ヒロム、カンストする
お読み頂きましてありがとうございます。
２話目以降はほのぼの系です。
お付き合いくださいませ。
魔竜・・・それは、最悪、最凶の組み合わせだ。性格は大人しいため、世界の脅威ではないが一度怒らせると一国が滅んだという伝説に事欠かない竜という種族。
そして、魔族の王でありながら、他の種族に降臨するがその過ぎたる力のため、寿命が短く、世界を破壊尽くすところまでいかない魔王。
その竜の頂点たる赤竜に何の因果か魔王が降臨してしまったのだ。魔族を率いた魔竜が力を蓄え、人類に戦線布告した。
人々は人族も獣人族も妖精族さえも共同で戦ったが、まさに指１本だけで暇つぶしのごとく滅ぼされ続ける日々だった。次第に人類は数を減らしていった。
それを憂いた神が異世界より転生者を迎い入れ、チートなスキルを与えて、パーティーで戦ってぎりぎり、互角に戦える。ただ、そこから、数年に及ぶ戦いが始ったに過ぎなかった。
・・・・・・・・・・・・
数年後、魔竜が油断したのか、異世界転生者が成長したのか、転機を迎えた。
魔竜が率いる魔族に対し、異世界転生者と人族、獣人族、妖精族の戦士達は、わが身を引き換えに魔竜以外の魔族を滅ぼすことに成功する。
そして、魔竜と異世界転生者の一騎打ちとなった。
「おい、いくぞ。この一撃さえ当たれば、この長い戦いを終えることができる。」
異世界転生者が呼吸を整え、最後の一撃を与えるその瞬間、無常にも、魔竜がブレスを吐くモーションが見えた。
「やばいぞ。防御だ。俺の盾の後ろに入るんだ。おい、ケンちゃん、なにを・・・『召喚』」
ケンちゃんは『召喚』スキルが使える。半径３００ＫＭ以内の一番レベルが高い生き物を呼び出すことができる。いつも、ここ一番という時に盾として、使ってきた。今回もそのつもりなのだろう。
しかし、魔竜とのこれまでの戦いで半径５００ＫＭ以内の生き物はすべて死に絶えた・・・はずだ。
奇跡的にも何かが召喚されてくる。・・・・目の前に、召喚されて現れたのは、よりにもよって人間が現れる。真っ黒いフードを被ったタダの人間だ。これでは、盾にもならない。これで、終わりなのか？
・・・・・・
俺は、保田弘。大学を卒業し、刃物会社に入社して５年が経とうとしていた。ある日、大阪に大地震が襲ってきた。
そう、阪神淡路大震災だ。俺はそのとき、偶々、名古屋に出張で来ていて難を逃れたのだが、両親の経営していた靴製造会社も、俺の勤めていた刃物会社も両親、妻、そして娘さえもあの大震災の火の海の中へ消えてしまった。
それでも、俺は、刃物会社で取得した特許と両親と妻が残してくれた保険金で会社を設立した。それも、結局は、うたかたの夢だったのかもしれない。
優れた刃物の特許だけで生きていけると思ったのが間違いだったのかもしれない。あのとき、軍需産業に特許を売り渡してしまえば、一生喰えるだけは残ったはずだ。
欲を出して、会社を設立したが経営能力も営業力も人並みの俺が、社会の企業相手に太刀打ちできるはずもなく、結局、十数年後、特許も金もなにもかも無くしてしまった。
唯一残ったのは、借金とこの何でも切れるこの刃物だけだった。
自暴自棄になった俺は、これでコンビニ強盗に入るつもりだ。刑務所ならば、借金取りにも追われないし、飯も食わせてもらえるだろう。
そして、コンビニの前に立った時だった。いきなり、周囲が真っ白に光ったと思ったら、足元が抜けて、落下しだす。爆弾でも降ってきたのだろうか。もうこれ以上無くすものなどない俺はそんな暢気なことを考えていた。
ああ、この速度で落下していたら、一瞬でぐしゃりで死ねるな。これはこれで幸せな死に方かもしれない。きっと、あの大震災の火の海のなかで死んでいくよりは、恐怖を覚えずに済むだろう。
落下は、唐突に終わった。いきなり、どこかわからない地面に立っていたのだ。目の前は真っ暗、いや視界に揺れているのは何だろう。俺はゆっくりと刃物を振りかぶり、それを切り裂いた。
視界に揺れていたものは、細かい光の粒子となって消えていった。その途端、全身を激痛が走った。まるで何十年も前に経験した成長痛のようだ。前と違うのは、手足だけでなく、全身や頭も痛いということだ。
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「ああ、魔竜が死んだ。やったぞ。俺達は勝ったんだ。あそこに倒れている功労者を祝福しに行こうぜ。」
黒いフードを被った男の傍に行くと、脂汗を流しながら、痛みと戦っていた。
「おい、ミカ、『治癒』と『回復』だ。いや待て。」
男を『鑑定』でみていると、凄い勢いでレベルが上がっていた。
「そうか、経験値は最後に殺した奴に入るルールだったな。どうも、レベルアップ痛で苦しんでいるようだ。流石に魔竜の経験値だ。既にあらゆる職業のレベルはＭＡＸまで上がり、さらに、各能力値が順番にレベルアップしているようだぞ。」
男が現れて、１時間が経過したときやっとレベルアップが止まった。同じように見守っていたミカが『上級回復』を唱えた。俺は、レアのＭＰ回復ポーションを男に飲ませる。
男は、「すまない！」といいながらポーションを飲み干した。あまりの急激なレベルアップのためＭＰが１％を切っていたから、凄い頭痛がしてたはずだ。
ん、日本語だ。この人間は日本から召喚されてきたのか？そんなことは、ないはずだ。ケンちゃんの『召喚』は半径３００ＫＭしか使えないのは、神から教えられた確定事項だ。
確率が低くても、異世界から召喚できるなら、必ず神が説明しているはずなのだ。
