二十四
「大和さん、ちょっと...」
「ん?」
私と長谷くんが付き合ってから約一週間が過ぎた頃、私はいつもの様に長谷家に入り浸っていた。
「明日明後日と空いてる?つまり土日なんだけど」
「んーっと、ちょっと待って今確認する」
長谷くんと付き合ってから分かったことがいくつかある。今までは友達としての対応だったこと。そして今は恋人としての対応に変わりつつあるということ。明確な違いは纏う空気だ。
とても柔らかく、笑顔が増えた。目が合う度にニコッと笑ってくれるし、何より話し方が優しくなった気がする。
二人だけの時は距離も近いし、何気なく手を触っていると繋いでくれる。そういう時には、否が応でも付き合ってるなぁ〜と感じてしまう。
「うん、土日はバイト無いよ」
「良かったら、土日俺ら旅行行くんだけど一緒に来ない?」
「旅行...?どこ行くの?」
「温泉、少し遠いんだけど」
「温泉か〜良いねぇ、行きたい」
「ほんと?泊まりになるし車移動だし、平気?」
「うん平気平気、むしろどんと来いって感じだよ」
「そか、じゃあ明日朝の10時に迎えに行くね」
「うん、楽しみにしてる」
その日は準備の為に夕飯を頂かずにすぐに帰った。
土曜朝10時。
家のリビングのソファで長谷くん達を待っていると、インターホンが鳴り響いた。
「はい?」
『あ、長谷です。えと...槐さんいますか?』
「槐です、今行きます」
『あ、うん』
私はさっさと用意していた荷物を持って玄関先へ急いだ。
長谷くんがインターホン前で待ってて、お母さんと藍那ちゃんは車の中から顔を出していた。
「今日はお招き頂いてありがとうございますお母さん」
「良いの良いの、てかごめんね逆に。急に誘って大丈夫だった?」
「全然、嬉しかったです」
「そか。じゃあとりあえず行きますかっ!」
「しゅっぱーつ!」
藍那ちゃんの号令とともに車を目的地へ走らせた。
車は四人乗りで、運転はお母さん、助手席に長谷くん、後部座席に私と藍那ちゃんが座った。
「おねーちゃん!なぞなぞだすね〜?」
「うん」
「もっただけでてがふるえるかぐってなんだ〜?」
「持っただけで手が震える家具...?」
「うん!」
「........マジで何?」
突然出された割に難易度高くない?最近の保育園児レベル高いな。
「ヒントあげようか?」
長谷くんが助手席から悩んでいる私に声をかけた。この口ぶりからして長谷くんは答えを知っているようだ。
「んーちょうだい」
「手が震えるんだよ」
「それは問題文にあったじゃん」
「そこだけ考えてれば良い」
「え...?何...?」
私は暫く考えて、そしてようやく答えが出た。
「あ!テーブルかっ!」
「せいかーい!」
「やた〜!」
「良かったねぇ」
長谷くんは窓の外を見ながらそう言った。
そして次は長谷くんからなぞなぞが出て来た。
「英語はどこの国の言葉でしょうか?」
「英語?イギリス?あ、でも大元はドイツ語らしいからドイツの言葉かな?でも、フランス語の影響も受けて今の英語って聞いたことあるし...」
「“英語„は日本の言葉だよ」
「........あぁ...」
何だろう、何か悔しい。長谷くんは得意げに見てくるかと思いきや、思わぬ私の知識に驚いた顔をしている。
そして続けざまに次の問題を出してきた。
「林檎、苺、メロン。この中で、俺が一番好きな果物は何だと思う?」
「んー...何だろ?家で食べてた?」
「いや、まだ食べてないかな」
「えーじゃあ何だ?」
「ふふっ」
運転中のお母さんが何故か笑っている。それでも私はよく考えて答えを出した。
「メロン!そういえばこの前食べて美味しいって言ってた!...気がする」
「林檎だよ、苺とメロンは野菜だからあれ」
「よし喧嘩だ、表出ろよ」
「轢かれるて」
久々にキレちまったよこの野郎。さっきから人を小馬鹿にした様な問題ばっか出しゃーがって、イライラのピークだわ。
「まぁまぁ、私も引っかかったし」
「ごめんね、大和さんに出したくて」
「ふんっ...!分かってたし!」
「うん、そだね。ありがと」
「朝ごはん食べようか」
「食べます」
高速道路に乗ってたので、サービスエリアのカフェで朝ごはんを食べることにした。
「何にしよかな」
「俺ホットドック」
「私チーズパンにしよ」
「あいなけーき〜」
「じゃあ私はサンドイッチに決めた」
全員食べるものがバラバラだった。
ドリンクも一緒にトレイに乗せて四人席のテーブルで食べ始める。
「うん、美味しい」
「最近のサービスエリアって飯のレベル高いよね」
「特集されてたもんね夕方のニュース番組で」
「おいしー!」
全員が食べ終わってまた車に戻り、目的地を目指した。
車を走らせること45分程度で目的地の温泉に到着した。
宿に荷物を預けて、温泉街へ向かった。
「温泉街初めて来たかも」
「マジか」
「情緒があって風流で良いね」
「じゃあ行こうか」
温泉街には様々な温泉施設が立ち並んでいるが、その中でも格別という施設を長谷家は知っていたのでそこに行く事にした。
「何度か来てるんだ?」
「うん、お得意様って言うと言い過ぎかもしれないけど」
「そっか〜良いなぁこんなとこ何度も行けるなんて」
「あー...」
そう零した私に、長谷くんは少し言いづらそうにしながら言った。
「連れてくよ、いつか。免許とか取って」
「...うん、それは楽しみだな」
「そか...」
長谷くんの顔は真っ赤になっていて、恥ずかしそうだった。それでも言葉にして伝えてくれた事が私は嬉しかった。
今現在8/1(水)まで話を書かせて頂きました。
プライベートの都合上長い間投稿出来なかったので、せめてものお詫びとして3日連続投稿です。
と言いつつ、単純に楽しくて手が止まらなかっただけですが...。
今後とも、粥と本作「夏の樹」を、よろしくお願いいたします。




