二十八
「........」
「........」
俺は今、古谷と一緒にとある教室に締め出されていた。
先ずは順を追って話そう。
先ず今日は俺たちは日直だった。当番の為、日誌やら黒板を消したりと色々やっていた。
一通り仕事を終えて職員室へ日誌を渡しに行ったところでサプライズ。何と化学科の先生が俺たちに教材運びを手伝って欲しいとのこと。
「いいじゃんお前ら暇だろ?女子バトと男バス今日部活ねぇの知ってんだかんな」
「うぜぇ...」
「........」
古谷は一切動じずに化学の先生の言う事を聞いてしまったので、俺も手伝う羽目になった。
「え...意外と多くね?」
「........」
「いやぁ溜めちゃったからさ〜マジこれホント日没までに終われば良いよなぁ」
「他人事のように話すけどあなたも手伝えよ?」
「分かってるっつーの。ほんじゃま、先ずは大きいものから運んでいきましょ〜」
「ちっ...」
ダンボールに包まれた物を三人で運んでいく。
やっぱり多少は重くて、苦労する。
「っ〜〜〜...!」
「いや、流石に力量を考えろよ」
古谷は明らかに男二人で運ぶ様な荷物を一人で運ぼうとしていたので、俺と先生で運んだ。なんか悔しそうだったな。
「よーしっ!運び終えたところで選別だ〜」
「まだやんのかよ...」
「........」
次は小物類を棚にしまったり裏にしまったりしていった。
「はいもう17時ではありますが、気張っていきましょ〜」
「夕焼けが綺麗なんだけど、もうお腹空いてんだけど!」
「........(キュウ)」
古谷のお腹が可愛らしく鳴ったところで、一度休憩する事にした。
「ありえねぇ。何で部活もねぇのにこんな時間まで残んなきゃいけねぇの...?」
「........(キュウ)」
「腹減ってんならコンビニ行っておにぎりでも買って来いよ」
「うん」
古谷はそう言って財布を持って準備を始めた。まだ少し肌寒いのでカーディガンとブレザーを着た。そして俺の腕を引っ張ってコンビニへ向かおうとした。
「いやいやいや待て待て待て、一人で行きなさいよぉ!」
「一人じゃ寂しい」
「寂しいとか餓鬼かテメェは!寒いだろぉ〜俺そんな腹減ってねぇし良いんだよ」
「暖かいココア買お」
「暖かいコーヒーを先生様が入れてくれるとよ、超嬉しい〜」
「コーヒー苦手」
「知らねーよ!」
こんな葛藤を15分続けたところで、俺が折れて学校近くのコンビニに二人で向かった。
先生がせめてもの礼だと言って、千円札を渡してくれた。
「千円ってなぁ...まぁ、くれねぇよかマシか」
「何買うの」
「さぁな〜」
コンビニに着くとめちゃくちゃ暖かい。超ありがたいなぁこの寒さには。
定番かもしれないが俺は肉まんを買って、古谷はおにぎりを買っていった。
学校に戻ると先生が、
「ちょっと俺別の場所で作業してっから。戻ってこないかもしれないから、18時になったら帰っていいぞ」
と言って何処かへ行ってしまった。
「これ今日中に終わんのか?明日授業あんじゃねぇの?」
「さっき小さい声で、『終わらなかったら裏に全部突っ込むか』って言ってた」
「何の解決にもなってねぇな」
とりあえずどんどん片付けていると、いつのまにか外は真っ暗になっていた。
目が慣れてしまっていて多少暗くても作業は出来ていたが、流石にがっつり夜になられると手元も見えなくなってしまったので電気をつける。
ようやく終わった頃には18時を少し過ぎていた。帰っていいとは言われたが、作業も終わらせたので先生にはまた何か奢ってもらおう。
荷物を纏めて教室を出ようとすると、何故か扉が開かない。
「あぁ?何だこれどうなってんだ?」
「鍵がかかってる」
「え?何で?何で締めんの?」
「多分見回りの人が、教室暗いから私達いるって気付かず締めたのかも」
「はー?馬鹿かよ...。あ、でもこっち側から開けりゃいいんだ」
「無理、悪戯防止で中からも鍵が必要」
「はい、誰かー!マジで無理だからー!重労働させられた挙句締め出しとか冗談じゃねぇぞおい!!」
叫んでも誰もこない。それもそうだ、ほとんどの学生はいないし、化学室は一番上の階で、生徒が普段頻繁に出入りする様な教室はない故、最も生徒の来ない階とされている。
「そうだ先生!先生なら...」
「18時になったら帰ってると思ってるから、作業続けると思う。そしてこっちに寄らず帰るかも」
「おいポンコツぅ!!戻って来いオラァ!!」
「忘れ物とかあったら来るかもね」
「あいつが忘れそうなもんねぇか探せ!」
