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夏の樹  作者: 粥
20/64

二十

文化祭二日目、流石に俺たちは学校へ行ってクラスの出し物を手伝った。

大和さんと共に休んだのでクラスのみんなは変な目で見て来たが、そんな事は特に気にしなかった。別にみんなの想像するような関係じゃ無いから。


「うちのクラスの出し物がわたあめ屋さんだったとは知らなかったなぁ」

「そだな、意外と繁盛したしな」

「今はもうお昼時だし綿あめ食べようって人少ないよね」

「ま、忙しいよりは良いだろ」


俺たち以外教室に誰もいない状況で、教壇の前の椅子に二人して腰掛けていた。

クラスの大半の人たちは午前中に仕事をしたので、午後からの体育館の出し物や他のクラスに遊びに行ってしまった。

別段他のクラスにも体育館の出し物にも興味の無い俺たちは、こうして暇を持て余していた。

すると、俺の携帯が鳴り響いた。


「ん、母さんだ。もしもし?」

『あ、那月?今行って大丈夫かな?』

「うん、別に良いよ」

『じゃあ行くね〜』


ピッという電子音を鳴らして通話を切ると、隣にいた大和さんが話しかけて来た。


「お母さん?」

「ああ、今から藍那連れて来るとさ」

「そっか、じゃあ楽しみだね」

「別に楽しみでも無いだろ」


俺は大和さんのその言葉に少しだけ笑ってしまった。


「10月になったら、涼しくなるね」

「そだな」

「秋は美味しいものがいっぱいだから太らない様にしなくちゃ」

「大和さんでも太るのか?」

「もちろん、気を付けてるよ」

「へぇ、陰ながらの努力ってやつか」


俺はつい大和さんの方を見てしまった。

足は長くて細く、出るところは出て引っ込むところはちゃんと引っ込んでる、モデル体型というやつだ。

綺麗な黒髪は先端まで続いてるし、横顔からでも美人だということが伝わる。

一体何人がこの人を好きになったんだろうか。


「綺麗だな...」

「え?」

「あ?」


急にこちらを見て来た大和さんに驚いた。まさか口に出してしまっていたとは思ってなくて、すぐに言い訳した。


「いや!別に...あの...冗談っていうか。いや、冗談でも無いんだけど...そのなんつーか...!...ごめん」

「えっと...別に謝らなくて良いよ?嬉しかったし、ありがと。驚いたけどね、あはは」


大和さんは完全に引いている。女の子に大して詳しくない俺でも分かる、急に綺麗だとか言われたら流石にキモいぞ。ただでさえ根暗でクラスではぼっちの俺なんだ、一回家に泊めたくらいで調子に乗ってはいけない。


