三十四
春が来て、那月たちは二年生になった。
クラス替えをしたが、那月と槐はまた同じクラスになったので、お互い特に新鮮味は無いという。
「クラス替えしても一緒とは思わなかったな〜」
「そだね、今学期もよろしくですね」
「よろしく〜。あ、そうだ今日家来てよ」
「え、良いけど。良いの?」
「うん、今日両親いないから」
「え...」
那月は少しだけ緊張した様な面持ちになった。
こうして槐の方から槐の家に誘われたのは久しぶりなのである。
(付き合ってるからってそう簡単にそういう事しようって感じになれないし、ましてここで宗介とか呼んだら彼氏としてどうなのとか思われそう...)
とか、そんな考えを巡らせていると槐が助け舟を出してくれた。
「あ、別に宗介くんたち呼んでも良いよ」
「え...?あ...ほんと?」
「うん、何か那月どっちが良いのか迷ってたみたいだし」
「な、何の話でしょう...?」
「何の話でしょーね?」
そう言って槐は悪戯っぽく笑いながら首を傾げていた。
槐には那月の考えが筒抜けだったのかもしれない。
「じゃ、また放課後に」
「う、うん」
そんなこんなで放課後、宗介達を待つために学校の教室にしばらく残った。
「二人きりの方が良かった?」
「んぅ...別にそういうわけじゃないけど。でも彼氏らしくこう...ね?」
「はははっ!だからあんな悩ましげな顔してたんだ?別にそんな事気にしなくて良いのに」
「まぁそれだけが目的じゃないんだけどさ...」
「分かってるよ、いっぱい考えてくれたんだよね?ありがと」
「...ん」
那月は思わず槐の肩に顔をグリグリと埋めて甘えた。
くすぐったくて笑いながら槐は那月の頭を優しく撫でた。
「良いの?誰かに見られちゃうよ?」
「みんな帰ったし、ちょっとだけ。...ダメ?」
「良いよ、甘えてくれる那月は珍しいから嬉しいな」
しばらくそうしていると、那月の電話が鳴ったので那月は慌てて槐から離れた。槐は少し名残惜しそうだった。
「もしもし?宗介?」
『よぉ那月、今お前の学校の前なんだけど、どこいんだ?』
「今教室、待ってて今行くから」
そう言って那月は通話を終わらせて槐と一緒に学校の校門に向かった。
校門には宗介と秋穂が待っていて、遠くから見たら若干カツアゲかナンパっぽく見えてしまう。
「おまたせ」
「全然。つか本当に俺らも行っていいのか?大和さん」
「良いよ、私も他校の友達欲しいし秋穂ちゃんとは仲良く出来そうな気がする」
「........」
「ありゃ、そうでもない?」
「いや、ちょっと喜んでる」
「分かるの?全然無表情のままだったけど」
「若干口角が上がってた」
「目ざといな、とりあえず行こう」
一向は槐の家に向かった。
その前に一度スーパーに寄ることにした。
「夕飯うちで作って食べるの?」
「あれ?那月から聞いてねぇの?」
「何を?」
「今日タコパだぞ」
「え、聞いてないんだけど」
「言ってなかったかもしれない」
「いや良いんだけど、タコパか〜初めてやるかも」
「何か、友達がいっぱい居る人がやる行事のイメージ」
「分かる」
「ちょっと待った、友達いる奴プチョヘンザッ」
「「「「................」」」」
那月、秋穂に関しては一人もいなくて、宗介は部活仲間と片手で足りる程度の交友範囲、槐はバスケ仲間と女友達の美咲くらいなのでなんとも微妙。
「...材料買って行こうか」
「さー盛り上がってまいりました...」
葬式でも上げて来たのだろうか?
材料とお菓子とアイスを入れたレジ袋を宗介と那月が持ちながら、四人は槐の家にお邪魔した。
部屋に案内されて、四人は夕飯の時間まで寛いだ。
「女の子部屋初めてだ!」
「私も」
「俺は二回目?かな」
「あれ?二回しか呼んでないっけ?」
「ほとんど俺ん家だね」
「そっか、ちょこちょこ呼ばないとね」
「別に良いよ、代わりに色々手伝ってもらってるし」
そして話は槐と那月の話になった。
「つか、大和さんは那月のどこを好きになったんだよ?こいつ学校じゃ根暗なぼっちだろ?」
「言い方よ」
「んー強いて言うなら顔かな?初めて近くで顔見てかっこいい顔してたんだーって思って、妹さんの為に早く帰ったりとかしてる所知って段々好きになったって感じ」
「家に行くきっかけとかあったのか?」
「何だっけ?藍那ちゃん迎えに行った時に上がっていきなよってなったんだっけ?」
「そ、色々お礼を兼ねて」
「それで優しい所とか、学校じゃ見せない笑顔とか気配りとかギャップはすごかったね」
「なるほどギャップか」
「ギャップって言ったら槐も凄かったよ、結構優しかったり思いやりがあったり、バスケ上手かったり」
「あー...。アレだね、結構印象のつき方一緒だね」
「そだね」
「へぇ〜彼女か〜良いなぁ。俺も欲しいわ〜」
宗介がそう言いながらゴロッと床に寝転がった。
(彼女...いないんだ...)
秋穂は寝転がる宗介を見てそんな事を思った。
那月たちの話をしたり、お互いの学校の話をしていると時間がだいぶ潰せて、外は真っ暗になっていた。
「タコパするぜぃ!」
「いぇー」
「うちたこ焼き器無いんだけど」
「大丈夫」
「私が持って来た」
「一番意外な人が持って来たなぁ」
生地をプレートに入れて行って待つ事数分でたこ焼きが出来上がった。
「うまっ!」
「美味し」
「心配してたけど意外とうまく行ったな」
「自分で作っただけに特別感ある」
意外に美味しく出来上がったたこ焼きに興奮しつつ、四人はまだ残っている食材でたこ焼きを作って食べた。
その中でふざけて作った辛子とわさび入りのたこ焼きを食べた宗介は一人だけ舌が使い物になっていなかった。