「あったところで、すぐには出られないね」
古谷は冷静に淡々と喋っている。何でこいつこんな冷静なんだよ。怖えよ、何かいつもよりすげぇ喋るし。
「何でお前冷静なの?閉じ込められてんだぞ?」
「ご飯は食べたし、一日は保つ」
「いやいやいや、もう覚悟決めてんの?早くね?もうちょっと抗おうや」
「別に家帰っても暇だし。だったら...赤石くんとここで喋ってた方が楽しいかな」
「人を暇つぶしに利用しようとすんな」
俺は窓を開けて外を見た。まだ学校の明かりは全部消えたわけじゃない。こうして教室の電気点けてりゃ嫌でも気付くだろ。
そして冒頭に至る。
既に出られなくなってから30分は経った気がする。未だに開かない気付かれないのままなので精神的に来るものがある。
「もう19時になっちゃうじゃん...こんな事ならもっと飯食っときゃよかった」
「........」
一人ぶつぶつと不平をのたうち回ってる俺と違って、古谷はジッと外の景色を眺めていた。
何を見てるのか気になって、俺も古谷の隣に立った。
「呑気に何見てんだよ」
「夜景。夜の化学室で外の景色を見た事ないから」
「はぁーん」
「赤石くんも見てたら?どうせ開かないし」
「俺はまだ諦めちゃいねぇ。まぁでも一旦休憩だな」
そう言って俺は置いてあった机の上に座った。すると隣に無理やり古谷が座って来た。
「隣の机あんだろーが、何でこっち...おいそれ以上押すな落ちる!」
「ここから見る景色が一番良い」
結局一つの机を俺と古谷の二人で座った。
つかこいつ普通に喋るし、距離も近いんだな。学園のアイドルとか、めっちゃ可愛いだとか言われてっから、全然喋らねぇ高飛車野郎かと思ってた。
って言ったら怒るだろうから言わない。
「ねぇ」
「あ?」
「さっきから早くここから出たがってるのは、私を嫌ってるから?」
「は?何だ急に」
「答えて」
「...いや別に、嫌いじゃねぇよ。好きでもねぇけどな」
突然の質問に、俺はこう答えるしかなかった。本当に好きでも嫌いでもねーしなぁ。
「そっか、嫌われてないんだ」
「おー」
「じゃあ、これからよろしく」
「これから?よろしく?」
そう言って古谷は荷物を纏め出した。
「荷物まとめてどーすんだよ」
「帰るんだよ」
「は?だからドアが...」
古谷は俺の言葉を無視して“後ろの„ドアの方に向かった。そして有るはずのないと思っていた内鍵を開けて、ドアを開けた。
「っ...!」
「まだ残る?」
すっかり暗くなった夜道を二人きりで歩く。
俺は内心恥ずかしさと苛立ちに満ちていた。
「つか後ろのドアは開くって知ってたなら言えや!」
「逆に何で前のドアは調べて後ろは調べなかったの」
「前がそうなら後ろも開かねぇって思うだろ普通」
「今帰れてるし良いでしょ」
「今帰りたかったんじゃねぇもっと早く帰りたかったんだ俺は」
「へぇ」
古谷は興味なさげに、いつもの無表情でそう言った。相変わらず何考えてんのか分かんねー女。
「そんな早く帰って何するの」
「あ?別に何もしねーよ」
「なのにあんな早く帰りたがってたの?」
「そうだよ」
「何で?」
「知るか」
「知るかって何自分のことでしょ」
「うぜぇ」
俺はあまり言いたくない事をしつこく聞いて来る古谷に負けて、早く帰りたがった理由を教えた。
「だって、女子をこんな遅くまで残したくねぇだろ」
「...へぇ」
「親御さんとか、心配するかもしんねぇし...って、この程度の理由だよ」
「そっか」
恥を忍んで教えたにも関わらずすげぇ薄いリアクションされたから俺は古谷の方を見て一言言ってやろうとした。
「ふふっ、優しい」
「........」
言おうと思ってた言葉は喉の奥に詰まり、初めて見た学園一の美少女と言われている奴の笑顔を一番近くで見た。
それはもう、芸術の様に感じた。
芸術的センスは毛ほどもねぇけど。
「...うるせ」
「宗介」
急に下の名前で呼んで来た古谷。
「急に呼び捨てかよ」
「宗介って呼びたい、良い?」
「...好きにすれば?」
「やた」
古谷は小さくガッツポーズした。
「私、秋穂」
「ふーん」
「秋穂」
「聞いてたよ」
「違う、呼んで」
「はぁ?何でそんな急に...」
「宗介に、呼ばれたい」
「その顔でそんな事言うなズルいから」
無茶苦茶可愛いやつにそんな事言われたら、そりゃ断らねぇよ。ズルすぎるやろこの顔面は。
「分かった...あ、秋穂...?」
「うん、宗介家まで送って」
「嫌だわっ!」
そう言いつつ、結局家の近くまで送ってやった。俺甘いんかなぁ...?




