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夏の樹  作者: 粥
37/64

三十七

「入って」

「んー」


秋穂は宗介を自分の家にあげた。


今日は宗介が秋穂のために夕飯を作ってあげる日だった。

家に上がって早速宗介はキッチンにある冷蔵庫へと向かい、中身をチェックした。


「はっは〜ん流石、やっぱ何もねぇよな〜」

「ある」

「冷凍庫にはな。うわっ、多過ぎだろ。はみ出そうじゃん」

「全部美味しい」

「味なんざ聞いてねぇよ。しゃあねぇから買いに行くか〜」


宗介は荷物を置いて携帯と財布だけを持って家を出た。すると、秋穂も一緒に出て来た。


「お前も()んのかーい」

「........(コクリ)」

「じゃあ家の鍵閉めろよ」

「........(コクリ)」


二人は夜道を並んで歩いてスーパーを目指した。


「そういやぁ何度か来て気付いたけど、お前ん家の近くに住んでるうちの学校のやつ誰もいねぇよな」

「........(コクリ)」

「どうしてだろうな?」

「土地の値段」

「あー...なるほどな」


確かに秋穂の家の近くには立派な一軒家や高いビルが立ち並んでいる。駅も近く、スーパーどころかショッピングモールなどもあり、何かと困る要素が見当たらないのである。


「ま、こんなとこはそりゃ住めねぇわなぁ。うち都立だし」


そんな事をボヤいているとスーパーに着いた。

買い物カゴをカートに入れて引いて、野菜やら肉やらを見ていった。


「今日飯何がいい?...あ、ビフテキ!とかやめてな?お金無いから安い食材で頼むわ」

「お金ある」

「いや、それ仕送りだろ?家賃とか光熱費とかガス代とか払うやつじゃ...」

「........(フリフリ)、食費」

「何にしろ今日は高いの無し!庶民の味を楽しんでもらうぜぃ」

「そんなお金持ちじゃない」


今日は肉じゃがにしようと提案すると、了承してくれたので早速肉じゃがの材料を買っていった。


「豚肉さん♪人参さん♪じゃがいもさん♪玉ねぎさ〜ん♪」

「何その歌」

「肉じゃが材料の歌。今作った」

「変なの。...じゃがいもさんいた」

「じゃがいもさん♪」

「じゃがいもさん」

「歌ってくれねぇのか〜い」

「やだ」


秋穂は終始無表情の真顔のまま宗介の歌を無視した。

滞りなく食材を買っていって二人はマンションへ戻った。


「さーてと、ご飯炊いて肉じゃが作るかぁ〜!」

「........」

「秋穂はソファでテレビでも見てろよ」

「手伝う」

「え...お前包丁とか使えんの?」

「使った事ない」

「じゃあダメ」

「罪悪感」

「いやいやいや、俺が勝手に手作り飯食って欲しいっつってるだけだから。キッチン貸してくれるだけで御の字だぞ」

「........」

「...分かったよじゃあアレだ、米洗って。洗い終わったら言って」

「分かった」


秋穂は宗介の指示でお米を研ぎ始めた。

その間に宗介はじゃがいもを剥いたり人参を切ったり、出汁を作ったりと手際よく進めていった。


「宗介、手冷たい」

「我慢せぇや」

「洗えた?」

「ん、まぁいいんじゃねぇかな」


秋穂は宗介にご飯がちゃんと研げているかどうかを見せて、OKをもらった。


しばらくして肉じゃがを作り終わって、二人はテーブルを囲んで絨毯の上で座って食べた。


「どう?うまい?」

「美味しぃ」

「庶民の味も捨てたもんじゃねぇだろ?」

「捨てたもんじゃない」

「どんどん食え!お代わりあるからな!」

「........(コクリ)」


宗介と秋穂はその後食べ終わった食器を二人で片付けたりした後、ソファに座ってテレビを見た。


「今思ったけど、一人暮らしの部屋にソファあんの違和感だわ。まぁこんな部屋デカけりゃ置きたくなるのも分かるけどな」

「だって寝られない」

「は?」

「ここで寝てる」

「えぇえええええええ!!!??マジで!!??」


秋穂は二人で座っているソファを指差す。

宗介は秋穂のお家事情に驚きを禁じ得なかった。


「マジか...。他の部屋見てなかったから、てっきり他の部屋にあんのかと思ってた」

「使ってるのはこの部屋だけ」

「えぇ〜じゃあこの部屋じゃなくても良かったんじゃねぇか?にしても、年頃の女の子がソファで寝るって...」

「意外と快眠」

「座り心地は良いけどよぉ〜...。まぁベッドなんざ『よしっ買おう!』っつって買えるほど安くはねぇけど」

「........」


秋穂は宗介の顔をジッと見つめた。

ソファの大きさは大して大きくないので距離が近い。


「あ?なんだ?人の顔ジッと見て」

「宗介は、心配性?」

「心配性っつか、お前が雑過ぎるんだよ」

「雑じゃない」

「いや雑だわ、ソファに寝る事を丁寧っていう奴多分どっかで頭打ってるぜ」


その後、宗介は帰るので秋穂の家を後にした。

ロビー入り口まで送るとか秋穂が言ってたが、宗介は危ないから玄関で止めた。


「じゃーな。近々ベッドとか買ってもらえよ?」

「面倒臭いからいい」

「はぁ...雑というかズボラというか...。まぁいいや、飯以外に関してはあんま口出すのも野暮か」

「........?」

「じゃあまた明日学校でな?」

「........(コクリ)」


宗介は帰って、秋穂は家に一人になった。

シャワーを浴びて、寝巻きに着替えて、ベッド代わりにしているというソファへ横たわった。

寝転がった瞬間あることに気づいた。


(宗介の匂いがする...)


宗介が座っていた方を頭にして寝転がったので、宗介の匂いが残っていたことに気づいた。


スンスンっと宗介の匂いを嗅いで、少しだけ安心感を覚える。

今から宗介を引き戻したいと感じた。


(戻って来ないかな...引き止めたかったな...)


「好きだなぁ...」


さまざまな雑念を抱きながら秋穂は眠りについた。

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