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夏の樹  作者: 粥
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私の朝は、さしてそれほど早くない。

ベッドから起き上がってすぐに制服に着替え、長い黒髪に出来た寝癖を洗面台にて直していく。


ようやくリビングで両親と出くわす。


「おはよ、槐」

「うん」

「槐、ネクタイ曲がってるぞ」

「嘘...ホントだ」


先程鏡の前に立っていたにも関わらず、新聞を読んでいてこちらに目線を配っていなかったはずの父さんに注意された。

私は少しだけ悔しかった。


「槐、バスケもいいが勉強してるのか?」

「してるよ。そもそもそんなにバスケに肩入れしてないし」

「昨日は帰りが遅かったろ」

「あれは帰りにみんなでご飯食べてたから」

「ストップ。槐、お父さんは心配してるだけよ。お父さんは言い方が悪いわ、そんな言い方したら攻めてる様に聞こえるわ」

「む...そうか。悪い槐、怒ってるわけじゃない」

「分かってるよ、マーガリン取って」


朝からお父さんと喧嘩しそうになったが、母さんが止めてくれた。

認めたくないが、反抗期なんだろうな...。


「行ってきます」


私は玄関でリビングに向かってそう言って家を出た。

家の前でイヤホンをして、お気に入りの音楽を流す。学校へは歩いて行ける範囲に住んでいるので、学校へ行く間はずっと音楽を聴いているので、たまに後ろから声を掛けられても反応出来ない。


今日は誰にも声をかけられずに学校へ着いた。

教室に入ると、何故か誰もいなかった。


(今日の一限、もしかして...)


私は教室の前の掲示板に貼ってある時間割を見てみた。

すると、今日の一限は教室ではなく、パソコン室で行う事を思い出し、私はすぐに荷物を纏めてパソコン室へ向かおうとした。


教材を持ってパソコン室へ向かおうと教室のドアに手を掛けたところで外から誰かが開けたのか扉が自動で開いた。


「あっ...」

「........」


外から開けたのはクラスでぼっちの長谷くんだった。

長谷くんは急いでいる私を見て不思議そうな顔をしている。多分私と一緒で一限が移動教室だという事を忘れているタチだ。


「一限パソコン室だよ?急がないと遅刻するよ」

「え...そっか、そんなこと言ってたな昨日。ありがと」


長谷くんは聞いた後でもちょっとしか驚かず、大して焦る事も急ぐ事もせずにゆっくりと準備していた。

待つ気もなかった私は一人でパソコン室へ向かった。


「はぁ...はぁ...。...ふぅ...」


ほとんど最後みたいなものだったので席は後ろの方しか空いてなかった。

前の方だとプリントしたり先生に聞いたり楽だったのだが、まぁしょうがない。

空いている席へ座ると、ちょうどチャイムが鳴り響いた。それと同時に長谷くんもやってきた。

相変わらずめんどくさそうな態度と表情だ。


「長谷〜もっと早く来い」

「すんません」


長谷くんは席を探して私の横に立ってキョロキョロしていたが、私の席の隣以外空いていなかったので、勧めてあげた。


「ここしか空いてないよ」

「...みたいだな。悪い」

「別に大丈夫」


長谷くんをこんな近くで見たのは初めてだった。いつも自席のある一番前の窓際の席で肩肘つきながら外の景色を見つめている後ろ姿しか見た事ないので貴重である。


「あー...何か顔に付いてるか?」

「え...!?いや、付いてない。ごめん...」

「........?」


長谷くんの顔を見過ぎた。流石に気持ち悪かったな自分。

気を取り直して授業に集中した。


しばらくして、実際にパソコンを使って課題を提出するという話になって各自喋りながら、相談しながら課題に取り組んだ。

私はさっさと終わらせるために集中して一人で頑張っていると、横で長谷くんが躓いていた。


「んー...どうしたらいいんだ...?」


誰にも聞こえない様な小声で小さく呟く長谷くんは、頭を抱えてパソコンの画面を見つめている。

長い前髪が邪魔だったのか片手で前髪を乱雑にあげた。すると、今まであまり見た事なかった顔があらわになった。


「........!」

「意味分かんね...」


キリッとした目は二重で、鼻は細く高かった。今まで見えていた薄い唇が、その目と鼻によく似合っていて、控えめに言ってイケメンってやつだった。


と、まぁ確かに驚いたが、そんな事よりそこで躓いていては絶対この時間で課題は終わらないと踏んだ私はちゃちゃっと自分の課題を終わらせ、手伝ってあげることにした。


「長谷くん、そこはそれじゃなくてこの書式にすればプリント通りになる」

「え?...あ、ホントだ」

「良かったら教えてあげようか?」

「...良いのか?」

「まぁ、私はもう終わったし」

「ありがとう、........えっと」

「大和、大和 槐」

「大和。ありがと」


長谷くんはパソコンが苦手な様で、毎回パソコンを使う授業は四苦八苦しているらしい。


「じゃあ、パソコンの時間は私の隣に来れば?教えてあげられるけど」

「本当か?それは...割と助かるな」

「好きにしな」


という提案を持ちかけられるくらいには、この時間で仲良くなった。


長谷くんがどういう人間なのか、少しだけ分かった事があった。


クラスでぼっちなのは、特に必要ないと考えているかららしい。いらないわけでは無いのだが、積極的に動いてまで欲しいかと言われたらそうでも無いらしい。

何故前髪が長いのかというと、切ろう切ろうと思ってもなかなか切れないかららしい。

家族構成は母子家庭で、今度4歳になる妹がいるそうだ。とても可愛いらしいに違いない。何故なら妹を紹介している時が、一番長谷くんが楽しそうだったからである。


ほんの少しだけ、彼に興味が湧いたのは確実である。

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