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夏の樹  作者: 粥
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二十七

「宗介ー!宗介ぇ!!朝やで起きやぁ!!」

「うるさいもう起きてるわぁ!」

「なら早よ飯食え〜」

「分ーってるっつの」


口うるさい母親に言われて、俺は制服に着替えた後すぐに朝飯を食べた。

うちの家は実はこの土地で生まれたわけじゃなく、関西の方から引っ越してきた。だから父と母は未だに向こうの言葉の訛りが残ってしまっている。但し俺は引っ越す前にここに来たので、訛りはしていない。


「高校は?楽しいか?」

「楽しい、部活もレギュラー入りしてるしなぁ。とりあえず地区予選一位で全国行くわ」

「強いんやったなぁ、お前ん高校は」

「いつか生まれ故郷の奴らと戦うのが夢だから、負けらんねぇ」

「がんば〜」


父親の雑な応援を受けた後、朝練の為に誰よりも早く家を出た。

チャリに跨って走ろうとしたところで、二階の部屋から姉が引き止めた。


「宗介!ちょっと待って!」

「何?」

「これポストに入れといて」

「投げんのかい!」


俺は何とか姉の手紙を下でキャッチしてポストに入れてから学校へ向かった。


学校にはいつもの騒がしさはなくて、朝練がある部活動の人達だけしか来てなかった。

バスケ部は今日は体育館を使って筋トレや体力作り。朝から汗をかきたくないが、シャワーがあるのでそこは大丈夫。


朝の練習も終えてシャワー室で汗を流す。それも終えたらようやく朝練の無い生徒たちが登校してくる。


「おはよ、宗介」

「おぉ〜おはよ」

「宗介おは〜」

「お〜」


まぁまぁ知り合いが多い俺は、朝はよくこうしてみんなに話しかけられる。人気者の性っちゅうんか?困る〜


そんな事をしていると、俺の隣の席の奴が登校してきた。

先日ご紹介しましたうちの学校一番の自慢の、古谷さんでーす。

ハイハイ今日モ可愛イー。


「........」

「........」


古谷は俺に挨拶しない。まぁ良いんだけどさ仲良くねぇし。

そもそも俺に限った話でなく、古谷は誰とも喋らない。流石に友達とは喋ってるけど、女友達だし、少ないしって感じ。

誰にも興味無いのか何なのかは知らねぇ。


「ほいじゃ授業始めるぞー」

「きりーつ!」


先生が教室に入って来て授業が始まる。

自慢じゃないが俺は結構頭が良い。と言っても元から良かったわけじゃない。いつか航空司令官になるのが夢なので、その為に死ぬほど勉強してる。正直授業の範囲は完璧に理解してるので、授業中はその教科をやってるフリして別の科目を勉強中だ。

今回は英語を進める。

航空司令官の業務上の言葉はもちろん英語。英語を喋れなければ話にならない。と言っても英語だけじゃ心許ないので他の外国語も一応勉強する。


「じゃあ次を...赤石〜」

「はい」

「訳してみろ」

「...『今となっては昔のことですが、竹取の翁という者がいました。野や山に分け入って竹を取っては、いろいろなことに用立てたのでした。』」

「はい、正解。ここで大事な部分は〜...」


古語の例文も質なく訳して、俺はまた英語の勉強を始めた。

しばらくすると隣の席の奴、つまり古谷が先生に当てられていた。でも訳せないのかジッと教科書を見つめている。


「分からなかったら周りに聞けよ〜」


先生がそう言うと、古谷は俺の方を見てきた。

いや、なんで俺?後ろとか向かい側の奴とか凄い教えたそうにしてんじゃん。


「あーちょっと待って」

「うん」


古谷のために訳せと言われている箇所をノートに書いて渡した。

そして古谷はそれを読み上げて、何とか答えられた。


「はい正解、ちゃんと聞いとけよ」


先生に注意されながら、古谷は俺のノートを返したついでにお礼を言ってきた。


「ありがと...」

「んー」


俺は普通にノートを受け取った後、英語の勉強の続きを再開した。

だが、古谷はそれだけでは終わらなかった。


「英語の勉強してる?」

「あ?...まぁしてるけど?」

「何で?」

「何でって...将来のため?」

「何かなりたい職業あるの?」

「まぁ一応な」

「何?」

「何で教えなきゃいけねぇの?」


何故かしつこく聞いて来る古谷に若干イラついてきたので、少し態度が悪くなってしまった。

流石の古谷も察してこれ以上は聞いて来なかった。


(何だ...?)


よく分からない気持ちのままその日の授業を終えた俺は、その後また部活へ向かった。

ここで部活仲間に聞いてみた。


「なぁ、お前俺の将来に興味ある?」

「ねぇけど」

「そうだよな」

「???」


何の説明もしないまま、俺はその部員を置いて練習を始めた。

部活が始まると部活に集中してるので、古谷の質問責めとか、余計なこと考えなくて済んだ。


「ふぃ〜...」


休憩時間になって俺は体育館から出て、廊下にあった冷水機で水をがぶ飲みした。


「キッツ...」

「........」

「うぉっ!?」


気付けば隣に古谷がいた。いまいち行動が読めねぇっつーか、無表情だから分かんねぇっつーか、何でこいつ俺の所に来た?わざわざ着いて来たのか?


「...ごめん」

「は?何が?」

「今日の古典の授業で、しつこかったなって」

「あー、アレか」


古典の授業中の、あの質問責めを思い出した。


「アレは...まぁ気にすんなや。俺の言い方が悪かっただけだし」

「でも、ごめん」

「てか、そんな事気にしてわざわざ謝りに来たのか?お前へんこだな」

「...?へんこ?」

「いや、何でもねぇ」


説明もめんどいので俺はそっぽを向いた。

古谷はそれ以上聞いて来なくて、俺の隣に立ち続けた。


「えっと...冷水機空いたけど?」

「冷水機に用はない」

「じゃあ何?俺に謝りに来たならもう済んだろ?」

「うん」

「........?まぁいいや、じゃあな」


俺はそそくさと体育館へ戻った。

顔は確かに可愛いけど、やっぱ何考えてるか分かんねー奴は苦手だなぁ。分かりやすいやつが好きだなぁ俺は。

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