はじめてのおでかけ
協会の玄関は扉は開けっ放しで巨人族でも通れるように大きく作られている。
中ではちょっとした体育館や食堂ぐらいの広さだ
奥のカウンターの脇には階段があり二階に繋がっている。
その二階通路が壁際にあるだけで吹き抜けから一階を見下ろせるように出来ている。
攻め込まれたら一階に射撃し易いようにと考えるのは考え過ぎか?
右側には隣の倉庫に繋がっているであろう通路がある。
倉庫への通路では普通の袋や血の付いた物騒な袋や小さな袋をやりとりしている。
左側には紙が貼られていて、何人かがそばで見ている。
依頼書だろうか?
真っ直ぐ奥のカウンターに歩いていく。
協会中の人がこっちを見てくる。
ヤバい、緊張する。
よく考えたら巨人族と飛行可能種族は別の場所に行ったし、俺はあの中で一番最初に試験を終わったんだった。
まさに先陣をきっている訳だ。
ここの連中もクリスタリアを見るのは初めてだろう。
そりゃあ注目されるな。
視線を感じながらカウンターまでやってきた。
畜生、動揺してる所見せるのは悔しい。
「協会の試験を受けてきた。
手続きは此処でいいな?」
あ、今絶対無表情だよ絶対。
「はい、そうです。
証しを貰っていますね。
渡して下さい。」
グルシャンから貰った木の札を手渡す。
「確かに。
……
階級は双葉からですね。
此方の紙の空欄を埋めて下さい。」
ふむふむ。
「この町は何という?
後、今日はいつだ?」
「え?
…エスパルティアで識神の二十日ですよ。」
種族 蜥蜴族と猿族がモデルのクリスタリア
名(名乗っているもの) フォルティドゥ
出身地 エスパルティア
年齢 0歳
誕生日 識神の二十日
特技 槍、投げ槍、調合
犯罪歴 無し
これで良いかな。
この現想世界の中では正しいし。
「ではこの珠に手を当ててこの紙には偽りは書かなかったと言って下さい。
一字一句でも変えずにです。」
その場で見破られるってのはこれか。
どんな仕組みなんだろう?
「この紙に偽りは書かなかった。」
数秒待つ。
「ありがとうございます。
後は我々が領主に申請しておきます。
後は交換センターでノートを受け取って下さ…あっ。
すみません、貴方はノートとタグを受け取って下さい。
ジェーン!
この人に双葉の一式渡して!」
右側の通路にいた職員らしき女の人が振り返って俺を手招きする。
周りより一回り小さい。
「これ。」
棘が一つ生えた縦二十センチ横十五センチの木の板と細い鎖に通して中に何か入れられる小さな鉄のプレートを渡された。
「ノートは刺せば分かる。
タグは死体代わり。
中に髪でも入れる。」
渡してそれだけ言うとじっと見てくる。
ジト目か…
…とりあえず髪をタグの中に入れる。
まだ見てくる。
…今すぐノートの棘を刺せってのか?
こっちも見つめ返す。
よく見てみると意外と可愛い。
…………
何故、顔を赤らめた。
「見つめてもだめ。
気持ちには答えられない。」
「何をどうしたらそんな結論に至るんだ…」
根負けして棘を刺す。
VRMMOだからか痛覚はだいぶ弱い。
するとノートがドクンと脈打った。
「面妖な…」
おっといけない。
一瞬自分の背中の面妖な物を棚上げにして人の物を面妖呼ばわりするジジイが乗り移ったようだ。
それはさて置き、ノートとは名ばかりの木の板に文字やゲージが浮かび上がった。
LP■■■■■
SP■■■■■
MP■■■■■
【鱗鎧】【長柄武器の才能】【急所攻撃の才能】【槍の天才】【投げ槍の才能】【狩人の眼】【見切りの才能】【勘】
「おお、ステータス表か。」
「…槍の申し子?」
「ジェーン!
人のステータス表を勝手に見てんじゃないよ!
