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夏の樹  作者: 粥
19/64

十九

「上がりました〜」

「丁度ご飯も出来上がったから、ご飯食べよ」

「お〜」


美味しそうな匂いが湯気と共に部屋中に立ち上っている。

藍那ちゃんも箸を出すのを手伝い、私はお皿やご飯をよそっていく。

みんなで準備して、テレビを見ながら長谷くんの作ったご飯を食べて行く。


「あ、長谷くん袖にタレ付いちゃう」

「ん?おぉ...悪いありがと」

「今日はお母さん夜勤?」

「そ」

「そっかぁ、看護師さんって大変だね」

「仕様がないさ」


ご飯を食べ終わったので、私は帰りの準備を始めた。同時にそれを見ていた藍那ちゃんが如実に寂しがり始めた。


「おねーちゃんかえっちゃうの...?」

「うん、明日も学校あるしね」

「えぇ〜...とまってってよぅ...」

「んー...」


私は長谷くんの方を見た。


「迷惑じゃなければ、泊まって良いぞ?明日は文化祭だし、着替え取りに行って遅刻してもバレないだろ」

「んーそっか、というかそもそも明日は最初から行く気なかったし、泊まっちゃおうかな」

「やった〜!」

「明日行かないのか?」

「うん、藍那ちゃん達が来るの日曜だし、文化祭に興味は無いし」

「あ...そぉ...」


私の文化祭に対するやる気のなさに長谷くんが少し衝撃を受けていた。私が学校をサボる事がそんなにおかしかったのかな...?


私たちは布団を敷いて、藍那ちゃんを間に三人で雑魚寝して眠った。


「そか、大和さん行かないのか明日」

「うん、長谷くんは行くの?」

「んー...大和さん行かないし、俺も行くのやめようかな。夜勤明けの母さんに藍那の面倒見ろっていうのも酷だし」

「そっか、それならうち来る?」

「え?」

「いや、毎回毎回長谷くんの家で申し訳ないし、お母さんもゆっくり出来るんじゃない?」

「良いのか?急に」

「長谷家の話はちょこちょこしてるし、ていうか私の部屋以外使わないから大丈夫だよ」

「じゃあ...少しだけ...」

「ん、了解」

「んぅ...おねーちゃ...あしたどっかいくの...?」

「明日はおねーちゃんの家に行くよ、藍那ちゃんも」

「えへへぇ〜やったぁー...むにゃぁ...」


藍那ちゃんはトロンとした笑顔を見せた後、睡魔に負けて眠ってしまった。



朝起きて、今日はうちの学校は文化祭で現在11時。もうとっくに学校に行かなくてはいけない時間帯なのだが、私たちは今起きた。


「今何時...?わぁ、11時だ」

「文化祭とっくに始まってるな」

「友達から連絡来てる...まだ来ないの?って」

「待ってるのか?」

「今日は行かないって言ったのに...。まぁいいや無視しとく」

「酷いな」


とりあえず二人を私の家に招いた。

歩く事十数分で私の家に着いた。


「ただいま〜」

「おかえり〜あれ?どなた?」

「初めまして、長谷(はせ) 那月(なつき)と申します、こちらは妹の藍那です」

「あいなです」

「あらら〜あなたがいつも槐がお世話になってる長谷くん?ごめんねぇいつもいつも夏休みとか結構そちらにお邪魔しちゃったでしょう?」

「いえ、助けられてもいたので...」

「もういい?早く私の部屋行こう」

「ゆっくりしてってね〜」


玄関でつらつらと長話されない様に会話を打ち切り、私は二人を部屋に招いた。


「今クーラーいれたから涼しくなるまで待ってて」

「わざわざ悪いな、気ぃ使ってもらっちゃって」

「良いよ、いつもお世話になってるしこれくらいは」


三人でゆっくりしていると、母がおやつや飲み物を持って部屋に来た。


「おやつと飲み物よ〜」

「ありがとうございます」

「ありがとー」

「ちょうだい、こっち置くから」


母はおやつを渡し終えたのにまだ部屋に残った。


「あなた達今日文化祭じゃなかった?」

「あ、えっと...」

「行かないよ、面倒くさいから」

「あーそうなの?明日も?」

「明日は行く、長谷くんのお母さんとか藍那ちゃんが来るから」

「あらそーなの?私も行こうかしら、ご挨拶しなきゃ」

「え、大丈夫ですよ。うちの母はそういうの気にしないので」

「でも一度会わなきゃ。うちの娘とお付き合いしてくれてる子のお母さんだもの」


母はとんでもないことをいきなりぶっ込んで来た。


「付き合ってないよ」

「え!?そなの?いつも家に行ってるからそうなのかと...」

「ただの友達です...」

「へぇ〜?ふぅ〜ん?」

「な、何でしょう...?」

「本当にうちの娘に興味無いのかなぁ〜と思ってね?」

「お母さん」


私は今まで母に向けたことの無い様な目で母を見た。


「出て行って」

「え...ちょっ...槐ちゃん怒って...」

「出て行って欲しいと、お願いしてるんだけど?」

「...はい」


母はそそくさと私の部屋から出て行った。

一息つくと、長谷くんが藍那ちゃんの目を伏せながら私を見つめていた。


「あ...ごめん」

「良いけど、大和さんでも怒るんだな」

「他人を巻き込む事だったらね」

「なるほど、大和さんらしい」

「そうかな?」


長谷くんは藍那ちゃんから手を放してあげた。藍那ちゃんはキョトンとした顔で見て来たが、笑い掛けると笑い返してくれた。


「と言っても、暇だね」

「別に暇つぶしに来たわけじゃ無いけどな」

「何かDVDでも借りに行こうか?」

「そだな、藍那。好きなもん借りて良いぞ」

「やた〜!」

「暑いから帽子被って行こうね」


私は自分の帽子を貸してあげた。やはりぶかぶかだったが満足そうだったので、そのまま出かけた。

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