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夏の樹  作者: 粥
39/64

三十九

「今日こそちゃんと遊ぶぞぅ!」

「........」

「というわけで、アウトレットに行くぞ」

「あうとれっと?」

「安く服とかアクセサリーとか買えるモールの事」

「........」

「何はともあれ、しゅっぱーつ!」


宗介と秋穂は電車に乗って、アウトレットモールの最寄り駅を目指した。


「普段服とかの買い物とかどうしてんだ?」

「買ってない」

「え?その服は?」

「これだけ」

「マジかっ!外に出る為の服それだけ?」

「コンビニとかは部屋着」

「普段家から出なさすぎじゃね?」

「食べ物買う以外で外出たの久しぶり」

「たまには出ろよ?健康に悪いし」

「考えとく」


そんな話を続けていると、目的地の駅へ到着した。

やはり人が多く、アウトレットモールのある方向に全員向かっていた。


「人多い」

「だな〜やっぱ若者が多いな」

「帰りたい...」

「もうかよ!?せっかく来たんだから、楽しんで行こうぜ」

「........」


アウトレットに到着してすぐに、秋穂が休みたいと言い始めたので、モール内にある飲食店で一旦休憩した。


「ごめん」

「あ?何が?」

「早く回りたいでしょ」

「あーそういう...。別に、こういうのは誰かと一緒の方が楽しいだろ」

「........」

「つーか、そもそもお前と遊ぶ事が前提で連れ出してんのに俺一人で回ってたらいよいよ何のこっちゃ分かんなくなんだろが」

「...ありがと」

「気にすんな。つか何か飲みモンいるか?」

「いらない」


秋穂が回復すると、気になっていた服屋に向かった。


「お〜テンション上がるなぁ!」

「........」


流石アウトレットというだけあって破格のお値段の物ばかりだった。


「お!やっす!でも似合うかな...。秋穂〜」

「........?」

「これ俺に似合うと思う?」

「...似合うけど、赤はやだ」

「え、マジ?何色がいい?」

「黒。それか白」

「黒白?色違いあったかな...。あ、あった!どーよ?」

「いんじゃない」

「よしっ!じゃあ買おう」

「........」


宗介は会計を済ませて、嬉しそうに秋穂の元へ戻ってきた。


「赤が良かったんじゃないの」

「え?あー...でも秋穂はこっちが良いんだろ?」

「うん...」

「ならこっちを選ぶ」

「...それどういう意味?」

「校内一の美少女のお墨付きなら、否定されても言い返せる!これを古谷 秋穂の法則と呼ぶ」

「呼ばないで」


買いはしないものの、秋穂も宗介の買い物に付き合いながら色々見ていた。

宗介は粗方欲しいものを買ったみたいで、次は秋穂の買い物に付き合うことにした。


「さっ!色んな店を見て回ろうぜ!欲しいもんあったらジャンジャン買えや!」

「...別に」

「そうだ服を買おう!」

「良いって言ってる」


秋穂の言葉には耳も貸さず女性服が置いてある店にやってきた。

これまた若い女性に人気のお店で、店内にも高校生くらいの女の子たちがたくさんいた。


「人多い...」

「人気なんだなぁ」


宗介と秋穂が店内に入ると、中にいる客や店員さんにとても注目された。


秋穂は普段ぶっきらぼうというか、一切感情を表に出さないので空気と一体化しやすいが、今回は好きな人である宗介と一緒にいるので多少なりとも空気が柔らかくなっている(但し表情は不変)。


ヒソヒソと小声が聞こえたり視線が集まってしまって、秋穂は居心地が悪そうだった。


「だいじょぶか?一旦店出る?」

「大丈夫...」

「そか...無理はすんなよ?」


秋穂は下を向いて誰にも顔を見られないようにした。すると、宗介が秋穂の手首を掴んだ。


「........っ!?」

「下見て歩きにくいだろ?俺が連れてってやんよ」

「...ありがと」


秋穂と宗介はそのまま歩き続けて店内を見て回った。


(手じゃなくて良かった...)