お客さん、ノートはともかく、タグは完全に安心できる場所以外では手放さないで下さいね。
再発行は罰金ですよ。
タグはすぐ見える場所に。
この町の門の通行証だし、“代わり”に持ち帰る時に手間取るからね。
獲物は丸ごとでも買うよ、解体料貰うけど。
何が金になるか知らないなら金払って誰かに教わるなりうちの教本買うなりしな。」
奥から太ったおばさんが出て来た。
「いや、分かるからいらん。」
【狩人の眼】【勘】は戦闘や動物の獲物だけじゃなく採集にも役立つとキャラメイクの時に調べたし、【採集】はそのまんま、【調合】【応急手当て】は使う物を見分けたりするに使える。
【旅人の心得】も解体や山菜採り等広い分野に効果がある。
用事は済んだし、試験を終えたクリスタリアが増えてきたし、挨拶もそこそこに協会を出る。
そのまますぐ近くにある城門に行く
出て行く分には何も言われないようだ。
門兵はチラリと此方を見たからタグを確認したのかもしれない。
杜撰な気もするが。
そうして城壁を通ると次の城壁があった。
エスパルティアは丘の上にあって城壁で三重にも守られた城塞だった。
少ない前情報には人類を大陸の隅に追いやられ城塞を築いて引き籠もっているという事だった。
このエスパルティアはその城塞の内の一つなのか。
初日にしてはプレイヤーであるクリスタリアが少なかったが、城塞毎にランダムで振り分けられたのかも知れない。
全ての城壁を出てから振り返って見れば城壁に囲まれたエスパルティアは町というより砦のようだ。
距離はかなりあるし城壁に隠れて分からなかったが北東と南東を山脈に挟まれている。
距離があると言っても一人二人ならともかく、軍事的には無視できない。
この砦は強力な一体の魔物を止めるというより大軍を意識しているように感じる。
魔物の軍と言えばゴブリンやオークの類いか?
門兵に警戒されないように城壁から少し離れてから、左手に槍を右手に投げ槍をそれぞれ構える。
病的なほどリアルを追求すると公言するオプタティオ、街道とは言え完全に安全ではないかもしれない。
ゲームとは言っても好き好んで死のうとは思わないし、ゲームということを忘れそうになるほどリアルなゲームでは尚更死にたくない。
下手をしたら痛みが無くてもトラウマになるかも知れないし。
さて採集をしようと思ったが街道沿いにはめぼしい植物はない、流石に取り尽くされている。
動物は流石に街道には近寄らない。
街道から離れなければ収穫は期待できそうにない。
まあ、この街道、いや街道があるのは人類側だし、魔物側よりは安全なはず。
とはいえ森は町からそれなりに離れた所にある。
森の敵が強いのは相場だし、町と森の間の草原で活動しよう。
アリビティ【勘】を取得しているし、何となく歩く。
【勘】のお陰だろう。
さっそく当たりだ。
養生鈴蘭 花は幸運の御守りとして扱われる。葉はすり潰すと粘ついた緑の軟膏になる。軟膏と言っても大した薬効は無いが、止血に使え、僅かにある毒素が傷口からの感染を防ぐ。容易に手に入るので怪我したらとりあえず塗る。葉の毒性は弱いので問題無いが根には濃くある。濃縮すれば血液毒になる。
黒花紫藍 紫色の球茎を地下に持つ。栄養が物質的にも魔法的にも豊富、含む毒は神経毒で加熱処理すれば毒素は壊れて食べられるようになる。同時に栄養も壊れてしまうので只の栄養の多い食べ物になるが慎重な温度調節をすれば滋養の効果がある。花には毒素の他に呪毒を持つ。呪毒の種類は怨鎖で土に帰った死者(人に限らず)の生への執着を吸い上げて精製している。
スキルを色々試させる為か多機能な草だ。
血液毒や神経毒に分かれているということは解毒方法も違うのか?
当然違う。毒の症状も主に血液毒は全身の痛みと吐き気と特に酷い頭痛、神経毒は全身の弛緩と意識が朦朧として時に幻覚、共通して痙攣だった筈。解毒薬は血液毒が木蓮、神経毒が油穂から作れる。呪毒はしばらくは魔術師系や錬金術師にお任せだな。
……………
……………
無い知識があるのはスキルのせいか?
他には一切干渉しないと言いつつこれは記憶への干渉じゃないのか?
「GMさーん。
記憶に手が入っているみたいだけどどうなの?
そこんとこ。」
《記憶には干渉していません。思い出したように錯覚させているだけです。》
……まあ、事なかれ主義の政府の検査を通ったんだし大丈夫とは思うが。
む、とうとう第一村人…では無く第一獲物発見だ。