十七
夏休みが終わる一週間くらい前の話、私はいつもの公園に行き仲間とバスケをしていた。
暑い中、みんなよく動く。
「久しぶりだね、槐」
「梨沙さんこそ、お久しぶりです」
「夏休みだから、よく来ると踏んでいたけど。何か面白いものでも見つけたのかな?」
「別に」
「はは〜ん」
梨沙さんはニヤニヤしながらこちらを見てくる。私はこの顔が嫌いだった。
いつもの様にバスケの試合をしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おっきーこーえんだねぇ!」
「あまり遠いところに行くなよ?」
「うん〜!」
声のする方を見てみると、やはり長谷くんと藍那ちゃんだった。
私は試合が終わったところで二人の方に会いに行った。
「長谷くん、藍那ちゃん」
「あ、大和さん」
「あ!おねーちゃんだ!」
「二人で遊びに来たの?」
「うん、つれてきてもらった」
「大和さんはここで何してんの?何か汗だくだけど」
「私はバスケしによく来るの、いつもそこのコート使ってる」
そう言って私はさっきまでいたバスケットコートを指差した。
「へぇ、バスケ出来るんだ。すごいな」
「まぁ小さい頃から好きだったしね」
「よく来るんだ?」
「平日は学校終わって制服のまま来たりするかな」
二人ではしゃぐ藍那ちゃんを見ながら喋っていると、バスケ仲間がチラチラと見て来ていることに気付いた。
「良いのか?試合するんじゃないのか?」
「んーでもさっきもやったし、今は二人がいるから」
「あぁそっか、ごめんなわざわざ喋りかけてくれて、戻っても良いぞ?」
「え...あ...」
「ん?」
「いやあの...義理で喋りかけに来たんじゃなくて、普通に話したかったから喋りかけたんだけど...」
「え、そうなのか?」
「うん」
「そか...何かありがとな」
「うん...」
何故かとても気まずい空気が流れていると、藍那ちゃんが私に話しかけて来た。
「ねーおねーちゃん、あれなにー?」
「あれ?バスケっていうスポーツだよ。あのボールを、リングっていうあの高い所に付いてる輪っかに通したら点が入るの。最後に点数が多い方の勝ち」
「へ〜おもしろいの?」
「楽しいよ?やってみる?」
「やるー!」
「大丈夫なのか?あの中混ざって邪魔にならないか?」
「試合なんて危なくてさせられないよ、空いてるコートでボール触らせるだけ」
「そか、じゃあ俺も行く」
私は二人を空いているコートに案内して、ボールを渡して藍那ちゃんの好きなようにさせた。
一応女子用のボールを渡したのだが、4歳にはまだまだ大きかったみたいで両手でドリブルのような事をしていた。でも楽しそうなので良かった。
「長谷くんはバスケ出来る?」
「さぁな、よく分からん」
「体育でもやるよね?」
「体育は基本端っこにいる」
「そうなんだ...。じゃあもし体育でやることになったら一緒にやろうね」
「男女別々だろ多分」
「そっか...。じゃあ今一緒にやろ?」
「全然動ける格好じゃないんだけど」
「私もたまにスキニーパンツでやってるから大丈夫だし、そんな激しく動かないよ」
「まぁそれなら...」
藍那ちゃんにボールを借りて、私と長谷くんはコートの半分だけを使って1on1の試合をすることにした。
先行は長谷くん。
「じゃあ、行くぞ」
「うん、どっからでもどうぞ」
長谷くんもやはり男の子だ、ボールの扱いはまぁまぁ出来てる。
私の目の前に来て、左に抜き去ろうとしたところで右にクロスオーバーで抜けていった。フェイントが分かりづらくて反応が少し遅れた所をすぐに抜かれてしまった。
「おぉー、上手いね」
「わざと抜かせたろ」
「おにーちゃんすごーい!」
「株急上昇だね」
「おにーちゃん、だからな」
長谷くんはボールを私の方に投げた。
次は私の番で、私は長谷くんの前でドリブルを始めた。
「じゃあかっこいい所見せないと、ねっ」
先程の長谷くんと同じように左にフェイントをかけた。だが長谷くんの様に右に切り返さずに、瞬時に一歩後ろにバックステップしてシュートした。
ボールはリングに触れる事なくネットの音だけを立てて入った。
「おねーちゃんもかっこいい!」
「すげぇな...」
「ま、これくらいはね」
私も、やるからには全力でやりたいし。ていうか負けたくないし。
どんどんやりあって数十分後、二人とも汗だくで流石に疲れて終わりにした。
「ふたりともかっこよかったー!」
「ありがと」
「おう。にしても疲れたな...」
「そだね、普通にうまかったから私も本気でやっちゃった」
「藍那、帰るぞ。このままじゃ熱中症になる」
「うん」
私はまたバスケ仲間たちがいるコートに戻ろうとした時、長谷くんが引き止めた。
「大和さんはまだバスケするの?」
「え...だって二人とも帰るんでしょ?」
「まぁな、でもてっきり大和さんも一緒に来るのかと思ってた」
「あー...」
この夏休みで結構長谷くんの家にお邪魔したりしてたから、長谷くんの中ではそういうイメージになってるのかな。何にしろ少し嬉しい。
「じゃあ、お邪魔して良い?私ももう帰ろうかと思ってたから」
「うん、シャワー貸すよ」
「ありがと」
「おねーちゃんうちくるのー?とまれる??」
「んーどうかなぁ?」
私はまた長谷くんの家にお邪魔することになった。
家にはもちろん長谷くんのお母さんはいなかった。
「この夏休みで凄い長谷くんの家にお邪魔しに来てる気がする」
「別にそんな気負わなくていいけど」
「そう言ってくれるだけでも気が楽になるよ」
「少なくともここに住んでる全員は、迷惑だとか思ってないから。そこだけ覚えておいたら?」
「うん、ありがと」
また長谷くんの優しさに救われた。
そして私たちの夏休みは終わった。




