初死亡
大差は無いけど始まりとキャラメイクを少し修正
広場へと戻ってきた。
幾つかあった露店で昼ご飯でも喰おう。
……………
……………
金が無い…
残った金は包帯でちょうど使い切ったんだった。
まだ日は高いしもう一回狩りに行こう。
門兵は相変わらず出て行く分には緩い。
今回は前回より深い場所まで来た。
前回とは違って最初から意識してアーツを使えるし森に近いが大丈夫だと思う。
草陰から今回の獲物をみる。
三匹のゴブリンが狩ったウサギを貪っている真っ最中だ。
ゴブリンの装備はスリング、盾と言うべきか木の板と言うべきか迷う物と手斧、何かの頭蓋骨で飾られた杖だ。
深いからか前より装備が良さそうだ。
スリングゴブリンと魔術師?ゴブリンは明らかに後衛だ。
唯一の前衛で堅いであろう盾斧ゴブリンを狙う。
《アーツ・狙撃者の心構えlevel1が発動》
「一つ!」
新調したジャベリンは真っ直ぐ飛んで盾斧ゴブリンの腹を貫通した。
「ギ、ギィヒイィ!」
「ギョボドゥ!」
「ゲゲギュァァア!」
スリングゴブリンがスリングに石をセットして振り回し始め、魔術師?ゴブリンが杖に額をあてながら瞑想を始める。
予想通りどちらも時間がかかっている。
もう一発いけるな。
《アーツ・狙撃者の心構えlevel1が発動》
「二ぁつ!」
スリングゴブリンの胸を狙い、再びジャベリンを放つ。
気のせいか錆びたものより正確に投げられる気がする。
『微風のベール』
魔術師?ゴブリンがゴブリン語で何かを叫ぶと何故か分からないが最後の部分だけは意味が分かった。
微風のベール?
名前からして風を使った防御か?
真っ直ぐ飛んでいたジャベリンが急に不安定になり、重量ゆえに完全には逸らされなかったようだが穂先の向きは変えられてしまった。
「ギュッ!」
ジャベリンの柄はボグッという鈍い音と共にスリングゴブリンを強かに打ち据えた。
「ギュエッ!
ギュギィ~グ。」
よろめいた拍子にスリングの石は別の方向に飛んでいくがスリングゴブリンはすぐに次の石を用意する。
「ちっ!」
やはり穂先でなければ仕留めきれない。
ボードシールドを左手に構えながら右手で三本目のジャベリンを投げる。
今度は魔術師ゴブリンだ。
忘れていたがゲームのお約束のパターンの一つとして魔術師は時間を与えるとヤバいと言うのは定番だ。
現想世界はどうかまだ分からないが、協会の試験の時見た他のプレイヤーの魔法は属性毎の特殊効果を持った矢を一本~五本撃ち出すというものだった。
【鱗鎧】【見切りの才能】【パリィ】の防御用能力とボードシールドがあるとは言え、同時に飛んでくる複数の矢はとても防ぎきれない。
ジャベリンを逸らす防御魔法もうざいし。
今度は風の幕諸共ぶち抜く。
「オウラアアアァ!!」
《アーツ・ピアーススピアスローlevel1が発動》
新しいアーツだ。
今日のセッションが終わったら今使えるアーツを解析班の人やウィキで調べないとなぁ。
ジャベリンは狙撃者の心構え程正確ではなく寧ろ普通に投げたぐらいだが遥かに力強く飛んでいく。
風の幕で少しぐらついたがしっかりと魔術師ゴブリンの体のに刺さり、柄も半分以上まで食い込んだ。
貫通した穂先は地面に突き立ち、力が抜けた足の代わりに魔術師ゴブリンを支えている。
声を発する間もなく死んだようだ。
だがジャベリンは品切れだ。
スリングゴブリンはそろそろスリングの加速が終わる。
ボードシールドを構えて全身を後ろに隠す。
スリングに充分勢いがつくとスリングゴブリンは僅かにスリングと手を光らせて石を放つ。
何らかのアーツか?
ゴブリンも使えたのか、あの手斧を投げたゴブリンも気付かなかっただけでアーツを発動していたのかも知れない。
真っ正面から受け止める、と腹をくくる。
そうすれば…
………………
………………
………………
あれ?
ボードシールドの一番厚い中心のラインに着弾した石礫はメキメキと音を立ててボードシールドを力付くでへし折り、その後ろの俺の左手を砕いた。
「ガッ!
