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夏の樹  作者: 粥
13/64

十三

「昨日はごめんね、無理やり食わせて」

「良いよ、美味しかったし。それに家にお邪魔した時点でご飯いらないって連絡入れておいたし」

「そうなの?」

「うん、だから大丈夫だよ。私も楽しかったしね」

「そう言ってくれると嬉しい、良かったらまた来てくれ」

「うん、お邪魔します」


私と長谷くんはそんな会話をバイト中に行なっていた。


同じ時間帯、同じ日のシフトである私たちは、今日もいっしょに働いた。それも長谷くんを立派にこの店で独り立ち出来るように教育する為だ。

と言っても、既にもう完璧に仕事が出来ているので、後は細かい事を他の人に聞きながらやればいいのだが。


「にしても飲み込み早いよね、驚いた」

「そうなのか?」

「うん、もう完璧だもん」

「細かいとことか、ちょこちょこミスってるよ」

「でも、小さいミスでしょ?凄いよ」

「あんま褒められると調子乗ってミスりそうで怖いからやめてくれ」

「ふふっ!ごめん」


やがて上がる時間になって、私たちはバイトを終えた。

帰りがけ、夏休みの話になった。


「夏休みは何処かに行くの?」

「んー、藍那が行きたい所に合わせて行く感じかな?」

「そっか〜あの年の子は行きたい所いっぱいあるんじゃない?」

「宿題さっさと終わらせて連れてこうと思ってる」

「同じタイミングで休みが始まるんだっけ?」

「そうだね、一応。早く来ないかなーって言ってる」

「ふふふっ、想像出来る」


途中、分かれ道に差し掛かったので私たちはそこでさよならをした。

長谷くんの方に背を向けて帰ろうとしたところで、長谷くんが私を呼んだ。


「そうだ、大和さん!」

「ん?」


長谷くんは私の元に駆け寄って来た。


「藍那が、おねーちゃんといっしょに花火見たいって言ってた。良かったら、今度の花火大会一緒に行かないか?」

「え...良いの?」

「うん、大和さんが良かったらだけど」

「行きます」

「じゃあ、そういうことで」


そう言って長谷くんは帰ろうとしたが、私は肝心な事を思い出した。


「ちょっと待った!どうやって連絡するの?」

「あ、そうだった。えっと携帯携帯...」


長谷くんと私はお互いにスマホを取り出して、連絡先を交換した。

そして私はある事に気付いた。


「え!?長谷くん、下の名前 那月(なつき)って言うの!?」

「ん、そうだけど」

「知らなかった...」

「言ってなかったっけか?」

「聞いてない」

「そか、藍那の那にお月様の月で那月と言います」

「どうも...」


なんか変な空気になったけど、長谷くんの名前を知れて良かったとは思う。

そんなこんなで、私たちの学校は夏休みに入った。



夏休みに入ってすぐに宿題を終わらせてやる事も無くなった私は、図書館に行って本を読む事にした。

町にある図書館には、基本的にお年寄りと子供しかいなかった。若い年層はやはり来ないのだろう。


入ってすぐに涼しい空調の風が、火照った私の体を冷ましていく、この感覚だけはいつ体験しても好きだ。

(しらみ)(つぶ)しに面白そうな本を探していると、聞き慣れた声が聞こえて来た。


「おにーちゃん!これ!あいなこれにするの!」

「これ前回も借りてただろ、他の本にしないか?」

「これがいーのっ!」

(藍那ちゃんと長谷くんだ)


私は二人を見つけると、駆け寄ってみた。


「長谷くん、藍那ちゃん」

「あ!おねーちゃんだぁ!」

「藍那声抑えて。久しぶり、大和さんも来てたんだ」

「うん、二人を見つけたから声掛けちゃった」

「おねーちゃんもほんよみにきたの?」

「そーだよ、何か面白いの無いかなぁ〜って探してた」

「じゃあこれよむといーよ!これおもしろいよ!」

「ん、じゃあそれを藍那ちゃんがあっちで読んでくれる?」

「いーよ!」


私はキッズスペースと呼ばれる子供用の絵本や椅子などが置いてあるスペースで、藍那ちゃんオススメの本を読む事にした。


「その間に長谷くん気になる本でも探しに行きなよ」

「え、良いのか?」

「良いよ」

「ありがとう」


長谷くんはどっか本を選びに行っている間、私は藍那ちゃんを膝に乗せて読み聞かせをした。


読み聞かせを終えた頃、ちょうど長谷くんも本を選び終えた様で、私たちの所にきてくれた。


「ちょうど終わったみたいだな」

「うん、良い本あった?」

「まぁね、そっちは?藍那のオススメはどうだった?」

「面白かった、考えさせられる内容だったかな」

「だろ」


長谷くんの口ぶりからして、私と同じ様にオススメされたということが分かった。

程なくして私も本を選んで、私たちは図書館を出てしまった。


「じゃあ、また今度ね」

「ん?ああ」

「えぇ〜...おねーちゃんいっちゃうの?」


藍那ちゃんは寂しそうな顔をしてこちらを見ている。


「いっしょにおうちかえろーよぅ...」

「でも、突然お邪魔するわけにも行かないし」

「いや、別に良いよ。親いるけど、大和さんが良ければ来る?」

「え...良いの?」

「やったー!おねーちゃんいっしょにかえろー!」


結局私は長谷くんの家にお邪魔する事になった。


長谷くんの家に着くと、長谷くんのお母さんがテレビを見ていた。


「おかえ...あ、槐ちゃんだ久しぶり〜」

「お久しぶりです、すみません急にお邪魔してしまって」

「良いの良いの、ゆっくりしていきなね〜」


長谷くんのお母さんは何かと緩い人なのかも知れない。

今はお昼時で、そろそろお腹が空いてくる頃、藍那ちゃんのお腹が可愛い音を鳴らした。


「おなかすいた...」

「ご飯何にしようか?」

「良い時間だし、食べに行こっか」

「そだな」

「あ、じゃあ私そのついでに帰りますよ」

「え、どして?」


この流れだと夕飯をご馳走されてしまいそうだったので、私は遠慮して帰る事にした。

のだが、みんな不思議そうにこちらを見ていた。


「あ、家でご飯用意されてるの?」

「い、いえまだですけど...」

「ほんじゃ、一緒に食べに行こう?」

「でも...私今日お財布持って来てなくて」

「子供に出させるわけないでしょ〜?ほらっ行くよ!準備して」

「あ、ありがとうございます」


私は勢いに負けて今日の夕飯を長谷くんの家族と共に外で食べる事になった。

もちろん美味しかった。

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