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夏の樹  作者: 粥
15/64

十五

「むずかしーね」

「ん〜...そうだね、私でも分かんないや」


私は今長谷家にて藍那ちゃんと一緒に間違い探しで遊んでいた。

これがなかなか難しく、高一16歳の私でも解けずにいた。本当に年少用か?この本は。


「何してんだ?二人して」

「まちがいさがしー」

「間違い探しー」

「へぇ、頑張れ」


長谷くんは自室から居間へと場所を移した。居間はクーラーが効いていて涼しいから移動したのだろう。

長谷くんの髪は大分長くなっていて、後ろで括っていた。私とお揃いだ。


「あっちぃ...」

「髪切らないの?」

「バイト代後もうちょいで出るし、そしたら切りに行こうかなって思ってる」

「なるほど、着いていこうか?」

「大丈夫...と言いたいところだが、頼んで良いか?一人はキツイんだ」

「了解、いつ行くか決まったら言ってね」


長谷くんは冷凍庫からアイスを出して、ソファに座りながらテレビを見た。ついでに私と藍那ちゃんは既にアイスを食べてしまっている。

冷房の効いた涼しい部屋に、4歳の女の子と自分と同い年の男の子と一緒にいる。

見ようによってはまるで夫婦だが、この家で安易にそんな事を言ってはいけない気がした。

まぁ、別に言うつもり無いけどね、恥ずかしいし。


「なーんか雲行き怪しいな」

「台風近付いて来てるみたいだね、まぁでも明日なんだよね。ここら辺に来るのは」

「母さんは大丈夫かな...」

「夜は怖いかもね」

「ま、早上がりして来るかもしれないし。ていうか、明日台風なら今のうちに買い物行っとかなきゃだな」

「私も着いて行くよ、大荷物になりそうだし」

「それは助かる」


私と長谷くんは、藍那ちゃんを連れていつも行くスーパーへ向かった。

時刻は夕方頃夕焼けが沈む中、蝉の鳴く声を聞きながら三人で歩いている。夕日によって引き伸ばされた影を見つめる。


「夕方でも暑いな...」

「でも今日の夜は結構気温下がるらしいよ」

「本当か?じゃあ、もう少しの我慢だな」

「どうでも良いけど、クーラー付けっぱなしで寝るのって、罪悪感無い?」

「少し分かる、うちはタイマー使ってる」

「良いなぁ、私の部屋のクーラー何故かタイマー付けてても消えないんだよ」

「壊れてんじゃないか?修理呼べば?」

「んーでも私夜そんなに付けないんだけどね」

「じゃあいっか」

「そだね」


そんな会話をしているとスーパーに着いた。

今日はシチューにすると言って、シチューの材料を買い、明日の分の材料を買ってすぐに家に戻った。


家に帰ったと同時に、急に雨が降ってきた。それも土砂降りの。


「うおっ、まじか」

「あらら、台風来ちゃったね」

「あめすごーい!」


洗濯物を干してあったのを思い出して、私と長谷くんは慌てて取り込んだ。

屋根があったとはいえ少しだけ濡れてる服があったので部屋干しすることにした。


「ギリギリだったね」

「だな、危なかった」

「おかーさんかえってこれるかなぁ?」

「こんなに早く降るとは思ってなかったから、降られて帰って来るかもな」

「お風呂沸かしとこっか」


恐らく濡れて帰って来る長谷くんのお母さんのためにお風呂を沸かすことにした。


15分後、長谷くんのお母さんが泳いで来たのかレベルの濡れ方で帰ってきた。


「どっひゃー!!降られたぜぃ」

「お帰り、はいタオル」

「あーりがとぅ!いやぁ〜今日降るとは思ってなかったなぁ」

「思いの外台風の進行速度が速かったんだな」

「大丈夫ですか?」

「あ、槐ちゃん来てたの?いやはや厳しいわ」

「お風呂沸かしてあるので入ってください」

「んーありがと!そのままうちに嫁に来てくれない?」

「あはは...」

「早よ風呂入れ」


雨に降られたとは思えないくらい元気に帰ってきた長谷くんのお母さんはお風呂に入って温まった。

そろそろ夕飯時という事で、長谷くんと私はシチュー作りに入った。


「夕飯って基本的に長谷くんが作ってるの?」

「んーまちまち、母さんが作るときもあれば俺が作るときもある」

「そうなんだ、いや長谷くんが作ってるところをよく見るから」

「まぁ、母さん仕事で遅くなるし必然的に俺の方が多く作ってるかな」

「看護師だっけ?大変そうだよね」

「まぁ、給料は高いだろうけどな」


温かいシチューを作って、長谷家のみんなとお喋りをしながら食べて行く。

何と心地よい食卓だろうか。


楽しい時間は過ぎていき、私はそろそろ帰ろうとした。

だが、


「雨、依然として強いままだぞ?」

「そうだね...」

「今日は泊まっていきなさい、危ないよ。風も強いし」

「でも...夕飯までご馳走になって、おまけに帰れないからいきなり泊めてと言うのも...」

「泊まっていきなさい、女の子を台風の夜の中帰らせる大人がどこにいますか」

「........」

「母さんもこう言ってるし、泊まっていきな」

「おねーちゃんといっしょにおふろはいるー!」

「...えと、では...お言葉に甘えさせて頂きます...」


私はその日、長谷くんの家に泊まることになった。

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