」

「うん、またね」


私がそう返すと、藍那ちゃんは恥ずかしそうに長谷くんの肩に顔を埋めて隠した。

その仕草が可愛くて、私はニヤケそうになった。


家に帰るとお母さんが夕飯を作って待っていた。


「お帰り槐、遅かったわね」

「んー、友達の妹さんを迎えに行くのを手伝ってた」

「へぇ、あなたがそんな事に付き合うなんて珍しい」

「そう?」

「雨だし、いつもならすぐ帰ってくるでしょ?」

「それも...そっか」


私はお母さんに言われて自覚した。


そういえばそうだ、いつもの私なら友達でもない人の妹を迎えにこんな雨の中付き合う事なんてしなかった。何だったら友達にだって。


自分でも不思議に思ったが、自分の部屋に戻り制服から部屋着に着替えると、そんな謎もどうでも良くなるくらい眠かったので、考えることをやめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