もしも直接手だったら緊張して手汗をかいてしまいかねないので安堵しつつ、でも手も繋いで見たかったとそんな願望もあって、頭の中はこんがらがっていた。


店内を見回っていると、そろそろ限界だったのか秋穂は宗介に呼びかけた。


「宗介」

「ん?どした?」

「出たい」

「そか、じゃあ開けた場所行くぞ」


モール内にあるイートインコーナーで二人はご飯を食べることにした。時間的には早いお昼ご飯だったが、混み出す前に席を確保しておいた方が後々楽なのでそうした。


「悪いな、やっぱ無茶させた」

「........(フリフリ)」

「しかしここまで人混みに弱ぇとは...。慣らした方がいいのか、いっそ諦めた方がいいのか...」

「宗介は人混み好き?」

「好きってわけじゃねぇけど、人混みん中にいても平気だな」


秋穂は机の上で手を枕にして突っ伏している。相当疲れたのか、宗介に申し訳なく思っているのか。


とりあえずお昼ご飯を食べることにして、何を食べるかという話になった。


「蕎麦にしよっかな〜」

「........」

「豚汁セットだって!良いなぁ」

「........」

「お!あっちは中華!あんかけチャーハンだってよ!」

「........」

「秋穂決まった?俺もう逆に何が良いのか分かんなくなってきたわ」

「カレー」

「ほぉ。じゃあ俺はラーメンにしよう!」


二人とも食べ始めて、お腹を満たしていった。


「どうよ?美味い?」

「........」

「え、何美味しくねぇの?辛ぇの?」

「........(フリフリ)」

「じゃあなして感想言わんと?」

「...宗介のカレーのが美味しぃ」

「...........................おぅ...」


宗介は今すぐ叫びながら走りたい衝動を抑えるのに必死だった。


お昼ご飯を食べ終えて、宗介はもう一度だけ秋穂に服を買ってもらおうと落ち着いた服屋へ向かった。


「ここら辺のはちょっと高いけどな」

「別にいい」


秋穂は先ほどと打って変わって何のためらいもなくすんなりと店に入っていった。

先ほどよりも人は少ないとはいえこれは意外だった。


「宗介」

「あ?どしたぁ?良いのあったんか?」

「これ」


秋穂が宗介に見せてきたのはノースリーブの淡い色をしたワンピースだった。


「おー良いんじゃね?可愛いと思う」

「似合う?」

「試着すれば?」

「........(コクリ)」


秋穂は言われた通り試着室で選んだ服を着てみた。

外で待つ宗介にカーテンを開けて見せてあげた。


「ん、良いんじゃね?」

「........(モジモジ)」

「恥ずかしがってんじゃねぇよ、堂々と!」

「...だめ?」

「似合っとぉよ」


宗介は両親の生まれ故郷の方言で伝えた。たまに出てしまう宗介の方言、本気で思っている事を口にする時、極たまに出てしまうらしい。


秋穂はその服を買って店を出た。

アウトレットお買い物はやり終えたので、二人とも帰ることにした。

アウトレットを出る直前、秋穂が宗介を呼び止めた。


「宗介」

「あ?」

「写真撮る」

「おぉ、撮れば?何撮んの?」

「宗介と私」

「はぁ?何で俺?」

「宗介と来たから」

「あーまぁそうか...。写真写り悪いぞ俺」

「知ってる」

「やかましいわ」


秋穂はスマホのインカメを使って宗介の隣で写真を撮った。

画面に収まりきる為、大分距離が近くなった。秋穂は汗臭くないか心配になったり、宗介の顔が近いことに緊張したりと忙しかったが、表情には出さずずっと無表情のままだった。


「いや、カメラ映る時くらい笑顔んなれよ」

「無理」


宗介といると、すぐに顔がにやけそうになるので我慢するのに必死な秋穂だった。

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