「長谷くんもカッコいいよ?」

「ごめん、やめてくれ...恥ずかしいから」

「そんな照れなくても...」


そんな会話をしていると、一人の男がやって来た。


黒縁メガネにピアスをつけた、少しヤンキー気質の男だった。

だが、そいつは俺の数少ない友人でもあった。


「よぉ、長谷ぇ」

「久しぶり赤石(あかいし)。元気だったか?」

「元気じゃねぇよ、こんな暑いと」

「そうか、元気そうで何よりだ」


こいつは赤石(あかいし) 宗介(そうすけ)という俺の中学からの友達だ。

中一の頃に出会って以来、ずっと一緒にいたが高校は別々になってしまった。と言っても、ちょこちょこ会ったりはしている。


横にいた大和さんが驚きつつも、赤石について聞いて来た。


「お友達?」

「ああ、中学が一緒だった」

「赤石 宗介です。あんた誰?」

大和(やまと) (えんじゅ)です、長谷くんのクラスメイトで友達です」

「へぇ、長谷に友達が出来たんだ。しかもこんな美人の」

「まぁな」

「大和、良い名前だね。かっけぇ」

「ありがと」


大和さんはまだ赤石を警戒している。確かに少し強面だからな、怖いのも訳ないが、大和さんもそんなに睨まないであげて欲しい。


「大和さん、赤石はちょっと態度悪いけど、悪い奴じゃないから」

「そう。まぁ長谷くんの友達だし、仲良くはしたいかな」

「そーだね、よろしくー」

「赤石くんは、高校別なの?」

「そうだよ、この近くの高校あるじゃん?」

「え!?あの海近くの...?」

「そうだけど?」

「凄いね!あそこの高校偏差値結構高いよねっ」

「こいつ勉強は出来るんだ。テストとかで助けて貰ってる」

「ま、勉強面で何かあったら呼んで。助けたげる」


大和さんの赤石の株が上昇したところで、三人で話すようになった。


「大和さんバスケ出来んだ?うまいの?」

「上手いよ、お前より上手いかも」

「まじ?」

「そんな事ないよ、でも出来るならやってみたいかも」

「おっ、乗り気じゃん。良いねぇやろうよ」

「私いつも学校近くの大きな公園のバスケコートでストリートバスケやってるから、暇な時に来てよ」

「良いなぁ、こっちじゃあんまやってる人少なくてさ」

「そうなんだ」


二人が仲良さげに喋っていると、母さんたちがやって来た。


「お邪魔しまーす...ってあれ?赤石くんもいんじゃん!」

「あ!そーすけおにーちゃんいるー!」

「あ、こんちわお母さん!藍那も久しぶり〜」

「顔見知りなんだ?」

「何度か(うち)来てんだ」

「へぇ〜」


五人全員が知り合いで、和気藹々と喋り倒した。

あっという間に文化祭終わりの時期で、母さんと藍那は赤石と一緒に帰っていった。


「じゃーなー長谷〜。大和さんも今度一緒にバスケしような〜」

「うん、三人とも気を付けて帰ってね」

「じゃな〜」


三人を見送った後、帰ってきたクラスのみんなと後片付けをして、文化祭後に行われるという後夜祭に備えた。

出欠席は自由で、毎年文化祭が終わった後にキャンプファイヤーをみんなで囲んで写真を撮ったり歓談したり、踊ったりと色々あるらしい。


行く気はなかったのだが、大和さんが少しだけ見ていきたいと言うので付き合ってあげる事にした。


「毎年毎年凄いんだって。キャンプファイヤーの火とか意外に大きいらしい」

「へぇ〜」

「ごめんね、付き合って貰っちゃって」

「いいよ、たまには」


俺と大和さんはみんなと少しだけ離れた場所からキャンプファイヤーを眺めていた。

すると、大和さんの友達が大和さんを呼びにきた。


「槐〜!こんなとこにいた」

「美咲。何?」

「もっと近くに行こーよ!ほらっ!」

「あっ...!ちょっと...」


大和さんが有無を言えずに友達に手を引かれて行ってしまったので、俺は口パクとジェスチャーで、


『ここにいる』


とだけ伝えた。

流石にこのまま一人で勝手に帰るのもと思ったからだ。

大和さんは頷いたので多分分かってくれただろう。



遠くから、先程の友達と喋ったり一緒に写真を撮ったりしている大和さんを少し微笑みながら見つめる。


(ふふっ、楽しそうだなぁ)


時折こちらを確認する大和さんがいちいちマメで可愛いなと思ってしまったのは、本人には内緒。


そんな時に、急に女子生徒が俺に話しかけて来た。


「あのっ!長谷くん...!」

「........?何?」


急に話しかけられたので少し態度は悪くなったが、何の用だろう?


「あの...今ちょっと時間...良いかな?」

「今?別に良いけど」


女の子は俺の隣に座って来て、顔を赤らめながら話した。


「あの...急なんだけど、私長谷くんのことが好きなの」

「...は?」

「ご、ごめんね急に...!でも本気なんだ...。私隣のクラスなんだけど、体育、長谷くんのクラスと合同じゃん?それで長谷くんの事目で追うようになっててさ...」

「........」


急な事なので話が入ってこないが、とりあえず何となくだけど大和さんの方を見た。

すると、大和さんも別の男子と喋っていた。


「それで、長谷くんって彼女いるのかな...?いなかったら、もし良かったら...私と...」

(何を話してるんだろ...)

「私と付き合って欲しい...!」

(大和さん...)


俺は隣の女の子の告白の返事もせずに、大和さんの方に走り出した。

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