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チュートリアル?



ふっと意識が覚醒する。



「おお、起きたか。

ハッピーバースデー、クリスタリア。

名はあるか?」


目の前に角を生やして石でもバリバリ食いそうなご立派な牙のブルドックがいる。


「わああああ!!」



「わああああ?

クリスタリアの命名センスはよくわかんねぇな。」


「あ、いや、違う。

……フォルティドゥ。」


ふっふっふ、学生以来ひさしぶりに開いた辞書から一晩中悩んで選んだ名前だ。


結構キマってるんじゃないか?


「へー、長げぇな。

ま、後ろ見て見ろよ。」


実は会心のできだったのに…


後ろか…


「おお~。」



今居る部屋は丸く、天井がとても高い。


中央に巨大なクリスタルが安直されていて、そのクリスタルから雪のようにはらはらと結晶が降ってきている。


その結晶は地面に近づくと肉体を生み出して纏っていく、中身が見えてグロい。


下は地獄絵図、上は結晶がキラキラと輝いて心が洗われそうというおかしな光景だ。



起きるには個人差があるようでなかなか起きない奴は下敷きにならないように端に運ばれている。



何となく運んでいる人や話している狼男は「違う」と分かる。


狼男の言葉から恐らくクリスタリアかそうでないか、つまりプレイヤーかそうでないかという事だろう。


中央のクリスタルがマザークリスタル、俺達クリスタリアの根幹何だろう。


「ホレ、起きたんならサッサと出んかい。

ハルガルもサボってないで働け。

報酬無くて良いんなら好きなだけくっちゃべってりゃええがな。」


「クソジジイが、アンタこそ腰はいいのか?

帰って孫でも甘やかしてろ。」


「甘やかすために今稼いで居るのじゃ。」


しばらく軽口を言い合う二人をほっといて部屋から出る。



すぐに外に出た。


この建物は中はほとんどあのマザークリスタルの部屋になった塔になっている。


「街並みは中世ヨーロッパ風だけど衛生は江戸か、まあゲームとしても映画やドラマとしても糞塗れ何て嫌だけどさ。」


マザークリスタルの塔は広場の中心にあり、広場は町の中心にあって道が放射状にのびている。


もっとも大きな道は恐らく領主の住居であろう館と城門へと続く道だ。


広場には同じだと感じるから分かるクリスタリアと普通のNPCが混ざっている。


NPCは違うと感じる以外はプレイヤーと同じに見える。


クリスタリアを興味津々で見ているのは筋肉ムキムキだったり刃物持っている怖い人だ。


一般人のような人は広場の外からチラチラ見ている。


とりあえず広場中にいる数少ない怖くない善良市民っぽいお姉さんに話し掛ける。


「あ、すいません。

ちょっと道聞いていいですか?」


「あら、ご丁寧に。

……あの塔からだしクリスタリアよね?」


「そうです。

あの、初心者でして、どうしたら良いんでしょう?」


「クリスタリアという事はさっき生まれたばかりなんでしょう?

まあ、まずは協会か兵団詰め所にいって戸籍登録をするべきね。

ほら、旗を持って立っている人の所よ。

鎧と盾に同じ紋章を書いてあるのが兵団の人、そうじゃないのが協会の人なの。

どっちでも好きな方についていけばいいわ。」


「ありがとうございます。」



お姉さんから離れると二つの集団を観察する。


旅をしたいから兵団は無いが気になる。


協会は巨人族であろう二メートルを超える男が胡座で座っている。(座った状態で二メートル越えだ、なに食ったらそんなんになるんだ。)


マントの上からロングボウを背負った猫耳のキリッとした女性が巨人族の男の肩に座って機嫌悪そうに旗を持っている。


巨人族の横では蜥蜴族の女性とエルフ族の男性がそれぞれハルバードと凄そうな杖を掴んで目を閉じて座っている。(瞑想?)



兵団の方を見れば、右に全身鎧に盾と騎兵用の槍を持った馬族が三人整列していて、左にはウォーハンマーやフットマンズフレイルを背負い防具は胸当てと籠手だけの鬼族の女性が一人と男性が二人。


馬族は微動だにせず、槍は真っ直ぐ天を指している。


一方鬼族は酒を飲んでいる。


おい鬼、協会側に行った方が似合っているんじゃないか?


