十六
台風のせいで家に帰るのが難しくなった私を、長谷くん達は泊まる事で改善した。
「おねーちゃんいっしょにおふろはいろー!」
「うん、一緒に入ろうか」
「良いのか?気付いたら溺れてるから常に見てないとなんだけど」
「大丈夫、目は離さないし、湯船に浸かってる時は抱っこしてるから」
「ん、じゃあ頼んだ」
私は藍那ちゃんと一緒にお風呂に入った。
「あいなねーずっとおねーちゃんとおふろはいりたいっておもってたの」
「そっか、ありがとね」
「うん、だからきょうおねがいがかなってうれしい」
「あはは...」
あまりにも真っ直ぐに言ってくるから流石に照れる。
「たおるくらげ〜」
「くらげ〜」
「みてみておねーちゃん、わかめー」
「お〜、私も出来るかな?」
「やってやってー」
いつもより長めのお風呂から上がると、藍那ちゃんに畳の部屋に案内された。
「ここがねるへやー!」
「おー畳だ」
和室のようなその場所には、人数分の布団が敷いてあった。
長谷家は仲が良いのか全員でこの部屋に寝ているようだ。
「布団で寝るの初めてかも」
「え、マジで?ベッド無いんだごめんな」
「んーんそういう意味じゃなくて、楽しみ」
「そか、みんなで川の字で寝る羽目になるけど良いか?」
「良いよ」
私たちはその後寝室で仲良く眠った。
藍那ちゃんが私にくっ付いて寝て来たときには、抱き枕と勘違いしそうになるくらい柔らかかった。
台風も次の日には過ぎていて、カラッとした良い天気だった。
起床したのは私が一番最後だったのか、藍那ちゃんが体の上に乗っかって起こしに来てくれた。
「おねーちゃんおはよぉ!朝だよ」
「う゛っ...!?はい、はい起きます...」
「藍那、人様の体の上に乗っかるな。ごめんな大和さん、おはよ。朝ごはん食べよ?」
「うん、作ってくれてありがとう」
私はまだ眠くてだるい身体を起こして、居間に出た。
長谷家のみんなは起きるのが早いらしい、長谷くんのお母さんが既に起きていて朝のニュースを眺めていた。
「あ、おはよ〜槐ちゃん」
「おはようございます。すみません最後まで寝てて...」
「良いよ良いよ、他人の家に一日いたんだから気疲れしたよね」
長谷くんのお母さんは優しくそう言ってくれた。
朝ごはんをみんなで食べていると、長谷くんのお母さんが長谷くんに髪を切ったらどうだと提案した。
「確かに、そろそろ切らなきゃな」
「お金あげるから今日切って来な」
「んーそうする。どこで切ろうかな?」
「私良いところ知ってるよ」
長谷くんが髪を切りに行くにあたって、私がいつもお世話になっている美容室を候補に挙げた。
「そういえばこの前そんな事も言ってたな」
「どうする?行く?紹介するけど」
「じゃあ、行く」
「了解、ここから近いから歩いて行こう」
「ん、じゃあちょっと行ってくる」
「いってらっしゃ〜い」
私たちは猛暑の中美容室を目指した。
「どんな髪型にするの?」
「とりあえず首回りがスッキリすれば良いかなって思ってるけど」
「じゃあこういう髪型は?」
私は長谷くんに似合いそうな髪型を携帯で検索して見せてあげた。すると、長谷くんは気に入ってくれたのかその髪型にしてくれるそうだ。
「良いんじゃないか?じゃあそれにする」
「うん、きっと似合うよ」
そんな話をしていると美容室に着いた。
店員は一人しかいなくて、40代くらいのおじさんだ。小さい頃からずっとこの店で切ってもらっていて、私とその人は仲が良かった。
「こんにちわ、急に予約してしまってすみません」
「良いよ、ちょうど空いてたし」
美容室のおじさんは長谷くんにどんな髪型にするかを聞くと、長谷くんは先程私が見せた写真を見せた。
おじさんはどういう風に切れば良いかを納得したところで、長谷くんの髪を洗い始めた。
長谷くんが髪を切っている間、私は店の端にあるソファに座りながら雑誌を読んで時間を潰す。
髪を切っている最中おじさんは長谷くんには話しかけずに私と喋っていた。
「二人とも今夏休み?」
「そうです」
「どっか遊びに行った?」
「いえどこにも」
「え〜学生だったらどっか行ったりしないの?」
「行きたい所は特に無いですね」
「そなの?彼氏くんはどっか連れてってあげないの?」
そう言っておじさんは長谷くんの顔を鏡ごしに見つめた。
長谷くんは急に話しかけられた事とその内容に驚いた顔をした。
「え、いや彼氏じゃないです」
「あれ?そうなの?僕てっきり彼氏にオススメだからって連れて来られたのかと思ったよ」
「違いますよ〜ただの友達です」
「そうだったんだ〜。槐ちゃんにもついにこんなかっこいい彼氏が出来たのかと思っておじさん泣きそうになったよ」
「かっこいいですけど、彼氏じゃないです」
「どっちかがどっちかを好きとかそういうのでもなく?」
「そういうのでもないです」
長谷くんが若干イライラしてる気がしたので、他の話題を投げて逸らした。
切り始めて40分ほどで写真の通りの髪型になった。
「おー似合ってる似合ってる」
「ホントか?それにしても、これ首筋スースーするな」
「暑そうだったもんねぇ」
「とりあえず、良いんじゃない?かっこいいよ」
「...そか」
私が素直に褒めると、長谷くんは恥ずかしそうにしてうなじを撫でた。
家に帰ると、藍那ちゃんと長谷くんのお母さんが長谷くんの髪型を見て好評だったので良かった。




