十一
「そっか、じゃあバイトうちでやるんだ」
「ああ、今日の5時から。初だな」
「今日なんだ?じゃあ私と一緒だね」
「そういえば、店長さんが大和さんに教えて貰えって」
「そっか、じゃあビシバシ行こうかな」
「お手柔らかに頼む」
「ははっ!嘘だよ、優しく教えます」
槐はケラケラ笑って長谷の背中をポンポン叩いた。
学校も終わったので、二人は一緒にバイト先へ向かった。
店に着くと既にちらほら客がいて、先に来ていた同じバイト先の人が作業をしていた。
「お、来た来た。大和さん...と?」
「長谷です、今日からここで働かせていただきます」
「あーなるほど!長谷くんね!よろしく〜」
「よろしくお願いします」
長谷は丁寧に先輩に挨拶した後、バイト着に着替えてホールに出た。
「似合ってるね」
「ありがと、大和さんも似合ってる」
「ありがと」
派手過ぎないタイト目のパンツに、黒い腰までのエプロン、黒いtシャツと全体的に暗め。女の子はもっと可愛い服がいいのでは?と長谷は思ったが、初日から生意気なことは言えないと口をつぐんだ。
「じゃあまずは、挨拶から。いらっしゃいませー!」
「いらっしゃいませ」
「んー...まぁいいや。ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
「うん、滑舌良くね」
「分かった」
槐や長谷の仕事は基本的に席への誘導、料理の配膳、片付けなどだった。
「とりあえず私が近くにいてあげるから、怖がらずにやってみよ?」
「ん...」
するとちょうどお客が来たので、長谷は接客しに行った。
「いらっしゃいませ、何名様で起こしですか」
「二人なんですけど」
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
長谷はお客さんを席へ誘導し、槐の元へ戻ってきた。
「バッチリだね。基本的に席が空いてたら、他のお客さんのすぐ隣じゃなくて一個開けるくらいで」
「わかった」
「後は呼び鈴なるまで待ってな」
「ああ」
しばらくして呼び鈴が鳴り、長谷は先ほどのお客さんの所へ向かった。
そんな感じで長谷は初めてのバイトを頑張っていった。
あっという間に22時になり、高校生の長谷と槐は上がる時間になった。
「「お疲れ様でした」」
「うん、お疲れ〜気を付けて帰ってね〜」
先輩に挨拶して、そのあとキッチンの店長達にも挨拶しに行った。
「長谷くん、今日大丈夫だった?」
「はい、大和さんがいてくれたので何とか...」
「そっかそっか、大和さんもありがとね!研修期間中は頼むよ!」
「はい」
二人はその後薄暗い夜道を二人で歩いて帰った。
「今日は疲れたでしょ?」
「うん、流石にちょっとね。大和さんもありがと、色々フォローしてもらった」
「教育係ですから、当たり前です。でも初めてにしては失敗もなく、積極的に出来てたのは凄いなって思った」
「そうか?そう言われると頑張れるな」
「そだね、シフトどうする?しばらく私と同じ日に入っとく?」
「そうだな、そうしとく」
途中で分かれ道に差し掛かり、槐はそこで長谷と分かれる事になった。
「じゃあ、私はここで」
「あー...おう」
長谷は何か言いたげな顔で槐を見ていた。それに気付いた槐は長谷に尋ねた。
「どしたの?」
「いや、いつも今来た道で帰ってんのか?」
「うん、一応」
「そんで、その道帰んのか?」
「うん、そだよ。何で?」
「そっか...。送るわ、危ないし」
「え?大丈夫だよ、いつも帰ってるけど何も無いし」
「良いから」
長谷は槐の家がある方の道を歩き出して、槐もそれに着いて行った。
「本当に大丈夫なのに...」
「いつも大丈夫だからって今日大丈夫ってわけじゃないだろ」
「心配しすぎじゃない?」
「友達だろが、心配くらいさせろ」
「...ありがと」
二人は槐の家を目指して再度歩き始める。
「バイトはさぁ、食費を浮かす為なの?」
「んー...まぁそれもあるけど、やっぱ親に金貰って服買ったりもしたくないってのがある」
「なるほど。まぁ多少の自由に出来るお金は欲しいよね」
「ようやく16になって、働ける歳になったんだしな」
「あれ?もう16?」
「ああ、五月に既に」
「えぇええええええ!?」
誕生日を祝いそこねた槐は、長谷のすぐ隣で絶叫した。
「うるさ...何?」
「五月だったんだぁ...いや祝い損ねたなぁ」
「いやだって、その時は俺と喋ってすらなかったじゃん」
「それもそうだけどさ...」
「しょーがないって、俺も自分の誕生日を家族以外に教える日が来るとは思ってなかったし」
「悲しくなるなぁ、間間に来るその友達情報」
「悲しいエピソードでは...」
「いや悲しいよ泣くよ」
「泣くなよ、そこまでと思ってないんだから本人は」
そんなやりとりをしていると、槐の家の近くまで来た。
「じゃ、ここで」
「あぁ、ここだったのか」
「うん、ありがとね」
「...じゃっ」
長谷は槐に背を向けて元来た道を歩き、自分の家へ帰ろうとした。すると、後ろから槐に服の裾を掴まれた。
「おっ...?」
「ちょ...ちょっと相談なんだけどさ...」
槐は恥ずかしそうに顔を赤らめていたが、夜なので暗くて長谷にはその顔が見えていなかった。
「れ、連絡先を...交換しない...?」
「連絡先?良いけど、今携帯充電切れちゃって...」
「あ、そなの?」
「うん、だからまた今度でいいか?」
「うん、まぁ今すぐじゃなくても良いかな」
「悪いな」
そうして二人は連絡先の交換をまたの機会にしてその日は別れた。