ちなみに鬼族の女性は態度だけでなく体型もわがままだ。


宴会での振る舞いからして女性が鬼族の中で一番地位が高そうだ。



兵団の中央には全身を鉄板鎧(隙間からチェインメイルが見える)で覆い全身が隠れる長方形の盾と長剣を持ち、腰にメイスを下げた人が整列している。


…いつか他のセッションをやるような事があったら兵団に入るのもいいな。



今回は協会側について行こう。


近づくと話し声が聞こえてきた。



猫族の女性がイライラしながら呟く。


「ったく、にゃんで新入りの勧誘やら案内あんにゃいやら、こんな雑用を受けたんだよ?他にもっといい条件のもあったハズだぜ?」


エルフ族の男性が返す。


「クリスタリアがどんな者達か、気になりませんか?

イファ、こう考えるんです。

案内して貰えば大抵は好意的に感じます。

つまり新しい種族の事を知り、恩をうって、金を貰えると。

さらに私達が一番最初に彼らと交流するのです。

有望株は引き抜いてしまえるかも知れません。」


猫族の女性はイファと言うのか。


「そうは言っても、クリスタリアってのは今日生まれたって話しじゃねぇか。

自分で歩ける所か話せるなんて大したもんさ。

けどよ、未熟すぎて有望株などうかなんてまだまだわかんねぇよ。それともアンヘル、手前が精霊に聞きゃ教えてくれるのか?」


エルフ族はアンヘル。


「そう急ぐこともあるまい。

今のメンバーで行き詰まっている訳でも無い。

目につくほどの才を持つ者がいればでいい。」


蜥蜴族の女性だ、女性だけど凄くかっこいい声をしている。


「う~、暇にゃんだよ。

退屈だしよー。」


「グルシャンのように落ち着きがあれば、子供扱いされなくなりますよ。」


ふむふむ、蜥蜴族はグルシャン。


「率先して子供扱いしてんのはお前じゃんか!!」


「おい、俺の上で爪をたてんな。

アンヘルもあんまりからかうな。」


「すみませんね、ナラン。

ほら、イファ、お詫びのしるしです。」


巨人族がナランというのか。


「え!?

にゃー!!

蜂蜜パンにゃー!!

やったやった♪

フフフフ。」


仲間だけでなく集まったクリスタリアからもクスクスと笑いが漏れる。


イファの耳がピクリと動いた後、顔を赤らめながらマントのフードで顔を隠した。


見せ物じゃないなんて言いつつも蜂蜜パンは手放さない。


俺も近くに腰を下ろした。



「おーい!

これで全員だ!」


さっきの狼男が塔から出てきた。


「そうか。

んじゃいくぞ。

クリスタリア、協会に来る奴は俺達について来い!!」


ナランが広場中に聞こえるように大声を出してから動き始める。



言われたように後に続くと城門を入ってすぐの場所に領主の館のようにデカい建物が幾つか集まっている。


「城門のすぐ横が倉庫だ。

まあ、協会ので俺達が使うには金がかかる。

買取もしてるから取ってきた物は此処で売る。

商人に直接売った方が高く買ってくれる時もあるが、ここいらは物騒だからな。

商人自体が少ない。

それに商人も協会に目を付けられたくないし、通した方が確かだから直接は買いたがらない。

貴重な物なら別だがな。

倉庫の横が本館だ。

ここで依頼を受ける。

依頼の報告で嘘吐くのはお勧めしないな。

その場でバレるぞ。

依頼には階級があっては種、双葉、若木、樹木、大樹、花、果実だ。

自分の階級以下しか受けられない。

チームは特に無い勝手に組め。

自分より上の依頼は受けられないが相手が頷けばついていこうが自由だ。」


一旦きるとナランは振り返る。



「さて、今からお前らの階級を決める!倉庫の向かいが訓練場だ!

試験中は意味不明だろうと指示に従え!

以上!」


巨人族だからかナランの声はデカい。


訓練場に行くと試験が始まった。


俺達獣人系は広場で持久走や短距離走をさせられたり、重量上げ等体力をみているようだ。


飛行可能な種族は上で鎖で吊られた輪をくぐりながらタイムを計ったりしている。


精霊系や魔人族は広場での体力テストの他に魔法テストをしていた。


猿人は魔法を使えていたが、俺は使えなかった。


魔法に関係していそうな頭も猿人の混ざった部分だったんだけど、魔法関係のアリビティもスキルも無いのが理由か?


「人造種族というから身構えていましたが…

確かに全体的に高い水準ですし並外れて優れている者もいますが、全員が全員超人的という訳では無いのですね。」


「でもカケラさえ無事なら何度にゃんどでも生き返るらしいじゃにゃいか。

それだけで十分超人的だと思うけどにゃ。」


「しかし現状を変えるほどの存在でしょうか?