グ…ググウウゥゥ…
た、盾スキルなんて取ってねぇじゃん。
俺は馬鹿か?」
弁慶の泣き所と言われる臑を打ったように痛い。
スリングゴブリンが再びスリングを振り回し始めたのを見て慌てながら茂みに飛び込んで伏せる。
茂みのなるべく真っ直ぐな枝を選んで添え木として包帯で折れた左腕を固定する。
その間にも頭の上を石礫が飛んでゆく。
仕方ない、賭けだ。
次の一発をやり過ごしてからショートスピアを投げる。
投げ槍系の能力が働いてくれるかも知れない。
覚悟を決めた瞬間、頭のすぐ上の枝を石礫が砕いた。
「今だああああああ!!」
大声で自分自身を奮い立たせて突っ込む。
投げ槍として扱われるかも分からないから少しでも近付かなくてはならない。
「グギュゥギョギョ!」
スリングゴブリンは俺が突っ込んでくると思わなかったらしく面食らってスリングの扱いを間違えた。
よし、せっかくの勢いがふいになりもう一度加速させるまでにさらに近付ける。
いっそのことショートスピアで直接突きかかった方が良いかも知れない。
「死んでたまるかあああああ!!」
いや、ゲームなのは分かっているが余りにリアル過ぎてたまに忘れる。
兎も角、猛威を振るったスリングゴブリンも槍に特化した俺との白兵戦では抵抗らしい抵抗も出来ずにあっさりと串物に加工できた。
ぽつんと生えている木に寄りかかった。
ステータスを表示する。
LP■■□□□
SP■■■□□
MP■□□□□
骨折左小手
【鱗鎧】【長柄武器の才能】【急所攻撃の才能】【槍の天才】【投げ槍の才能】【狩人の眼】【見切りの才能】【勘】
「ふう…あ~いてえ。
今まで投げ槍が大活躍だったけど、考えてみりゃあ、ただの投擲より専用の器具を使った射撃が強力なのは当然だよな…
魔法もあるのに遠距離攻撃に何の対策も無いってのもなあ…
余程の差がなきゃ【鱗鎧】で防げたらバランスが狂うし、【見切りの才能】【勘】【パリィ】の補助があってもでも素人がいきなり避けたり弾いたりなんて出来ないよあ。
……………
……………
……………
応急処置したのに骨折まだ良くなんないのかよ。」
しばらく患部を刺激しないようにその場にじっとしていたのが悪かった。
「グルルルルゥ…」
唸りながら正面の茂みから大型の狼が二匹、出て来た。
大型犬より二回りは大きく、毛皮は地面のような茶色に影のような黒い模様があり巧みに周囲にとけ込んでいる。
「うわ、ゴブリンの血の匂いかな?
まだ骨折した所良くないし、勘弁願いたいね。」
スリングゴブリンからショートスピアを抜いて二匹を正面に捉えたまま後ずさる。
(この際、ジャベリンは諦めよう。
自分の命すら分からないんだ。
運が良ければ後で回収できる。)
「ヴォウ!」
「え?」
右足首を後ろから噛まれた。
とっさに後ろを振り返ろうとした瞬間、正面から首と右手を、左からわき腹に喰いつかれた。
「ガフッ…ゴボゴボ…」
(ヤバい!
死ぬ!
イヤだ!
クソッ、せっかく生き残ったのに…
喰い殺されるなんてあのまま死んでた方がマシだ!)
……………
あれ?
死んだはず…
ああ、やっぱり死んでたか、証拠に俺の死体がある。
俺の体はわんこ達のランチになっている。
グロいなあ、中身が見えている。
良くこのゲーム、規制を通ったな
俺は今幽霊なのかな?
ん?
宙に文字が……
【貴方はゲーム現想世界内で死にました。
クリスタルの回収を待ちますか?
ペナルティーを受けますがマザークリスタルから復活しますか?
回収を待つ場合はそのまま待機、復活する場合はタイマーが0になってからマザークリスタルに触れて下さい。
※貴方は実際には死んでいません。
マザークリスタルへとワープしますか?
YES NO】
………?
………!
あ、そうだった!
強烈過ぎて本当に死んだかと思った。
いや~、喉元過ぎれば熱さも忘れると言うけどまさにそんな感じだね。
なんかジェットコースターに近いかな。
心臓に悪そうだが、ハイになるというか、まぁ悪くない。
とはいえ戦闘全体の話だ。
痛いのも死ぬのも負けるのももちろん嫌だ。
だがそれがなくては勝利に価値がなくなる。
だがゲームとは言っても死ぬのはつらい、今日は疲れたし、はっきり言ってキャラの能力にも問題があったと思う。
投げ槍も威力はいいし、重いから安定感がある飛び方をするが、数本しかないのは不味い。
百の力の一発より十の力の十発の方が汎用性が高く使い易いものだ。
そもそも索敵能力も無しに不意打ちされなかったのは運が良かっただけだった。
ゴブリンの不意打ちは急所ならば一発で死にかねないのだし、索敵能力は取るべきであった。
勝てないと分かった時に逃げてやり過ごす能力も冒険者ならあっても良いはず。
槍に特化した俺は領主軍の歩兵とかでひたすら目の前の敵と戦えばいい役割なら活躍できるだろうが、上官には絶対服従とかは性に合わない。
そもそも自由さに惹かれて協会に入ったのだ。
自由だからこそ自分達で何とかしなくてはならない。
申し訳程度にはサバイバル系もあったが、一人で何でも出来るような能力では無いのに一人で行動したのは不味い。
キャラ自体作り直そうかな?
とりあえず今日のセッションはこのまま復活せずにログアウトしよう。
明日のセッションまでにウィキや解析班で情報を集めて改めてキャラや方針を考え直そう。