三十一
「おい赤石!」
「あ?何だよ」
「お前いつ古谷さんと仲良くなったんだよ!」
「はぁ?」
「しかも下の名前で呼び合ってるじゃないのー!」
「うるさ...。別にそんなおかしな事でもねぇだろ。クラスメイトだし、今もこうして部活してる場所も同じだし」
今は部活中で、この前と同じように女子バト部と男子バスケ部が同じ体育館内で活動中である。
そしてそのバスケ部の練習の休憩中に、俺は何故か部員達から秋穂について質問責めされていた。
「お前、前は興味ねーって感じだったのに急に仲良くなりやがって!」
「別にいいだろ、仲良くなったって」
「何で仲良くなったんだよ...!俺も仲良くなりたい!」
「いやぁ良いじゃねぇか、仲良くしてくださいって」
「言えるわけねぇだろ!んなこと急に!」
「しゃーねぇな、ちょっと待ってろ」
「え?あ、おいぃいいいいい!今じゃねぇえええ!」
後ろで騒いでる部活仲間がうるさいので、手っ取り早く秋穂を呼びつける事にした。
二つの部活動をする時は区分けの為に馬鹿でかいネットを真ん中に張る決まりになっている。
そのネット越しから秋穂を呼んだ。
「秋穂〜」
「........?」
秋穂は少し小走りで駆け寄ってきて、何か用かと言う代わりに首を傾げた。頭の上にはてなマークが付いてるようで可愛らしかったが、とりあえず要件を話した。
「悪りぃな休憩中に呼び出して」
「大丈夫、何?」
「あのさ、あそこにいる奴分かる?」
「誰?」
「知らねぇか。まぁいいや、あいつがさ、お前と仲良くなりたいんだってよ。友達になってやってくんねぇか?」
「........」
俺は部活仲間を見せながらそう言った。当の本人はやけに緊張した面持ちでこちらをチラチラと見てくる。きしょい。
秋穂はずっと黙っていたが、ようやく喋った。
「やだ、気持ち悪い」
「だよなぁ〜俺もお前だったらそうする」
「話は終わり?」
「そ、わざわざ悪かったな」
「宗介」
「あ?」
「今日、一緒帰ろ?」
「何で?」
「ダメ?」
「いや良いけど、いつもは一緒じゃねぇじゃんって思っただけ。まぁ先終わったら待ってろよ」
「........(コクリ)」
俺は秋穂と一緒に帰る約束をして、部員の元に戻った。
部員は期待に満ちた目でこちらを見てている。
「ど、どう...」
「ダメだった」
「えぇええええ!!!???」
「『やだ、気持ち悪い』って言ってたぞ。お前何かしたのか?」
「やめろぉおおおおお!!!只でさえ断られてショックなのに断られた理由でまた追い討ちかけるなぁあああ!!」
「うるせぇからトイレで泣いて来てくんね?」
「お前酷いやつだな...」
「聞いてきてやったのにその態度か」
そいつはトイレで泣いてくると言ってしばらく戻ってこなかった。
静かな休憩時間を取り戻せたので、秋穂に感謝した。
部活も終わって夜7時、辺りは真っ暗で今日は夕陽を見ることはできなかった。
「あー寒ぃな〜マフラーとか持ってくりゃ良かったな」
「........」
もう11月で肌寒くなってきた頃、部活後でまだ暑いとか思ってたけどそんなことはなかった。
「鍋食べて〜。そういえば秋穂は鍋好きか?」
「鍋...嫌いじゃない」
「美味いもんなぁ〜。家族とか友達とかと一緒に囲んで食べてさ〜鍋って上手いし楽しいよな!」
「どっちも居ないから分かんない」
「あー...」
聞いてはいけない事をというか、言ってはいけない事を言ってしまった気がして少しだけ後悔。
俺が気まずい雰囲気に辛そうにしていると、秋穂が気を遣って話してくれた。
「友達いないのは必要ないと思ってたから。両親は海外で仕事してて今は一人暮らししてるだけ」
「へぇー...。一人暮らしねぇ」
「一人で鍋しようなんて思わない」
「そっか〜まぁそうだな」
俺はほんの少し考えて、
「じゃあ俺が一緒にやってやんよ」
「え...」
「そしたら出来んだろ?鍋!俺の友達も呼ぼうかな、那月って言うんだけど、そいつがまた良い奴でさ〜」
「ちょっ、何でそんな急に...」
「あ?嫌だったか?」
「い、嫌じゃないけど...どうして...?」
「どうしてって...友達だから?つかそれ以外ねぇな」
「とも...だち...?」
「おいおいおいお〜い!まさか俺ら友達じゃなかったのかよぉ〜つら〜。しょげる〜!」
俺はデカイ声で一切しょげる様な素振りをせずにそんな事を言った。
それでも秋穂は気にして慌ててフォローしてくれた。
「と、友達...!友達...だよ」
「おっ!まじ?やった〜ぃ!」
「................」
俺と秋穂は二人の帰り道が分岐する道で分かれた。
「じゃ!いつか遊びに行くな〜!」
「........(コクリ)」