魔物の数は何千万かわかりませんし、人類より強力な魔物もほとんどです。」


「それは大陸全体だ。

実際に一度に相手するのは遥かに少ない。

それに達人は皆死線を越えてきている。

しかし生きるか死ぬかというのは普通は一回限りで失敗すれば死ぬが、クリスタリアはカケラがあれば再び挑める。

クリスタリアは他の人類より多く達人を輩出はずだ。」


「確かに、それに寿命が無いのも大きい。

実際エルフ族や魔人族には永い時間を費やして常識を破った者もいる。

皆さん、次は特技を披露して頂きます。

そうですね…其方の蜥蜴族のハーフの方、槍を持っているという事は槍が使えるのでは?

その案山子を突いてみて下さい。」



俺!?

先陣をきるのは少し……


「にゃに言ってんだ…

今日生まれたんだぞ。

無茶言うにゃ。」


「む…そうですね。

やっぱり…」


「あ、いや、俺、槍なら使えますよ。」


「え?

そうにゃのか。

じゃあお願いするよ。」



フウ、と一息吐いてリラックスする。


武器だろうと拳だろうと直前の脱力が重要だ。


槍を案山子に向ける。

とりあえず喉の位置を狙う。


足で一歩、体ごと加速し、腰を捻って上半身ごとさらに加速 、槍を両手で突き出した。


穂先が藁の中に潜り込み断ち切っていき、芯の棒に当たり、微妙にずれていたから棒を貫通はせず、半分ほどの深さの切れ目を作って通り過ぎ、再び藁、そうして反対側に飛び出す。


うん、やっぱりスキルやアリビティはすごいな。


普段から槍を振るっているかのようにスムーズにやれた。


案山子とはいえ喉を狙うイメージで突いたし【急所攻撃】の類いの効果もあるかもしれない。


「「「「…」」」」


四人が黙った。


何か失敗したかな?


「えっと、どうですか?」


「……蜥蜴族は長柄武器が得意だったにゃ。」


「初めてでここまでの者は蜥蜴族とはいえそうは居ない。

…天才か…

おい、名は何だ。

クリスタリアは今日生まれたと聞いたが?」

グルシャンが問い掛ける。


「はい。

フォルティドゥっていいます。

槍触ったのは今日が初めてです。

あ、でも【長柄武器の才能】と【槍の天才】と【槍術】があるので。」


アンヘルが身を乗り出す。


エルフの長耳が興奮によりピクピク動いている。


これでエルフ男じゃなくてエルフ女だったら良かったのに。


「その言葉…

あなた達がマザークリスタルに蓄えられた情報を一部持って生まれる事は知っています。

しかし、まさか、あなた達は才能を自由に選んで生まれる事ができるのですか!?」


「そ、その通りと言うか、種族とか貰う情報も選べたよ。」


「聞いたか?

思い通りに天才として生まれてこれる。

クリスタリアにとってカケラによる不死性に匹敵する特性ですよ。

そちらの方、貴方はとても速かったですね。

何か才能を選んだんですよね?」


「えーと、足にはアリビティの【追跡者の足】と【スタミナ】と【健脚】、スキルの【短距離走法】と【忍び走り】を…

何するにしても速いに越したことはないと思ったから…」


「いいね!

計画的に才能を持てる!

素晴らしい!

王都の堅物どももやるじゃないか!!」

クールだと思っていたエルフが素を出して喜び始めた。


急な変貌には結構驚く。


その後もアンヘルは片っ端からビルド(アリビティ、スキル、能力値等のコンセプト)を聞き出していった。


「はあ~…

ふん!!」


グルシャンがため息を吐いた後、槍の穂先の反対側でアンヘルを容赦なくど突いて止め、テストを再開する。


穂先の反対側とはいえ石突き(鉄で補強されている構造で穂先が使えなくなった時の予備や凪ぎ払いの第二撃に使う)でだ。


ちょっと血が流れているが気のせいだ。


きっとアンヘルさんがトマトを持っていて、それが潰れたんだろう。


「さて、テストの続きだ。

えーと、フォルティドゥだったかな?

他に特技は無いか?」


【投げ槍の才能】【見切りの才能】【投槍術】【パリィ】による投げ槍と武器防御を披露すると

「お前は双葉だ。

生まれたてなのが心配だが、その技量ならちょっとした荒事なら大丈夫だろう。

雑用をしながら体を鍛えたり技を磨くよりも、さっさと実戦経験を積んだ方がいいだろう。」

木の札を貰ったし、本館に行こう。



……



アンヘルさんが倒れたままぴくりともしていない事なんて俺には見えないな。

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