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夏の樹  作者: 粥
18/64

十八

夏休みが終わってから大分経ち、9月の中旬。今日は全日文化祭準備の日で、1時間目の時間から、掛かるクラスは20時まで学校を使って準備をしていいという日だった。


20時まで掛からないはずなのに、大体のクラスはダラけている、もしくはスローペースで進行していた。

そんな中、私と長谷くんは一つの机を間に向かい合って座り、教室の装飾を作っていた。


「今日は20時まで残れるんだって」

「そっか、まぁ残らないけど」

「藍那ちゃんもいるしね」

「今日は迎えに行く日だから、学校出てっていい時間になったらすぐ行かなきゃ」

「保育園だし、ちょっと遅くても預かっててくれるでしょ?」

「いや、そうなんだけど...」


長谷くんは少し暗い顔をした。


「なんかあったの?」

「藍那が3歳の時、中学卒業って事で打ち上げがあったんだ。でもその日は母さんが藍那を迎えに行けないから俺が頼まれてたんだ。でもみんなと居るのが楽しかった俺は、藍那の事なんか忘れて遊んでた」

「........」

「思い出したのは21時ごろで、迎えに行った頃には母さんが迎えに行ってて、家で二人で風呂に入ってた」

「うん...」

「藍那は誰も迎えに来なくて泣きまくったらしいし、俺も兄として不甲斐なさすぎて泣いた。だから二度と藍那を独りにしないって決めてる」

「そっか、それは...大事な事だね」

「だから、途中で帰ってもあーだこーだ言われない為になるべく働こう」

「そだね、頑張ろう」


ただ妹が可愛いだけじゃなくて、それなりの責任と覚悟があるのだと改めて痛感した。確かに一人はみんな嫌な事だ。


装飾品作りを終えた私たちは教室の隅でお喋りをしていると、クラスのまとめ役みたいな女子に話しかけられた。

内容は買い出しだった。


暑い中歩くのは嫌だったが、暇なのも嫌だったので私たちは引き受けて近くのホームセンターに向かった。


「暑いねぇ、いつこの暑さは引くんだろうね」

「でも前よりはマシになったな、30度超える日も少なくなってきたし」

「それでもたまにクーラーにお世話になるなぁ」

「まぁたしかに」


ホームセンターに着いた私たちは、頼まれた物を預かったお金で買っていった。


「水色、黒、白のペンキと〜、ガムテープと?」

「あと風船」

「あー風船か」


メモを見ながら私たちはホームセンターで揃えていった。

しばらくして買い物を終えて帰っていると、途中にコンビニがあったのでコンビニでアイスを買う事にした。


「何にしよかな〜」

「........」

「長谷くんは決まった?」

「二つで迷ってる」

「どれ?」

「これとこれ」

「あ、私も片方のそれで迷ってた。じゃあ私これにしよっ」

「え、でも他のと迷ってたんじゃないのか?」

「これにしたの、それに私が選んだら長谷くんどっちも楽しめるじゃん?」

「...そか」


長谷くんは何とか納得してくれて、私たちはコンビニ前でアイスを頬張った。


「冷た〜美味しいね」

「うん美味い」

「一口ちょうだい」

「ん」


私と長谷くんのアイスを交換して食べ合う。

もちろん長谷くんのアイスも美味しかった。


「さてと、そろそろ帰ろうか」

「おー」


アイスも食べ終わって私と長谷くんは二人で学校に戻った。

予想した通り大して進行は進んでなかった。

買ってきた物をクラスのみんなに渡した後、帰っても良いと担任から言われたので私たちは帰ることにした。


「意外に簡単に帰してもらえたね」

「結構貢献したしな」

「文化祭には藍那ちゃんたち来るの?」

「二日目に来るらしい」

「そっか、まぁそうだよね」


帰り道を歩いていつもの道で分かれようとしたところで、長谷くんが珍しく私を引き止めた。


「大和さん」

「ん?」

「あ...えっと...」


長谷くんは呼び止めたのに、一向に用を話そうとしない。


「どしたの?」

「あの...うち寄らないか?」

「は?」

「いや、嫌なら良いんだが。今日は母さんもいないし、藍那が寂しがるんだ。只でさえ人が少ない空間だから」

「あー...そっか」(何だそういう意味か...)


私は少しだけドキッとしたのだが、長谷くんの行動の理由を聞いて納得してしまった。


「じゃあ、お邪魔しようかな」

「ああ、悪いな。飯も食っていけ」

「うん」


長谷くんは私を家に招いてくれたが、その前に藍那ちゃんを迎えに行く。


「おねーちゃん!」

「おぉ〜帰ろっか藍那ちゃん」

「おねーちゃんきょうもうちくるの?」

「行くよ〜行っても良いかなぁ?」

「もちろんいいよ!」


藍那ちゃんの許可も取ったところで、私たちは三人で長谷くんの家に向かった。


「夕飯は何にしようか」

「昨日買った肉があるから肉野菜炒めにしようかな」

「良いね、野菜も取れるし」

「悪い大和さん、俺飯作ってるから藍那を風呂に入れてくれないか?」

「了解、美味しいご飯を期待してます」

「任せて下さい」


お互いに敬礼して、私は藍那ちゃんと一緒にお風呂に、長谷くんは台所でご飯を作った。


「おねーちゃんきょうとまるのー?」

「泊まる...かどうかは分からないけど、ご飯は一緒に食べるかな」

「やったー!」

「藍那ちゃん夜だから、しーっ」


お風呂場だから随分声が響いてしまったので、一旦藍那ちゃんを静かにさせた。


「おねーちゃんきてからあいなさみしーっておもうことなくなったんだ〜」

「寂しいって思ってたの?」

「おかーさんかえってこないひあるし、おにーちゃんだけだったの」

「あー」


他人の家庭環境に首を突っ込む気は無いけど、長谷くんの家にはお父さんがいない。それ故に、長谷くんのお母さんは女手一つで二人を育てなきゃいけない為に、育児に全力を注げない。

長谷くんの出来ることも高が知れている。


「藍那ちゃん」

「ん?」

「おねーちゃんは、ここにいても良いのかな?邪魔じゃないかなぁ?」

「じゃまじゃないよ?あいなはまいにちきてほしいっておもってるよ?」


藍那ちゃんは恥ずかしがることなく、真っ直ぐに私の目を見てそう言ってくれた。


「よしっ!じゃあいっぱいここに来て長谷くんや藍那ちゃんのお手伝いをしなくちゃね!」

「おてつだい?するー!」

「しよー!その前に体を洗おー!」

「あらうー!」


その後藍那ちゃんの体自分の体をさっさと洗った。

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