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夏の樹  作者: 粥
21/64

二十一

「大和さん、ちょっと良いかな?」

「え?うん...良いけど?」

「あー...私他のところに行ってるよ!」


美咲とキャンプファイヤーの周りで写真を撮っていると、同じ学年の男の子が話しかけて来た。

顔を知らないわけじゃない、確かサッカー部のかっこいいって噂の人だ。

そんな人が何の用だ?


「何?何か用?」

「あのさ、いつも一緒にいる奴って、友達?」

「いつも一緒にいる奴って?」

「ほら、ちょっと根暗な感じのさ」

「根暗...あ、長谷くん?」

「そうそう、長谷?ってやつ」


一瞬誰の話をしてるのかと思ってしまった。そうか、私は長谷くんといつも一緒にいると思われているのか。

それにしても、長谷くんの言い方に引っかかってしまうな。


「あいつ、大和さんの彼氏なの?」

「長谷くんはただの友達だけど?」

「あ、やっぱり?だよなぁ〜」

「........」


この男子、名前は知らないけど何かいけ好かない。長谷くんを小馬鹿にしているような気がする。あまり長時間話していたくない。


「で、長谷くんが何?」

「いや、長谷の話じゃなくて。大和さんの話なんだけど」

「だから何?」

「俺と付き合わない?大和さん」

「...は?」


急に告白されてびっくりした私は、開いた口が塞がってなかった。


「どう?ダメかな?」

「あ...あー...付き合う...付き合うか...」

「そ、俺と大和さん。良いと思うんだよね、顔的に釣り合ってるし。それに大和さん今好きな人いないんだよね?」

「え?いない...けど...」


私は返事に困った。多分私に好きな人はいないけど、だからといって今目の前にいるこの人と付き合うかと言われたら、そうではない気がする。

第一(だいいち)全く知らないし、君のこと。


そんな感じで返事を悩んでいると、長谷くんが走ってくるのが目の前の男子の奥から見えた。

私は目の前の男子を無視して、長谷くんの方に駆け寄った。


「大和さん...!」

「どしたの?大丈夫?何かあった?」

「い、いや...何か...は、あったんだけど...。あの...えっと...」

「お、落ち着いて長谷くん。大丈夫だから、ちゃんと聞くから、ね?」


今まで見たことないような長谷くんの焦りっぷりで、私も少しパニックになりそうだった。

そんな中空気を読まずに先程の男子が返事を催促して来た。


「ねぇ、大和さん返事」

「え?ちょっ、ごめんまた今度でいい?今長谷くんが...」

「はぁーー?」


私が返事は後日で良いか尋ねると、その男子は明らかに態度が悪くなった。


「おい長谷、ふざけんなよお前」

「........?」

「お前と大和さんが付き合ってないって言うから俺が告白したってのによぉ。肝心な時に邪魔してんじゃねぇよお前」

「ちょっと、何で今長谷くんを責めるの?」

「わ、悪い...」

「悪いじゃねぇよ。悪いと思ってんなら今すぐ消えろよここからよぉ」

「すまん今消える。ごめんな大和さん、何でもないから、悪い」

「あ、ちょっと...」


名前も知らない男子がそう言うと、長谷くんは私たちから離れていった。


「じゃっ、大和さん。返事の方を聞かせて?」

「あーそうだね、返事ね」


私は、あまりにもムカついてその男子の鼻を振り向きざまに思いっきりグーパンで殴りつけた。


「ぶっ!?...いってぇ!!??」

「死ねブス」


私はそれだけ言って長谷くんを急いで追いかけた。何故か途中で泣いている女子生徒がいたけど、そんな事より長谷くんだ。


長谷くんは校門を出てすぐの道をまだ歩いていた。


「長谷くん!」

「...っ!?大和さん...」

「はぁ...はぁ...追いついたぁ...」


私は息を整えながら、長谷くんの前に立った。

長谷くんもその間は待ってくれた。


「どうして...あの男の子の告白を受けてたんじゃ...」

「え?あーあれね、アレは何か意味わかんなかったからぶん殴って来た」


そう言って私は利き手である右手を長谷くんにぷらぷらと揺らして見せた。

長谷くんは心配そうに見ながら、苦笑いをしていた。


「ぶん殴ったって...あの人を?」

「そ、だって長谷くんを悪く言うんだもん。友達からでもお断り」

「そ、そうなんだ...?」


長谷くんは殴ったという私の手を取って、手の甲をさすってくれた。


「痛く...ない?」

「痛くないよ」

「ごめん」

「長谷くんは何も悪くないよ」

「大和さんは優しいな」

「優しくなんかないよ」


長谷くんの温かい手が、本当に痛みを引かせていく。

長谷くんはとても優しい、安堵した笑顔を見せた。

そして私は気になっていた事を聞いてみた。


「そういえば長谷くんは、どうして私の方に走ってきたの?」

「あ、えっと...それは...」

「........?」


長谷くんは言い辛そうに、口を割った。


「俺も、大和さんと一緒で告白された...らしい」

「らしい?何でそこが曖昧なの?」

「告白されて、でも不意に大和さんの方を見たら、あの人と一緒にいるのを見つけて...。で、気付いたらそっち走ってて...みたいな?だから、その子の話あんま覚えてない」

「あー、そう...なんだ。ちなみにその子は、茶髪でゆるふわな感じの髪の毛の...?」

「ああそうだよ、知ってるのか?」

「いや別に...」


長谷くんを追ってる時に見た子は長谷くんが振った子だったか...。御愁傷様。


「そっか、お互い告白されてたんだね」

「そうみたいだな」

「でも、お互いが理由で断ったんだ」

「そう...だな」

「面白い...ね」

「そうだな...」

「帰ろっか」

「ああ...」

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