三十八
「ぶぇっくしょいぃあああ!!」
「........」
「あー...花粉やっべぇな今日」
デッカいくしゃみをする宗介の横で、秋穂は驚いた目で見ていた。
「あれ?秋穂は何も感じねぇの?花粉症じゃない感じ?」
「........(コクリ)」
「いいなぁ〜俺花粉症。つってもすげぇ酷ぇわけじゃねぇけどな」
「辛い?」
「くしゃみとまんねぇな。あとちょっと水っ鼻、鼻水のことな」
「........」
今は自習中なのだが、ほとんど自由時間みたいなものなのでみんな席を立って友達とお喋りをしたり、携帯を使ってゲームしたりして各々時間を潰していた。
宗介と秋穂は二人とも席を立たずに自席で座って勉強をしていた。
ついでに二人は隣同士だ。
「春は暖かかったり、気候が良かったりするのも良いけど、花粉症の奴には厳しい季節だな」
「........」
「秋穂は季節何が好きなん?」
「秋」
「秋穂だから?」
「別に、単純に」
「そっかぁ〜俺冬。冬が一番好きかな!」
「寒いじゃん」
「上着とか着れば大丈夫じゃん?夏は脱いでも暑ぃだろ」
「まぁ...」
「はぁ〜これから夏か〜!暑ぃのは嫌だけど、いっぱい遊べるな」
「........」
夏の話をしていると、近々やってくる夏休みの話になった。
「秋穂は何か予定あんの?」
「ずっと家で涼む」
「それ予定じゃなくね?もっとあんだろ?プール行ったり海行ったり、バーベキューしたり旅行もするだろ?」
「全部しない」
「えー...マジで家から一歩も出ない気かよ」
「部活あるし」
「部活無い日とかに友達と遊ぶのもしないの?街出掛けたりとか」
「友達いない」
「もうこの話やめよっか」
そろそろ秋穂のメンタルズダボロなんじゃないかと思って会話を辞めようとしたが、当の本人は平気そうにしている。
「そっかぁ〜全然夏休み楽しめなさそうだな」
「そう?」
「よしっ!じゃあさ...」
宗介は秋穂の方を向いて、手を取った。
「俺がめちゃんこ楽しい夏休みにしてやんよ!!」
「........」
「んで!どんだけ楽しいか教えてやんよ!!」
「...そんなこと出来るの?」
「出来る!お前に楽しいって思ってもらえるように俺頑張っちゃう!!」
「........」
「だから、な?」
「分かった」
「よっしゃ!!いっぱい遊ぼうな!」
「........(コクリ)」
こうして夏休みに秋穂は宗介と遊び倒す事が義務付けられた。
夏休み前の期末試験が終わってようやく夏休みが始まった。
終業式を終えて、二人は秋穂の家に向かった。今日は宗介がご飯を作ってくれる日だった。
「なっつやっすみが始まった〜〜♪」
「........」
「いっぱい遊ぶぞぉ〜!暑いとか関係ねぇぜ!」
「夏休みは、ご飯食べれるの?」
「おう、もちろんだぜ。ちゃんと作りに行ってやるよ」
「そっか」
「何だぁ?俺の飯が美味しすぎて早くもファンになっちまったか?」
「........」
図星だったのか秋穂は黙ってしまった。
相変わらずの無表情だが、宗介は秋穂が何を考えているのか若干分かるようになって来た。本当に若干。
「何はともあれ夏休み、楽しんでこーぜ」
「........(コクリ)」
とりあえず、今日はただご飯を作ってもらうだけに終わった。ついでにトンカツだった。
夏休みが始まってすぐに、宗介は秋穂の家にやってきた。
インターホンを押すと、大きめのTシャツ一枚で、下に何も履いていないような大胆な格好で玄関のドアを開けた。
「流石に不用心すぎねぇ?」
「........zZ?」
「とりあえず起きろ〜」
頭をワシャワシャと撫で繰り回して秋穂の頭を起こす。
宗介は家に入れてもらって、秋穂がシャワーから上がるまでリビングのソファに座ってテレビを見ていた。
しばらくしてシャワーから上がってきた秋穂が宗介のところにやってきた。
先程の大きなシャツ一枚の下にはショートパンツを履いていたらしく、少しだけ丈が見えていた。
「........」
「目ぇ覚めたか?遊ぼうぜ」
「........(コクリ)」
「その前に髪乾かせよ、濡れたままじゃアレだろ」
「........(コクリ)」
秋穂はドライヤーを持って来て宗介に渡した。
宗介の前のフローリングに座り込んで、宗介の方をジッと見つめる。
「乾かせと?」
「........(コクリ)」
「良いだろう、この前カリスマ美容師のドキュメンタリー見たから自信ある。俺の手腕を見せてやろう!」
「........」
大それた事を言っていたが、特に何の珍しさもなくふっつーに髪の毛を乾かしていった。
「にしても、すげぇ綺麗な髪だな。この茶色っぽい髪も地毛だろ?」
「........(コクリ)」
「サラサラでフワフワしてて、枝毛とか無さそうだな...。顔も可愛けりゃ髪の毛も綺麗なんだなぁ〜。まったく羨ましい限りだぜ」
「........」
秋穂はストレートに褒められて顔を赤らめていたが、宗介には背を向けている状態なのでバレてはいない。
それにしても、秋穂は宗介にドライヤーをかけてもらって分かったが、本当に宗介は気持ちいいくらいドライヤーを掛けるのが上手かった。
気を緩めたら一緒に顔も緩み切ってしまいそうだったので、頑張ってシャキッとする。
「宗介、ドライヤーうまい」
「お?マジ?でも那月の方が上手いぜ?藍那ちゃんにいつもやってあげてるみたいだし」
「藍那...?」
「那月の妹な。俺も家泊まった時とかよくやってっからそれで上手いのかも」
「そか」
通りで上手いと思った秋穂だった。
この日は遊ぼうと思ったのだが、秋穂が二度寝をかましてしまって、宗介は泣く泣く夕飯を作って帰ったそうだ。
恐らく読者の皆様全員が、「いや遊ぶ描写書かへんのかーい」と思っているかもしれないのですが、それに関してはまた今度書きます。




